当真のクラスメイト3 ※佐鳥時枝米屋出水三輪は同一の普通校メンバーと仮定しています とーまに差し出されたイチゴ味のポッキーを直接口でくわえたところで、俺は偶々それを目撃してしまい不意打ちに思わず噴き出す。 「ふっ」 「ん?」 窓の外を顎でしゃくって、俺はポッキーを折って手に持つ。 前の席の椅子に反対向きで、俺と対面する形で座っていたとーまが窓の外を向いた。 「佐鳥、顔から転んでる」 「ぶはっ、マジだ!阿呆だなー」 とーまがげらげらと笑う。 俺も窓から見下ろしながらにやにやと笑う。 顔から見事に転んだ佐鳥は数秒倒れたまま静止し、その後がばっと立ちあがった。 必死に左右を見ている所から誰にも見られていないかを確認しているようだ。 残念ながら上から二人目撃している。 「佐鳥って期待を裏切らないよね」 「分かる」 ポッキーをさくさくと食べながら佐鳥のその様を見守る。 見ていて飽きない後輩だ。飽きないというか、裏切らないと言うか、お約束は一通りやってくれるというか。 素でそう言う事が出来る奴はすごいなと思う。だって面白いことしようとしなくても面白い事が出来るんだから。別に面白い人間になりたいわけじゃないけど。 「しとど、お前さー」 「ん?」 「わりと年下好きだよな」 「え、いや、嫌いだけど」 ポッキーをまとめて三本咥えながらとーまがしみじみと呟いた。 それに思わず冷静に否定してしまう。 俺の何処をどう見たら後輩が好きに見えるんだ?そもそも後輩どころか、とーま達もそんなに好きじゃないけど…。そんなこと言ったら荒船先生にぶっとばされるから言わないけどね。 「でも、可愛がってるだろ?」 「そうかなー?普通にラインは既読スルーとかするけど」 「それ俺らにもやるだろ」 「……Ça se peut」 「日本語で言えよ」 言われてみれば既読スルーは誰にでもしているかもしれない。 俺がまめに返事をする相手と言えば、三輪と辻ちゃんと二宮さんぐらいかも。 後の人間はまぁスルーしてもいいぐらい大体どうでもいい内容というか、それってそもそも俺に意見求めるなよ的なものばっかりっていうか、そんなことより俺はゲームがしたいわけだった。既読スルーも仕方ない。 俺の対人欲求は、歳下同い年年上、全てに対して「放っておいてほしい」という感じで。そもそも構われたくない。そっとしておいてほしい。 「お前勉強できないくせに外国語は喋れるんだよな」 「強制されると抗いたくなるタイプ」 「荒船にそれ言ったら殺されるぞ」 「………Que miedo」 荒船先生って俺に異常に厳しい気がする。もっと優しく接してほしい。真綿にくるむように接してほしい。 とーまのポッキーを勝手に奪って食べながら、窓の外へと視線を再び向けると、人間が増えていた。 「時枝と出水と米屋だな」 「時枝、佐鳥の埃はらってあげてる…。時枝って態度がイケメンだよね。女の子にモテそう…うらやましい。リア充爆発してほしい」 「なに想像で後輩爆発させようとしてんだよ、自分がモテないからって心狭すぎか」 「うっさい!とーまの馬鹿!」 勝手にモテない認定をするのはやめてほしい。確かにモテないけど。 ムカついたので俺の机の上に置かれた残りのポッキーを全て手刀でたたき割っておいた。 とーまが何か抗議してきたが右から左に聞き流す。俺、間違ったことしてません。 「出水は顔良いよね。そこは許す」 「お前わりとメンクイだよな」 「見目は大切だ。でも、リア充はだめだ」 「難しいリクエストだなおい」 出水の顔が悪くないのは認めよう。 というか、俺はとーまの言う通り顔が良い奴が好きだ。ゲーマーというか、ただのオタクなので、アイドルとかも結構好きだ。 そういう括りで、出水はわりと好印象。そこから何かあるわけじゃなくて、愛玩的な意味でね。 「米屋は?」 「クラスの人気者でいざというときに頼りになる同級生キャラ」 「……お前いまなんのゲームしてる?」 「FPSの合間にシュミレーションゲーム」 「それが原因だ」 影響は少なからず受けているとしても、ボーダー隊員は結構シュミレーションゲーム向きだと思うけど。米屋とか絶対にゲームにいそう。荒船先生もいそうだなってよく感じる。 全員とは言わないから、嵐山隊だけでもシュミレーションーゲームにしたらかなり売れるんではないだろうか。少なくとも俺はまず先に佐鳥を攻略するな。佐鳥が攻略できますってパッケージに書かれてたら謎の使命感をおぼえる。 階下で集まる後輩たちの頭を見ながら、俺はぼんやり呟く。 「三輪来ないかなー」 「お前、三輪本当に好きだな」 「うん、だって可愛いもん」 「温度差な。佐鳥が聞いたら泣くぞ」 「おーおー、泣けばいいさ」 「うわー、嫌な先輩だなー」 なんだろう、ふざけた髪形しているとーまには言われたくない。 そう思いながら俺はくわっと大きな欠伸をもらす。 あー、ポッキー食べてお腹一杯になったせいか眠くなってきた。 「取り繕わないといけない後輩とかめんどくさい」 別に好かれたいわけじゃないし。 好きじゃないなら絡まなければ良いだけだし。 どうしても仲良くなりたいとか、そういうのよくわかないので、俺からすれば御機嫌とりは面倒だなとしか言えない。 俺が迷いなくそう言うと、とーまは何とも言えない顔をした。 「まぁ…良い顔しまくるしとども想像できねぇ」 「でしょー?」 にこにこにこにこしてる俺とか怖いよ。ロボットかよ。 俺と言えば常にきりっとしてカッコいいと評判の顔をしているからね。あ、嘘じゃないからね。本当にそういう顔してるから。 「いつも大体ふざけた感じの顔してたわ」 「どういうことだおい」 ふざけた顔ってなんだよ。 俺は机の下でとーまのご自慢の長い足を蹴る。 とーまはにやにやと笑って全く痛がる様子が無かった。 くそー、いつか絶対そのリーゼント刈ってやる。 |