道中の全てをなぎ倒しながら進むかのような騒々しい音の主は、勢い良く扉を開いて現れた。髪を乱し、なぜか服まではだけた李依の姿はただ事ではない何かが起こったことを感じさせた。
「クロム助けて!!」
「ど、どうした李依!?敵襲か!?」
「オボロが、オボロがっ……」
「オボロ!?あいつがどうしたんだ、まさかエンブラ兵に……!」
今しがた直面した恐怖に、涙と嗚咽で言葉を紡ぐことすらままならないらしい。クロムは気遣うように彼女の肩に触れた。
「一体何があったんだ」
「い、今はとにかく隠れさせて」
「李依……。ああ、わかった。お前は俺が護ってみせる!」
クロムの心強い言葉に李依が安堵したのもつかの間。開け放したままだった扉から漆黒のオーラが押し寄せ、その中から現れた手がむんずと彼女の手首を掴んだ。暗闇から覗くのはぎらつく一対の目。
「見つけたわ……逃がさないわよ」
「ふぎゃあああーっ!」
「うおおおーっ!?」
「クロム様のところにまで逃げ込んで!採寸に戻るわよ!」
「クロム助けてーっ!クロムー!!」
暗闇に引きずり込まれていく李依の姿を、クロムはただ見つめることしか出来なかった。あれに逆らってはいけない、そう本能が告げている。
彼は己の無力さに強く拳を握り、頭を垂れた。
「すまん、李依……!」