『あ、』
届かない、そう気がついたときはもう教室には誰一人としておらず、遅かった。ああ、どうしようと途方にくれる。なんだか無性に現実逃避がしたくなった。ふ、と窓の外を見ると陸上部が走っているのが、窓枠に腕をのせて青い長い髪を靡かせ走っている風丸くんを見つめる。速いなあ、私もあれくらい走れたら、と少しぼうっと考えていたら風丸くんがいない、どこにいってしまったのだろ、窓から身をのりだしキョロキョロと探す、あ、端の方に水色の髪の毛が見える、風丸くんだと気がつくのには数秒もかからなかったが、校舎の方に入って行ってしまったのか見えなくなる、
『残念、』
「何が残念なんだ?」
『!か、風丸くんっ』
び、びっくりしたあ、ってあれ。さっきまで校庭にいた、よね?速いよ、速すぎるよ風丸くん。さすが陸上部のエース風丸一郎太。
『どーしたの、部活は?』
「抜けてきた」
『へ?』
「それより、その本貸せよ」
『え、あ、はい』
「んーと、これでよし、」
私から本をとってもとにあった場所に戻してくれた。正直ひじょうに困っていたからすごく嬉しい。
『ありがとう、風丸くん』
「どーいたしまして、」
じゃ、俺部活に戻るからと、風丸くんは教室を出て行ってしまった。あ、と声を発するが風丸くんには届かず。あーあ、行っちゃっ、た。どうしよう、お礼は言ったけど、ポケットに手をあてる、不自然な膨らみ。それはあげようと思っていた、飴…あげられなかったなあ。、今度あげよう。そう決意してから鞄を手に取った。20110508/胸に秘めた決意