》またひとりで、



『なぁ、別れよ』

『えっ』

『…』

『なんで…私何か悪いことし『お前さ』








『重いんだよ』







2年付き合った他校の一つ上の先輩と別れた。彼が私に告白してきて、彼が私をフった。


初めてできた彼氏だった。

一目惚れって言われた。

大好きだって言われた。


なのに彼は簡単に私を捨てた。


噂だとまた新しく、彼女が出来たらしい。

こんな軽い男、振られて良かった。そう思っているのに何故か心は彼を忘れられない。


フられたあの日から私は一度も泣いていない。









その日の天気予報は、晴れだった。

朝から眩しい光が射していてそれは学校に行くときも体育の授業で外にいたときも、鬱陶しいくらい私を照らしていた。

なのにHRの時間。空が急に曇ってきて、いざ家に帰ろうと歩いていると大きな雨粒が私の制服を濡らした。



「うっわぁ…傘は…」



私は鞄から折りたたみ傘を取り出そうとしたが、そこに傘はなかった。そういえばまだ返してもらってない。

私は急いで雨宿り出来る場所を探す。そして暫く走ると近くに屋根のついた休憩スペースがある公園を見つけた。誰もいないそこへ、私は急ぎ足で行く。



制服は雨でぐちょぐちょで、気分転換にと早起きして作ったお団子も崩れてしまった。



「…最、悪」



とりあえず私は雨が止むのを待つことにした。









「…」




数十分は経っただろう。しかし一向に雨はやまない。むしろ強くなるばかりである。

ふと前を向くと小さな傘をさす小学生。買い物に行くためかっぱを着て自転車を漕ぐ主婦。そして、相合傘をしながら歩くカップル。




『げっ雨なのに傘忘れた。名前、傘ある?』

『あっうん。じゃああたしの傘貸す…』

『何言ってんの。二人で入ればいーじゃん』




昔の思い出が頭によぎる。それを掻き消すように私ははぁっと溜息を吐く。ここで待っていたって意味が無い。そ諦めて濡れて帰ろう、そう思ってスクバを頭の上にあげた。



その時



背中に何か固いものが当たった。



―カシャッ



背中に当たった何かが地面に落ちる音。振り返ると、そこには大雨のなか傘もささずに
こちらを見る男。ふと自分の足元を見ると彼が投げて来たのであろう青いボーダーラインの入った折りたたみ傘。



「あの…良かったら使ってください」

「え?」

「後、」











―泣きたい時は、泣いた方がいいです。





暫く、私は雨の中に消えていく男をずっと見ていた。ふっと我に返った私は、落ちた傘を拾おうと地面にしゃがむ。

よく見るとそこには、その傘の持ち手に名前と学校名がご丁寧に書いてあった。



"○×県立真田北高校"

"2年A組 田中 ヨシタケ"



その名前を指でそっと撫でた。真田北高校は男子校である。知り合いは何人か通っているとは思うが、私の知り合いに金髪の子なんていない。



じゃあ何故見ず知らずの私に傘を渡してきたのか。


そして、何故あんな言葉を言ってきたのか。



不思議だ。でも悪い気はしなかった。折角貸して貰ったんだし傘をさして帰ろう。そして、この傘は明日返しに行かないと。









そう思い私は雨粒が降り注ぐ空を見上げた。





また
ひとりで、




家に帰ろう。隣に彼は無いけれど。





H24/06/04




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