嵐山隊と終わりたい子


薄暗い話
B級







自分はいま16歳だ。
目標は20歳までに人生が終わること。

自分はなぜ生きているのだろう。
そんなものは生きている内は分からない、そう言われたことがある。
じゃあ終わろう。
その答えを探している内にも、誰かを不愉快にさせてしまう。

母が怒鳴った。
棚から物が落ちたから、ああもうと怒った。
ご飯を待つ俺に、ご飯作ってもらえるだけありがたいと思ってと怒った。何もしない子、と怒った。洗濯は俺がやったのに。
母はいつもイライラしている。昔からそういう人だった。イライラした後に、イライラしている自分を責めているようだった。
怒らせないようにしていたが、ある時気がついた。自分がその一端を担うのであれば、自分がいる限り母のストレスは減らない。

いつからか、自分がいることでその場の雰囲気を悪くするじゃないかと怖くなった。
友達との会話に潜む沈黙。これも俺がつまらない奴なばかりに、友達にもつまらない時間を過ごさせているのではないか。
家族という枠に捕らわれている母と同じく、友達という枠に捕らわれているだけで、気を使わせているのではないか。だって他の子といたほうが遙かに楽しそうだ。

じゃあいらないじゃないか。
じゃあいらない。

ボーダーは終わりを繰り返す。
ベイルアウトを繰り返す度に、また目が覚めてしまったと残念な気持ちになった。

「囮、今日も頼むな」
「…はい」

B級の知らない先輩達と組んでいる。
彼らはスナイパーだから、囮がほしいといった。
だから自分は囮になる。
突っ込んでいって、そのまま自分毎吹き飛ばされて終わり。

吹き飛ばされることはなれない。
いつもこわい。
こわいからもう終わってほしいのにまた自分は吹き飛ばされる。

ネイバーを俺がとらえた。
スコーピオンを突き刺す。俺は強くはないから倒せない。
突き刺して、動きをとめる。
これで任務完了。
ああ、今日も吹き飛ばされる。

「っ」
「大丈夫か?」

なぜか抱え上げられた。
警戒区域内にいるのはボーダー関係者だけ。
ちらりと見えた、赤い、隊服と、五つ星。

「嵐山隊現着、加勢します」

どうやら今日は吹き飛ばないらしい。
俺はぼんやり彼、嵐山准を見た。
まさかアイドルチームに助けてもらうとは思わなかった。

「キミ、大丈夫か?」
「………ありがとうございました」

地面に下ろしてもらい俺はお礼を告げる。別に助けなくても良かったのだけれど、彼らは善意でやってくれた。
突っぱねれば反感を買うことぐらい分かっているから、何も言わない。俺が黙って受け入れれば済む話だ。
嵐山隊は俺には到底できないような動きで見事にネイバーを倒してしまった。
役立たずな隊、役立たずな俺。

「気のせいでなければ、あなたは動きを止めたように見えました。どういう考えですか?」
「………」

木虎藍が俺を追求してくる。放っておいてくれればいいのに。
彼女の感に触るようなことをしてしまっただろうか。分からない。
俺が沈黙すると、時枝充が口を開いた。

「吹き飛び役、ですよね」
「吹き飛び役?」
「一人を囮にして、吹き飛ばして終わる隊があるそうです」
「………戦略の内、ですよね?」
「そうだね、でも毎回そういう形を取るってきいてる」

吹き飛びは心象が良くないようだ。
俺は進んでやっているのに。終わるために準備をしているだけなのに。
しかしそんなことを言えば最悪親に通報されてしまうかもしれない。
普通なことを言おう。もっともらしいこと。

「…………スナイパーは動きを止めた方が仕留めやすい、かと」
「確かにそれはあるが。賢」
『はいはーい。聞いてますよー』

インカムから佐鳥賢の声が聞こえてきた。あ、まずい。嵐山隊もスナイパーがいるんだった。

『動かないものしか打てないスナイパーなんて、鍛錬が足らないんじゃないですか』
「だそうだ。それに、キミの顔は任務を果たしたときの顔はしていない」

嵐山准のいう任務を果たしたときの顔ってどんな顔なんだろう。吹き飛びだってちゃんと任務を果たしていると思う。自分の出来ることで、人の役にたっている。
なにが悪いのか分からない。
しかし、どうやら俺の言葉は失言だったようで、インカムから聞こえてきたのは隊長の怒りを孕んだ帰還の言葉だった。怒らせてしまった。自分のせいでまた不愉快にさせてしまった。

「…………はい、戻ります。すみません、隊長が呼んでいるので失礼します」
「君は、ボーダーに入って何がしたいんだ」

嵐山准は問う。
それに返事をせず踵を返した。
ボーダー入隊の時の試験でも聞かれた。ボーダーでなにをしたいのか。その時は当たり障りなく市民を助けたいと言ったけど。


答えなんて最初から決まっている。
俺はただ、終わりたいだけだ。




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