あれから少しだけだけれど学校に来ることがそこまで嫌じゃなくなった。それもあの音無さん、のお蔭だと思う。いつかお礼を言えればいいな。



「ねえ、あの人…」
「最近よくこっち見てるよねえ…気味悪いよお、こっち見ないでほしいよね」
「ねえー」


ああ、きっと僕のことだ、と言わずともがなわかった。すみません、そんな気味悪がらせて、でもそんなつもりじゃ、俯きながら心の中で謝る。そのとき彼女の声、

「私この人知ってます!」


え、と顔をあげると音無さんが僕の目の前に立っていて、そのカミングアウトとか、とにかくいろいろびっくりして、周りは唖然とし、僕は茫然と音無さんを見ていた。


「見ちゃったんですよねえ、この机の絵!全部貴方が描いてたりするんですか?」


ああ、見られちゃったんだ、また笑われる、と覚悟をしてこくり、とうなずく。彼女には、笑われたくない。いやだ、いやだ…っ


「やっぱり!私ああいうの大好きなんです!」

『…え、?』


笑われ、なかった。どうして、驚いて凝視してしまう。その拍子に目があって、にっこりと笑顔で僕に、彼女は手を差し伸べたのだ。


「私、音無春奈っていいます。よろしくね!」



20110715/ヒロイズムに焦がれる少年