誰かに嫌われる、それが怖かった。全員から好かれたいとまでは言わないけど、誰からも嫌われたくはなかった。だけど致し方がないことなのだろう、確実に誰か一人以上には嫌われるものだ。だからこそ、壁をつくった。さり気なく、うっすらと誰もが気がつかないような壁。脆くもなくましてや強靭でもない、壁を。なのに、



「何でナマエはそうやって壁をつくるんだ?」

『何で、そう思うの?』

「お前、誰の名前も呼ばないし誰かに言われるまで話さないしある程度皆とは距離を保っていつもなるべく目立たないところに座ってるだろ、それに」


心臓がどくどくいっている。エレンが言ってることは全部本当のこと。皆から嫌われないように、どれも私ができる最善の方法だった。

「誰も見てないだろ、ナマエ」

『、え?』

「今こうやって俺と話してるけどナマエの目は俺を見てないって言ってるんだよ。ただ俺の姿を反射させてるだけ」
『そんなこと、ないよ?』
「ナマエは、嘘つきだな、」

ぐさり、言葉が刃になって私に突き刺さった。嘘つき、なんで?私はただ、私、は

『嘘つき、なんかじゃない、よ』
「じゃあ、何で見ようとしてないんだよ」
『それは、』


喉まででかかった言葉を飲み込む。きっと、笑われてしまう。嫌われたくないからという理由だけでこんなことをしてる私にエレンは絶対幻滅するだろう。それこそ、嫌われるということで、私終わりだ。

「何で俺を見ないんだよ、ナマエ」

『っう、あ、』

じりじり迫ってくるエレンになんとか納得してもらわなければならないのに、考えれば考えるほど言い訳ができなくなる。とん、と背中に堅い感触があたり逃げ場は完全になくなった。ああ、もう、観念してしまおうか、


『き、らわれると、思ったから』
「、は」

『だ、から!嫌われるかと、思った、から…』


ついに、言ってしまった、今なら恥ずかしさで死ねる気がする。

「…はあ、そんなことかよ」
『そんなこと、じゃない!わ、たしにとってみたら大切なこと、なの』

「あーいや、その…悪かった、」

『ん、私こそ、ごめん』


気まずい、逃げ出そうにも目の前にはエレン、後ろは壁。脱出不可能だ。さっさとこの状況を打破した、


『あの、エレン?』

「俺は、その、ナマエのことを嫌いになるなんてないから、ちゃんと俺のことを見て話して欲しい」


『…努力、する』

「ああ!」


エレンのせいで壁、壊れちゃったよ。



20130603/壊されちゃった