「僕が楽しいから」

手にしたカードの具合を確かめながら、彼は事もなげにそう言い放った。

アカデミアの主席である紫雲院素良とはまた違ったベクトルでプロフェッサーの信頼を得ている人物、ユーリ。
彼に課せられる任務の詳細は明かされてはいないが、なにせプロフェッサー直々の依頼だ。次元統一という尊い計画の核であろうことは言わずとも察せられる。
他次元へ単独行動を許されるまでのデュエルタクティクス。淡々と、しかし確実に任務をこなすその忠実さ。

私はそんな彼に少しばかり尊敬の念を抱いていたのだ。
プロフェッサーの右腕とまではいかなくとも、忠実なる指先となることを志す私にとって、彼はささやかな目標ですらあった。それが。

「貴方は…自分が、楽しいから、」

ハンマーで殴られたような衝撃が遅い、動揺を口にする。
真っ白な頭から立ち直り、次に湧き上がったのは怒りだった。腕を振り払い彼に詰め寄る。

「ふざけないで!貴方は、プロフェッサーが直々に任をくださる役にありながら…全て私欲を満たすために過ぎないというの!」
「だから、そうだって言ってるんだけど。…ああ、キミは今プロフェッサーに忠誠を誓ってるんだっけ?」

口調が、目が、態度が。全身で私を見くびっている。
プロフェッサーへの忠誠心に対し呆れすら覚えているようなその態度に、思わずデュエルディスクを構える。彼はそれを一瞥してひらりと手を振った。

「やめておいたら?キミじゃあ僕に勝てない」
「ずいぶんと強気だけど。やってみなければわからない」
「ふうん…やってみなければ、ねぇ?」

どこまでも冷徹な瞳が愉悦を乗せて私を見る。
恐怖に似た悪寒が背筋を駆けた。何故。

「プロフェッサーがキミをアカデミアに入れたのは正解ってことか」
「…は」
「忘れちゃった?キミは一度、僕と戦ってるんだけどなァ」

邪悪に細められた紫の瞳。その瞳孔の奥に私がいる。
アカデミアの制服ではなく擦り切れた衣服を着て、戦いに煤けながら必死の形相で――それこそ親や友人の仇を見るような目でこちらを睨めつけていた。構えているのは――あの見慣れぬデュエルディスクは。

「あの時、キミは全身全霊を捧げ、そして僕の前に敗北した」

彼はそう言うと、もう飽きたというようにそれまで眺めていたカードを握り潰し、見せつけるようにゆっくりと、小指から開いて床に落とす。

皺の合間から見えた画に、救いを求める手を見た。