》誰かを想って



「なんでそんな苦しそうな顔してる…んですか?」

『え?』

「なんでそんなに…」




悲しそうに微笑むのか。彼女の笑顔を見たとき、そう思った。




『そんなことないよ!全然』




しかし彼女は俺の考えを完全に否定しまた笑顔を作る。しかも『敬語とかやめてよー!タメなんだからー!』なんて言いながら話を反らす。







それが余りにも不自然で、作られた笑みがまるで、出してはならない何かを塞ごうとしているように見えて…。

一度深呼吸をし、身体に入った余分な力を抜く。




「嘘、絶対何か隠してる。」

『…だから』

「話」

『?』

「聞かせて。」




一瞬大きく目を見開いたと思うと、大きな瞳を何度も開いたり閉じたりする彼女。

しばらく黙って彼女を見ているとふと突然、彼女は口を開いた。









全てを語り俯きながら小刻みに震える彼女をしばらく呆然と、眺めていた。




『……ヒクッ、ウッ』




そしてしばらくすると泣き始めた彼女に、ふと愛おしさを感じて手を伸ばした…





その時














「あれ、名前じゃん」




ビクッと彼女の肩が震えた。振り向くとそこには見知らぬ男の姿と女の姿があった。




「何、もう男出来たの?」

『…』

「付き合ってたときはあんなに重かったのに、フリーなった途端急に軽い女になったな。ほんと、」







"嫌な女だな"




俺は耳を疑った。もしや…っと思ったとき「隼人ぉ、この子誰ぇ?」なんて甘ったらしい声で女は男に聞いた。

そして男の答えに俺は思わず男の胸倉を掴んだ。




「てめェか、ゲス野郎は」

『ちょ、やめ…』

「あ゙、誰だよおめェ。…あっ!」

「?」

「お前、名前の新しい彼氏か?」




ニヤニヤと笑いながら俺を見下す男。俺は何もいわず相手を睨む。




「やめとけって」

「あ?」

「こいつ、まじ重いよ」

『…』




相変わらずニヤニヤと笑う男にいらつきが最大になった俺は腕を振り上げる。




「え、冗談だろ?」

「何が冗談だ?え?」

「やめ…」

「や、きゃああああ!!」




そして全てのいらつきを振りかぶった拳へ。奴の顔にぶつけようとした。…が




「は、なせって」

『だめ…だよ。』




彼女は俺の腕を掴み、離さない。




「でもこのままじゃ『ヨシタケくん!』

「…!」

『やめて、ね?』




眉を八の字にしながらもふわりと笑う彼女に俺は、腕の力を抜く。




「い、行こうよ隼人。」

「ッチ」




そうしている間に男は女と二人で逃げる。その時、男が放った言葉が余りに深く、胸に突き刺さった。










「二度と俺に関わるな」
















俺はいつでも誰が笑っているのが好きだった。悪いことをする奴にはちゃんと謝らすまでけりを付けないと気が済まなかった。

今回のことはあまりにも度が過ぎたことだったと思う。それでも、それでもちゃんと彼女には笑って欲しくて、一生懸命だった。




誰かを想って



何かをすることがこんなにも胸糞悪くなったのは初めてだった。




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