「みーっけた」
「うわぁっ…!」

黒髪の少年に声をかけられ男は足がもつれそのまま地面に倒れこみ、息が上がった体でずりずりと壁側へと逃げる。
そこに黒髪の少年が近寄って行く。
その後ろでは茶髪で髪を軽く縛った童顔の男もいた。
その二人を見てスーツを着た男は安堵した。
男には体に痣があり何度か暴行を加えられた後があったが、それを行ったのは二人ではない。そして今まで物事で困った際に依頼を受理してくれた人だったからだ。
黒髪が自分の目が隠れるくらい長く自分でも見えてるのかどうかも分からない少年は真矢、茶髪の童顔の男は巽。
男にとっては助けのような存在に思えた。

「あ…あんたら…助けにきてくれたのか…!良かった…助け」
「軽率な行動は自分の首を締めるし周り巻き込むことになるっちゅうの分からんかったん?」

男の言葉を過ぎった言葉に男はひぃっと小さな声を上げた。
敵と認識したと同時に、真矢からは、プレッシャーをひしひしを感じたからだ。
男の体が勝手に小刻みに震え出し無意識に後ずさりをして壁に背中が当たる。
真矢の後ろに立っている巽は以前何度か依頼をする度に優しい笑顔で受理してくれた人で、最後の頼みの綱だと、助けて、という意味の視線を送る。
そこには陽気に話してくれたあの時とは違う、とても冷え切った目をしていた。

「何したか分かってへんの?情報漏らしたらあかんってのは暗黙の了解やん。例え親族や親しい友人、誰やろうが契約違反以前に常識やろ、こんアホ」
「おー怖。まやちんあんま怒んなや」
「しゃーないやろ」
「ま、内容が内容やしな。他所のハニートラップなんざ引っ掛かりよって」
「俺らに持ってくる情報が今回の報酬やっちゅーに…全部だだ漏れとか久々の大アホや」
「お前も大アホやけどな」
「あっちは仕事内容がむずいからしゃーないやん」
「ミラにお世話になりすぎやっちゅーねん」
「ええやんか。も一つのお仕事はこなしとるやん」
「まぁ、せやな」
「ちゅーわけでたっつん、こいつどないしよか」

ふざけあってる二人を見ていつもの風景のようにも思えたがとても内容が笑えない。
真矢の言葉に今度は涙がこぼれ始める。
真矢のどうする、という言葉はつまり「始末」のことかという公式が頭の中で結ばれる。
どうしようどうしようどうしようと頭の中が解決策を探すが何も出ない。

「捨て置け。そこまで構ってる暇あらへんし、今回は忠告に来ただけや。先方がしっかり落とし前つける言うて鬼のよになって探しとることやし…そっちに任せたらええやろ」
「つまり今回は俺の仕事やないん?」
「おん。先方がこっちの運び屋を信じんとあっちから情報持ってくる予定やったし。俺らのミスちゃうやん」
「まぁ…せやな。運良かったなぁ兄やん。俺やったら徹底的にお仕置きやったわ」
「おー嫌やわー。こいつのやり方えっぐいねん」
「たっつん程じゃあらへんし」
「ご冗談が上手いなぁ」
「そっちこそ上手いすわぁ」

全然笑えない冗談だ。
何もされない、忠告だけ、その言葉はまだ良い。
つまりは目の前の二人には何もされないのだ。
敵が増えて、何かをされるよりは、まだ。

「そろそろお暇しよか。じゃあ…佐藤さーん。今回はこっちからはさっきの忠告だけやさかい、他のとこでしちゃあかんで?まぁお仕置きは先方からされる…あぁもうされとる途中やっけ?そんな感じや。ちゅーわけで俺らはこれで失礼しますわ」
「たっつん行くでー」
「おん。今行くわ。んじゃ…せいぜい頑張ってくださいね!」

大変なのは、これから、で。




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