終わりたい子と嵐山3















テレビの中で今日も誰かが死んでいた。
なんということだろう、俺は今日も生きてしまった。
代わりに死ぬなんて、そんな大層な存在にはなれないけれど、でも死ぬべきはその人じゃなくて俺なんじゃないだろうか。





「やぁ、しとど」

先輩に、ましてやA級で広報もしている人間に声をかけられて無視できるほど俺は図太くない。
俺は少しだけ頭を下げる。

「お疲れ様です、嵐山さん」

直ぐにその場から離れようとしたけど、それは許されなかった。
腕をぎゅっとつかまれる。
俺の存在が確かにそこにあると言われているようで、俺は体を強張らせた。

「待ってくれよ、少し話さないか」
「……はい」

俺なんかが話し相手になれるわけもないし、嵐山准を楽しませるような話もできないのに。なんて思ったけど、口にはできなかった。
口にして、気分を害してしまうのが怖い。
自販機前のソファーに座るように促されて、仕方なしに腰を下ろす。
嵐山准は自販機で何かを買うのか、自販機に向かった。

「今日はいい天気だな」
「…そうですね」

なんだこの話すことがないような、会話は。
やっぱり俺なんてつまらない存在で、ああ嵐山准の時間を無駄にしている。死にたい。
今日の任務の時にトリガーが壊れていて換装体に攻撃された瞬間死んだりできないだろうか。
換装体の時は痛覚がないから、痛くない。だから痛くない状態で死ねるなら、かなり理想的だ。戦闘の末、死んだとなれば世間体も悪くないし、誰の迷惑にもならない。

「ほら」
「ありがとう、ございます。あの、お金」
「それっくらい気にするなって」

温かいココアを差し出された。
それをおずおずと受け取る。正直ちっとも喉が渇いていないので、いらないが断る勇気はなかった。
嵐山准はスポーツドリンクを買ったようで、隣にどさりと座ってそれを開封して飲んでいた。
俺は開封する気にもなれず、ココアを手の中で遊ばせる。

「しとどは、ボーダー楽しいか?」

嵐山准が半分ほど中身が減ったペットボトルを傍らに置いてそう口にした。
ボーダーは遊ぶ場ではないし、楽しいなんておかしいと思う。
そう思ったけど、俺は嵐山准の顔色を窺って、頷いておいた。

「楽しいです。隊長にも、よくしてもらってます」

100点満点の答えではないだろうか。
思ってもいないことを口にする自分と、嵐山准に気を使わせていることに自己嫌悪して、また自分が嫌いになった。

「そうか…じゃあ次は、もっと楽しそうな顔で言ってくれ」

その言葉に、ぎくりとした。
俺がロボットのように顔をこわばらせると、嵐山准は苦笑いを浮かべた。
俺の心の中を読んだような言葉に、恐怖を覚える。
この人はなんで俺に話しかけてきたんだろう。
同じ隊でも、同じポディションでもないし、年も全然違うのに。
関わろうとしてくる人なんていなかったので、この人にどう対応したらいいのかわからない。
俺なんかに関わっても時間の無駄にしかならないのに。
俺が何も言えないでいると、そろそろ時間だなと嵐山准は呟いて立ち上がった。
そうだ、この人は俺なんかと違って忙しい人だ。さっそく時間の無駄に。
俺は慌てて立ち上がり、お疲れさまですと、頭を下げた。
その頭を優しく、撫でられる。

「俺はしとどと話せて楽しかったよ。また話そう」

そんな気遣い、いらないのに。
嵐山准は優しい人だから、気を使ってくれている。
俺がちらりと様子をうかがうと、嵐山准はスマホを取り出した。

「というか連絡先教えてくれ」
「あ、いや、その、俺は……」

俺の連絡先なんていれても、メモリの無駄遣いだと思った。
しかし直接的に言うわけにもいかず、今時スマホを持っていないなんていう言い訳もできず、俺はしどろもどろになる。
嵐山准はそんな俺を笑って待つ。
俺にしては珍しく、大分渋ったが、結局負けた。
連絡先を交換して。嵐山准という名前が俺の電話帳に並んだ。

「また連絡する」

嵐山准はそう言って走って行ってしまった。
俺はそれを見送って、スマホへと視線を落とす。
『あ』がつく知り合いはいないので、電話帳の一番上が嵐山准になった。
まさか、こんな有名人と交換することになると思わず、俺はまじまじとそれを見つめる。
嵐山准は優しい人だから、吹き飛びなんてしている俺がきっと不憫に見えるんだろう。だから声をかけてくれる。俺がしたくてしていることなのに、時間を無駄にさせてしまって本当に申し訳ない。
死にたい。

そこでブルブルとスマホがバイブしてびっくりした。
メールを受信したようで、開けば、渦中の嵐山准だった。

『明後日、時間あるか?』

内容を読めばなぜか食事に誘われていて、俺はそれをどうやったら当たり障りなく断れるか、画面を睨みつけて悩んだ。








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