出水とともだち


出水は実家前提で、ママをねつ造してます。








凍てつくような寒さから解放されて俺はコートや手袋もそのままにリビングに置かれた炬燵に滑り込んだ。

「流れるような動きでしなやかに炬燵にインしたしとど選手!」
「おいしとど!手くらい洗え!」
「もう無理〜」

するっと我ながら感動する動きで炬燵に入ることができた。
手袋やコートを炬燵に入ったまま脱いでいると、くすくすと笑いながら出水ママがやってきた。
その瞬間だけ俺は炬燵から出て正座で頭を上げる。

「あ、あけましておめでとうございます。今年もぜひよろしくお願いします」

俺にとって出水の家はもはや実家同然だ。今年もぜひ俺のことを可愛がってほしい。
出水ママは笑ったまま「あけましておめでとうございます、今年もよろしくね」と返してくれた。
よしこれで安泰だ。
俺はするっと流れるようなフォームで再び炬燵にインする。
炬燵潜り選手権とかあったら俺優勝できる気がする。
出水ママが炬燵に飲み物と橙色の塊を置いた。俺の目がきらりと光る。

「みかん!流石出水ママわかってらっしゃる!」
「ちょっとは遠慮しろよな…」

手を洗った出水がコート脱ぎながらやってきた。
その手に持っている洗い流さないハンディウォッシュの存在に、やっぱり出水はなんだかんだ優しいなぁと思った。
ありがたくハンディウォッシュで手を除菌して、みかんに手を伸ばす。
俺の大好きな橙色の熟れたみかんだ。
出水も隣に座ってみかんを手に取る。

「え、出水白いところ取る派なの?うわー神経質、女の子に嫌われるやつー」
「うるせ」

出水が細かく白いところをとりはじめたのを見て俺は引いた。うわーそことるんだぁ…。
そこに栄養価があるのに、分かってないやつだな。
皮をむいたみかんをぱかっと割ったところで、先ほどの事を思い出してまた笑いがこみ上げてくる。

「いやー驚きの凶率だったよね」
「だな。笑いすぎて腹いてーし」
「三輪の顔めっちゃうけた」
「人のこと笑ってたお前も凶だけどな」

先ほどまで三輪・米屋・奈良坂・辻そして俺の17歳組で初詣に行っていた。
全員の運試しでおみくじを引いたら俺・三輪・奈良坂・辻が凶だった。しかも三輪は大凶。
どんだけ運がないのかと笑ったら、その後お神酒をもらう際に三輪はお神酒の中にゴミが入り、淹れなおしてもらったら神主さんの手元がくるって手にかかっていた。踏んだり蹴ったりすぎる。
新春から三輪が笑い神に憑かれていて俺の腹筋が死んだ。こればかりはみんな笑っていたが。
来年受験だからみんなで初詣にいけないのかなぁと思うと寂しい。米屋がそもそも三年に進級できるのか怪しいけど。

「出水なにお願いしたの?」
「あー…安泰な生活?」
「じじいかよ」
「うるせー。じゃあお前は何なんだよ」
「俺?」

みかんを口に入れようとしてそう言われて俺は力強く答える。
目下願いなんて1つしかない。

「そりゃ太刀川さんに勝つ!」
「ハハ、しとどには無理だろ」
「無理じゃないし!こないだ太刀川さんとやっときに一本取れそうだったし!太刀川さんにひやっとしたって言ってもらえたし!」
「マジかよ」
「マジだよ」

お前いつの間にそんなに成長したんだよと驚く出水に俺は得意げに笑う。
いつも10本やって全部負けるけど、この間は本当に惜しかったのだ。
太刀川さんにも成長したなぁって言ってもらえたし、今年こそ1本、いや2本くらいとれるかもしれない。

今度こそみかんを口に入れた。
じゅわっと広がる汁に、甘いみかんの味。
無意識にふわりと笑みがもれた。

あー炬燵でみかん、さいこー。






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