息子、召喚?




(『キサラギ、召喚』の後/連載本編と矛盾するif話)




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もやが晴れ、ひとりの青年が姿を現す。
青年はその場に居合わせた一同をゆっくり見回す。絵倉くん、ルフレ、私……目が合った。青年は私をじっと見つめる。
──その赤い瞳に、既視感。どこかで会った、いや、見た?
答えが判明する前に、青年は口を開いた。

「母さん?どこなのここ」

私をしっかり見据えて、投下される爆弾。
一同の間にからっ風が吹く。そして。

「私……結婚できたんだ……」
「気にするのはそこなのかい?」




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「ふうん。異世界」
「軽いね……」
「だって母さんから聞いたことあるし……母さんじゃないんだっけ、まだ。」
「まだかもしれないし、永遠に独り身かもしれないし」
「俺の知ってる母さんとほとんど変わらない気がするけど……結婚はまだなんだ?」
「ご覧の通り」
「──李依!」
「あ、タクミくん」
「昼からロンクーとの稽古を見学しに来るっていうのに来ないから迎えに……あんたは?」

廊下の向かいから駆け寄ってきたのはタクミくんだ。私の隣に居た息子(仮)に気づいた。
同じくらいの背丈、同じくらいの年齢の二人が向かい合う。
なぜか警戒した様子のタクミくんに睨まれて、息子(仮)は私とタクミくんを交互に見る。視線が二往復したところで、彼は口元を吊り上げて面白そうに「ははーん」と呟いた。

「どーも。さっき召喚されたばっかりでこっちの母さ……李依に案内してもらってたんだ」
「……名前を聞かれて名乗りもしないのか?」
「これ以上俺の情報を教えて未来が変わったら困るだろ?李依は俺と家族になる女性なのに」
「なっ……!?」

あっ、この息子(仮)、性格が悪い。

「李依、どういうこと」
「息子らしいよ」
「はあ?誰のだよ」
「私の」
「……は?」
「キサラギくんの時みたいに、今ここに居る私自身の息子かどうかは知らないけど……息子だって」
「もうネタバラシすんの?せっかく楽しいとこだったのに」
「あのねえ……」
「あーおっかしー。めちゃくちゃ慌ててやんの」
「異界の私、育て方間違えてない……?」
「やー、母さん自身かもしんないよ?それに母さんの世界は異界無いかもしれないんでしょ?そしたらブーメランだからやめときなって」



──





送還の光に包まれる中、母と呼ぶ李依ではなく、その隣に立つタクミを見てくすりと笑う。
日本人にしては赤みがかった瞳が細められる。
タクミの卓越した視力は、声の無い唇を読んだ。

(じゃあね、父さん?)









──








息子(仮)
・タクミと同じくらいの背丈を持つ青年。
・兄。素直で天才型の弟がいる。
・努力家。父に似たらしい。
・日本人らしい暗めの髪と、日本人にしてはやや赤みがかった瞳を持つ。