立向居くん、立向居くん、と部室の方から聞こえてきた。あの声はナマエ先輩で間違いないだろう。俺があの人の声を間違えるはずがない、街中であっても、遊園地であっても、そう、どこであろうと俺は先輩だと、見分けるんだろう。
「どうかしましたか、先輩?」
『ふふ、暑い中残って自主トレしている立向居くんに…じゃーん!差し入れ持ってきました!』
ってな訳ではい、アイス!とひんやりと冷たいアイスを渡される。ナマエ先輩の気遣いは、嬉しい。だけど、どうせ戸田先輩あたりに頼まれたのか、と考え始めるとどうも腑に落ちない。なんであと一年早くに生まれてこなかったのだろう、一年という差が、歯痒くてどーしようもない。
『…アイス、美味しくない?』
「えっ、あ!ち、違うんです、アイス美味しいです、はい」
慌ててアイスを食べると先輩がじっとこちらを見ていることに気がつき、何をみているのか気になってキョロキョロ見回したらクスクスと隣から声が聞こえてくる。あ、えっと?
「せ、先輩…?」
『あ、ごっごめん!いや、立向居くんたら急にキョロキョロしだすんだもの、それが面白くて』
そ、そんなに俺変でした?先輩に変な姿を見せてしまった恥ずかしさから顔を伏せる。き、気まずい
「あ、あの…」
『立向居くん、』
はい?と声を喉の奥から出す。どうしてこんなに声が震えるんだろう、さっきまではきちんと声がでたのに、
『、頑張ってね』
「は…い、」
どうして、そんなに寂しそうに笑うんですか、でかかかった言葉を飲み込んで頷いた。もし、今ここにいたのが戸田先輩だったら、俺じゃない先輩だったら、あなたに聞けたんでしょうか。考えたくなくなって最後の一口を口に入れた。
ボーダーライン/20110418