当真のクラスメイト4











当真がペントハウスを登ると先客がいた。

「お…?」

珍しい。
当真は構わずそのまま梯子を登りきった。
先客は壁に背を付けて座り、外音を遮断するようにヘッドフォンをしてゲームをしている。
当真は迷わずそのヘッドフォンを奪った。

「先客がいるなんて思わなかったわ」

ヘッドフォンを取るとこちらに気が付いたのか、ちらりと当真を見る。
しかし、直ぐに画面に視線を戻してしまう。

「おーい無視すんな」
「……リーゼントとか粋がり過ぎて逆に怖いわ」
「あ?」

小柄でひ弱そうな男が呟いた言葉は、当真の神経を逆なでするには十分な言葉だった。
長袖のパーカーから出る手首は掴むだけで折れそうで、首も女かと思うほどに細い。
いかにも弱者の彼が発言するには、いささか挑発的な言葉だ。
当真じゃなければ一発殴っていてもおかしくない。

「喧嘩売ってんのか」
「素直なもんでつい」

当真が凄んで見せても、そもそも彼は当真の顔を全くおらず、声音にも反応することなく淡々と返してくる。
単に関わりたくなくさっさと会話を切りあげたいのだろうけれど。
当真はふっと笑みを零す。

「お前面白いなー」
「大丈夫です、一般人です」
「意味分かんねーよ」

その隣に勝手に腰を下ろす。
嫌がって当真から少し離れて座り直すので、当真はそれをにやにやしながら追いかけて詰めて座った。
いかにも嫌そうな顔をしてくるので、当真は楽しくて仕方なかった。
勝手にPSPの画面を覗き見る。

「何のゲームしてんの」
「ちょ、どっか行け。俺は身長165センチ以上の知り合いはお断りなんだよ」
「それすっげぇ幅狭過ぎだろ」

高校生にもなって165より低い男子なんてほぼ居ない。
女子だって165を超えてくる奴もいるわけで、あまりにも幅が狭すぎる。
そもそもこんな時間に屋上でゲームをしているあたり、知り合いを作る気持ちが無さそうなのでお断りの決め文句なのだろうけれど。
当真の肩元ぐらいにしか頭がない相手を見下ろす。

「まぁお前確かに小柄だわなぁ。制服着てなかったら小学生と間違えてた」
「死ね。初対面だけど一回死んでこい」

初対面で物騒な奴だ。
当真はそれが面白くてニヤニヤ笑う。
パーカー姿なのは、制服が似合わないからだろうか。

「絶対うちの学ラン似合わねーだろ」
「なんなの?常識ないの?初対面のくせに俺のことディスりすぎだから」
「お前もな」

貶しているのはお互い様だ。
当真は背中を壁に預けて空を見上げる。
今日は快晴で、うってつけの昼寝日和だ。

「授業出ろよ」
「そっくりそのままお返ししますけどー」

隣でカチカチと音がするのでまたゲームを始めたのだろう。
こんな天気の中、外でゲームをするなんて、健全なのか不健全なのか判断に困る。

「何でサボってんだよ」

そもそも今は3時間目の授業中のはずだ。
ぱっと見、当真と違って不良には見えない彼が此処いることに多大な違和感を感じた。
聞いているのか、聞いていないのか、返事は返ってこない。

「俺はボーダーだからさっき任務終わったばっかりで眠てーんだよ」
「聞いてないのに語りだしちゃったよこいつ」

その突っ込みに、聞えてんじゃねーかよとひとりごちる。
それにしてもこいつ遠慮がない。
遠慮がないと言うか、昔から傍にいるような喋り方をしてくる。

「初めて喋った気がしねーな」
「あ、そうですか」

当真がそう零すが、向こうはぴんときていないようであっさり流される。
この野郎と、当真は視線を向けた。
ずっとPSPに視線を落としたままの存在の名前を口にする。

「しとど」

するとしとどは当真へと漸く視線を向けた。
怪しむ様な目をしてる。

「なんで俺の名前知ってんの」
「そりゃいつも教室でヘッドフォンしてゲームしてんのしとどくらいだからだよ」

朝来てから、休み時間全て、授業中ですら時々ゲームをしてる。
一日中誰とも喋らずゲームをしてるため、クラスからかなり浮いていた。
ボーダーに入りリーゼントの当真も浮いている自覚はあるが、それと同じくらい一般人であるはずのしとどは浮いている。
かといって苛められている様子はなく、むしろ話したそうな顔をしている連中は多いが、しとどは全てに関わる事を厭うようでいつもヘッドフォンをしていた。

「なに驚いた顔してんだよ。俺がクラスメイトの顔覚えてるのがそんな以外なわけ?」
「そっちもだけど、同じクラスだったんだと言うことすら」
「お前なぁ……」

当真は呆れる。どれだけ他人に興味がないんだ。
それと同時に当真は愉快さを感じていた。

「ゲーム好きか?」
「三度の飯より好きだよ」
「だからしとどガリガリなんじゃねーの?」
「うっさい!成長期これからだから!」

どう見ても伸びる可能性は感じないし、背の伸びたしとどは見たくない気がする。
当真が「そりゃねーな」と否定すると、しとどの気に触ったのか足を蹴られた。
しとどが見た目通り非力なせいか全く痛くない。

「ていうか名前呼び止めろし」
「ヤだね」

相手の要望をはいはいと聞いてやるほど、当真は良い子ではないのだ。
むしろ、自分のしたいことだけをする我儘なタチであることは自覚している。
当真はにやにやとしとどを見下ろす。

「俺は構うと決めたらとことん構うタチなんだよ」

しとどが心底嫌そうな顔をしていて、当真はそれを見て満足した。







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