唯我のオサナナジミ3










しとどが深々と頭を下げる。
多分しとどが頭を下げる理由の99%は唯我にあると思う。

「いつも本当にすみません」
「いや別に、唯我が役に立たないことぐらい知ってるし」
「ちょっとぉ!?本人の前でっていうか、本人が居ない所であっても、まるで僕が全く隊に貢献できていないみたいな言い回しは止めてください!しとども!」

任務開始早々にベイルアウトをした唯我だが、大体いつもそんな感じなので出水も全く気にしていない。今日はいつもより長く持った方だなとか、今日ははやかったなと思うぐらいだ。スポンサーだからといって庇う気は全く、さらさら、ない。
出水の期待していない態度に「ですよね」と相槌を打つしとどに、唯我は憤慨していた。
しかし地団太を踏まれた所でこっちはぽかーんだ。
現にしとどは冷ややかな目をしていた。

「は?尊が役にたったなんて話し未だに聞いたことねーけど」
「唯我それが現実だ、受け入れろ」
「人権侵害にも程がある!」

人権を主張する前に、実力を示してほしい。
出水としとどがばっさりと一蹴すると唯我は唸った。
そして「ごほん」と空気を入れ替えるように態とらしく咳払いをする。
分が悪いと察したようだ。

「ところで、しとど、この後」
「あー!!!」

唯我がしとどに向き直りきりっとした顔で話しかけたところで、何かが凄い勢いでしとどに突撃してきた。
しとどは、流石鍛えているだけあり、かつ身長が然程変わらないせいか、全く揺らぎもしなかった。

「駿」
「しとどさん!」

乱入者は緑川だった。同じ草壁隊としてかなり親しくしている様子で、しとどは可愛がるように目元を和らげる。
「お、かわいい」と出水は普通にそう思った。
普段唯我と居るところばかり見かけるせいか、必然的に冷たい顔をしていたり、眉間に皺がよってばかりだ。その為、そういう何気ない仕草はあまり見かけない。

「あ、いずみん先輩達もちわっす」
「おー」

緑川に挨拶を返す。唯我は自分が飛びつかれた訳でもないのに人一倍吃驚した顔をしていた。
そんな唯我を放って、草壁隊の小さい二人は話を始める。

「しとどさん、どうしたんですか?今日任務無い日ですし、昨日予定聞いたら家の都合があるって話しだったじゃないですか」
「終わったからちょっと身体動かしにな」
「え!じゃあ俺と模擬戦してください!」

緑川はえらくしとどに懐いているようだ。迅に接するそれと似ている。
その内踊り狂うんじゃないかと思いながら、唯我を見れば唯我は何とも言えない不満そうな顔をしていた。
出水は噴き出して笑う。分かりやすい独占欲だ。

「駿と模擬戦?」
「やってください!俺、しとどさんとやりたいです!お願い!!!」

しとどの腕を引いてお願いを連呼する緑川に、しとどは少し思案している様子だ。
模擬戦をするなら自分の隊の人間より、別の隊の人間とした方が効率がいい。ランク戦の準備にもなるし、個人のポイントもあげられる。
だから悩んでいるのだろう。

「ちょっと待ったぁ!」

そこへ唯我がついに耐えかねたように大きな声を出した。
緑川としとどは、嗚呼まだ居たのか的な顔をしていた。哀れな後輩だ。

「僕が!先にしとどと話をしていたんだ、君は遠慮したまえ!そもそも身体を動かしたいと言うなら僕が模擬戦をしてあげても」
「尊との模擬戦はつまらないから嫌だ」
「しとど!?」

唯我と戦った所でしとどが勝つ事は目に見えているし、まぁ勝てるのは万に一つ…兆に一つ…いや、唯我がしとどに勝てる見込みは無いな。出水は唯我の勝算を考える事を止めた。
おまけにしとどと唯我はポイントに差があり過ぎる。勝った所で大したポイントも手に入らないので、しとどの得になる事が何一つないのだ。
消去法なのか、しとどは緑川に顔を向けた。

「駿、いいぜ。模擬戦行こう」
「っ、やった!!!」

出水は緑川の内心の「勝った」という言葉が聞えた気がした。
慌てたのは唯我の方で必死にしとどの名前を呼んでいる。

「しとど!」
「じゃあ、出水先輩。失礼します」
「嗚呼、まぁお前の事だから負けるわけねーだろうけど、頑張れよ」
「ありがとうございます」

同じシューターとして、どうせなら勝ってほしい。
戦い方が容赦ないのと、緑川とならば勝ち越せるだけの実力があることは重々承知しているが一応先輩として激励しておく。
しとどは出水に頭を下げてから、緑川を連れて仮想戦闘ルームに向かった。

「しとど!」

唯我の呼びかけは完全に無視しているようだ。
姿が見えなくなった所で、出水は唯我に視線を落とす。
膝を抱えてしゃがみこみ泣いていた。
それを慰める気は全くないので、冷やかに見下ろしながら、出水は唯一、唯我をすごいと思える点を口にした。

「唯我、お前のその全く挫けない心は、俺すげーと思ってる」
「全く嬉しくないです……」







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