(無題)

今日の伝七は熱でもあるのか、ずっと僕にぴとっとくっ付いて離れない。正直本を読むのにすごく邪魔だ。しかし、いつもの伝七ならありえない。伝七から近づいてくるどころか、僕が近づいたら逃げるくらいなのに。面白いから伝七には何も聞かずに黙っていたら、なんだかそわそわしてる。そろそろ話しかけてやるか。僕は伝七のせいで斜め読みになっていた本をパタンと閉じる。

「ねぇ、」
「何だよ」

こんなに近いのに、伝七は僕と顔を合わせようとしない。いや、近いからか。

「今日さ、」
「今日がどうした?」

期待しているような声だった。

「伝七、気持ち悪いね」

僕は期待通りにはいかない男だった。

「兵太夫!お前さ!」

伝七は僕から一気に離れて、僕を睨みつける。敵意むき出しで怒っている。

「僕が恥を忍んでこんなことしてるのに!」
「なんで?」
「本当にわかってないのか」
「うん」

伝七は少し溜めてから、呟いた。

「今日は、お前の誕生日だからだよ」

伝七は俯いた。僕は笑ってしまう。全部わかってたよ、伝七。最初から。僕くらいの年で自分の誕生日を忘れるようなやついないだろ。それをバカ正直に答えちゃって、お前は。
今度は僕が伝七に近づく。伝七は後ずさりをした。さっきは自分から近づいてきたのに、僕からだと逃げたくなってる。でも誕生日効果なのか、後ずさりをするだけで逃げない。毎日が誕生日だったらいいのに。いや、誕生日は365日の中で1日しかない特別な日だと何かで読んだような気がする。非誕生日もプレゼントが貰える可能性はあるし。
そんなことを考えながら、僕はいつもより大人しい伝七にキスをした。



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