夢か、あるいは




(キサラギ送還後辺り/番外/未来にトリップor夢の中)








「──李依?」

聞き慣れたタクミくんの声に揺さぶられて、ぼやけた意識の焦点が合う。
タクミくんの鍛練中にまた居眠りしてしまったらしい。ぐぐっと伸びをして顔を上げると、思ったより近くにタクミくんの顔があった。

「わ」
「なあに?おはよう」
「おは、よ、ございます」

ふわっと、幸せそうに微笑んだタクミくんに呆気に取られる。
恋人になった人は、彼のこんな表情を毎日独り占めできるのだろう。少し幼いような、素直な笑みがかわいい。
最初は態度がツンツンしていたのに、いつのまにかこんな柔らかな表情を見せてくれるようになった。それが嬉しくて、つられてはにかむ。

ふと、唇に吐息を感じた。あれ誰の?と思うのと同時に、吸い付く感触。
吸い付かれたからには離れたときに音が鳴る。ちゅ。

「……は、」
「まだ寝ぼけてるの?それともまだ恥ずかしい?」
「……私はなんて夢を」

きっと現実の私はまだ鍛練中に膝を抱えて眠っていて、タクミくんは的に向かっている、そうに違いない。
ストイックなタクミくんを私のなにか、こう、屈折した深層心理が作用して、なにを間違ったかよくわからない夢に出演させてしまったのだ。罪悪感に襲われて両手で顔を覆う。
起きたら忘れてますように──!

「夢って……ま、叫び出さないだけいつもよりはいいか」
「ごめんねタクミくんほんとごめんね」
「いいよ。李依が口付けに慣れないのはいつものことだし」
「それ以上言うのはもうやめて……!」
「酷いよね、李依からさんざん近付いてきたのにいざ僕が近付くと逃げるって」
「ううう」
「まあ今更嫌だって言ったって、逃がさないけど」
「ううう……うん?」

何やら不穏な単語だ。顔を覆う手を掴まれて外される。そろりと視線を向ければ赤い瞳。動けなくなる。

「タクミく」
「キサラギに会わせてあげるよ」

会いたいって、言ってただろ?
悪寒がぞわりと背筋を駆け抜ける。

早く覚めろ。早く、そうしないと、戻れないところまで、堕ちてしまう。