三輪とオサナナジミ







学校からボーダーへ向かう。
今日は米屋は追試の結果が思わしくなく先生に呼び出されている。
おかげで二人きりだ。
夕陽の中楽しそうに今日あったことを話すしとどに三輪は穏やかな時間を過ごしていた。
しとどがいるだけで暗い事を考えずにすむ。
昔からずっと一緒にいた存在に安堵しながら、三輪は鞄から一枚のディスクを取り出した。

「しとど」
「なにー?」
「これ、借りたがっていただろう」

しとどは最初何のことか分からず首を傾げていた。
パッケージはない。
ただのレンタルのケースに入ってしまっているからだ。
三輪はディスクを見えるように持ちかえた。

「あー!見たかった映画!」

盤面を見て、しとどは嬉しそうな声をもらす。
しとどがこれを見たいと零していたのを三輪は耳にたこが出来るくらい聞いていた。
いつも冷静に流しているように見せかけていたが、実は最近はこれを借りるべく何度もレンタルショップに足を運んでいた。

「すごい!どうしたの?俺いつレンタルにいっても借りられてて、借りられなかったんだ」
「偶々行ったらあった」
「うれしい!秀次好き!」

あくまで偶然見つけたのだと言うと、しとどは信じて疑わず、三輪に抱きついてきた。
三輪は腕の中にいるしとどに見えない様に口元を綻ばせる。
これほどに喜んでくれると三輪の最近の努力が報われる。
しかも抱きつかれて三輪はかなり満足していた。

「うちで見るだろう?」
「うん!」

危機感の無い返事に少し不安にも思うが、今は流すとしよう。
しとどはぱっと三輪から離れる。
名残惜しさもあるが、引きとめて変に思われたくはなし、ここは外なので三輪も引きとめはしなかった。
しとどはいそいそとスマホをとりだす。

「陽介にも声掛けよ」
「ちょっと待て」
「へ?」

スマホをがしっと掴んで阻止する。
ラインの画面は起動していたが、フリックしていないのでセーフだろう。
吃驚しているしとどに三輪は言い聞かせる。

「陽介はいいだろう」
「なんで?陽介も見たがってたよ?」
「いや、陽介は、いいだろう」
「え?なんでなんで?」

全く分かっていないしとどに三輪は先程の嬉しさが塗り替えられていく。
分かっている。これが嫉妬だという事も。米屋としとどの間にそのような感情が無い事も。
けれど面白くないのだ。
最近は行動するとなると、三輪としとどの二人ではなく、三輪隊になってしまっている。
ただでさえ同性で、しとどはド天然で、前途多難なのに益々仲間意識が芽生えては困る。

「秀次?」

不思議そうなしとどに三輪は溜息をつく。
分かってない。全く分かっていない。
しとどはそういう奴なのだ。ド天然で、幼稚園の頃からわいている三輪の好意に一瞬たりとも気付いた事がない。

「いたっ!?」

八つ当たりでしとどの頭を叩く。
分かっている。他意が無いから責められない。
流石に子供の様に喚く気は無く、もう勝手にしろと三輪はスマホから手を離して足を動かした。

「なんで叩くのさ!」

後ろでしとどが非難の声を上げて慌てて追いかけてくる。
この鈍感!と怒鳴りたいのをぐっとこらえた。

「あ、分かった!」

しとどが声を上げる。
分かったというが何が分かったのだろう。三輪は既に期待する事は諦めている。
残念なことにしとどの「分かった」は、99%の確率で分かっていない。

「これホラー映画だから、陽介に怖がってるところ見られたくないんでしょ!」

やっぱりか。三輪は脱力する。
そんな事はどうでもいい。そもそも超常現象は全く信じない三輪が怖がるはずがなく、怖がるのはしとどだ。
けれど勘違いしたままのしとどはにこにこと笑って三輪の顔を覗き込む。

「分かった分かった!陽介誘うのは止めるから」

いや、だから分かってない。
という言葉を三輪は呑み込んだ。
結果として二人で見られるなら、それでよしとしよう。
それに、映画を見ればしとどは怖がって三輪に抱きついてくる。
今日の任務が終わった後の予定を思い、機嫌を良くした三輪に、勘違いしたままのしとどは「怖いけどホラー楽しみなの?」とまた明後日の問いかけをしてきた。
本当にこいつはどうしようもない大馬鹿野郎だ。




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