荒船隊とアイドル








半崎がつけっぱなしの隊室のテレビを指さす。

「あ、再放送やってますよ」

今日の任務の話をしていた穂刈と荒船は口を閉じてテレビへと視線を移した。
毎週火曜日のレギュラー番組の再放送。三人ともリアルタイムで見ているが、再放送でもつい見てしまう。
アクションバラエティーと銘打たれたそれは、文字通り、レギュラーである彼等、アイドルが様々なゲームをゲストとこなすというものだ。
整った顔が揃う中、一人コートにいるのは荒船隊の隊員のしとどだ。

『しとどさんはあれでしょ、どうせなんでも出来るんでしょ』
『うわ、そうくる?あー…みんなが応援してくれたらできる気がする』

メンバーからの弄りに、しとどは笑顔で応える。
しとどが応援してと言えば、客席から直ぐに黄色い声混じりの声援が聞えてきた。
ゲームは簡単で、3Pシュートを決めらるか、というものだ。ただし、ゴールは動いている。
一般人にはまず無理だ。

『がんばれー』
『え、あなたも応援するの?しとどさん敵よ?』
『あ、そうだった。でも負けたところは見たくないし』
『分かる分かる』
『それゲームにならないよね?』

メンバーからも声援を貰い、しとどは嬉しそうにしている。
負けている所は見たくないという声に、結果を知っているはずのテレビの前の三人もつい頷いた。

『さー、じゃあしとどのチャレンジです』

進行するメンバーの声に、しとどはゴールへと目を向けた。
そして目を閉じて、一呼吸おく。
緊張感がはしった。
次に目を開いた時にはスイッチが切り替わった雰囲気のしとどに、場の緊張がピークに達する。
結果を知っているはずの三人もつい呼吸を止めてその光景を見入る。
手元から離れたボールは一直線にゴールへと飛んでいき。そして、リングに触れる事も無く、綺麗にすっと決まった。
テレビの中で歓声がわく。
三人もそれを皮切りに緊張から解き放たれてふっと息を吐いた。

「成功したな」
「相変わらずすごいですね、しとどさん」

穂刈と半崎がテレビの中で他のメンバーに抱きしめらているしとどを見て感嘆の声をもらす。
しとどには勝負強さある。ここぞというところで決められるのが、流石アイドルといったところか。
荒船はテレビの中のしとどの嬉しそうな顔を見つめる。
見慣れた顔なのに、見慣れない顔だ。

「おっつかれさまー!遅くなってごめん!」
「なんとやらだな、噂をすれば」
「ん?」

隊室の扉が開いて飛び込んできたのはテレビの中にいるしとどだった。
走って来たらしく息がきれている。
キャップの帽子を被ったしとどは暑そうにつけていたマスクを外す。
変装ではなく、キャップは荒船の影響、マスクは喉を守る為らしい。
テレビに視線をうつした。

「お、この間の再放送」

そう、荒船隊のしとどは、アイドルのしとど本人でもある。
キャップを外して整った顔を晒した。
テレビの番組はちょうど終わりを告げて、しとどの所属するアイドルグループの曲が流れている。
この曲はオリコン1位を独走中だ。
荒船隊は全員例にもれずCDを持っている。

「絶大な人気だな」
「国民的アイドルですね」
「いやいや、そんなことはないさ。それに今は荒船隊のスナイパーですから」

まだまだだというしとどに、この男はどこまでいくのだろうと穂刈は驚いた。
穂刈や荒船と同い年のしとどは学校もある。そこにボーダーとアイドルがあり、それだけでも目まぐるしいだろうに、まだまだだと言うとは。
荒船はねぎらうようにしとどの頭を雑に撫でる。

「根付さんにまた広報の話されただろ?」
「されたされた。でもボーダーにはもう嵐山隊も茶野隊もいるから充分ですよねーって断った。これ以上忙しいと両立が難しくなる」

しとどはボーダーであることは隠してはいない。
しかし、ボーダーとしての広報はしないと決めているらしい。
あくまで、荒船隊のスナイパー。それがしとどの決めている自分の中の制約らしい。
荒船達としても広報になられては困るのでしとどの言葉に安堵している。

「あーそうだ!」

荷物を置いたしとどが思い出したように声を上げ。
何だと視線を向ければ、しとどは嬉しそうにピースをしている。

「実は全国ツアー決まりましたー」
「まじか!」
「おめでとう!」

今回だけでは無く毎年していることだが、聞く度にこちらも嬉しくなる。
CDもいいし、テレビも悪くないが、やはり生で歌って踊っている姿はたまらない。
同じ隊のメンバーで、友人であっても、アイドルしとどは別物だ。
しとどは申し訳なさそうに頭を下げる。

「なんで申し訳ないんですが、お休みください」

ツアーや撮影などで長期の留守にする時はボーダーの仕事を休むのは恒例だ。
アイドルだけではなくボーダーとしても一流のしとどが抜けるのは痛手だが、荒船隊はしとどを応援すると決めている。
荒船が頷く。

「オッケー、チケットは」
「荒船隊分確保させていただきます」

ぐっと親指を立てるしとどに満足そうに荒船は声をもらした。
今はこの場にいないが、加賀美もしとどの大ファンなので喜ぶだろう。
半崎と穂刈は今回もツアーに参加出来るなと荒船の偉大さにあやかった。
そう、実はしとどがボーダーにいるのも、しとどが荒船隊にいるのも、全て荒船のおかげだ。

「幼なじみでよかったな、荒船が」
「ですねー。チケット戦争まじだるいっすからね」

荒船としとどは家が隣同士という、幼馴染の関係だった。
しとどは荒船がやるならボーダーやろうかなという理由でボーダーを始めたらしい。
そして荒船が隊長の隊なら入ろうかなと言ったので、荒船隊にいる。
半崎も穂刈もしとどに初めて会った時はたいそう驚いた。
そりゃそうだ。一生縁がないと思っていた国民的アイドルだ。
縁は意外な所にある。穂刈達はしみじみそれを感じていた。




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