(その優しさが僕を駄目にする)
三郎は僕にすごく優しい。僕が頼んだことは全てやってくれるし、困っていたら絶対に助けてくれる。でも、ただひとつ僕を困らせるようなことをする。
「私は雷蔵のことが好きだ」
まさか、と思った。三郎が僕のことをそういう対象として見ているとは思っていなかったから。でも僕の答えは決まっているんだ。僕は男である三郎を受け入れられない。ただ、親友である三郎にどうやってそれを伝えればいいのかわからなかった。
それを僕は一週間悩んで、やっと三郎に伝えることができた。でも。
「それでも私は雷蔵が好きだ」
ああこいつはこういうやつだった。へんなところで譲れないものがある。それが、僕への好意なんだ。今回ばかりは僕の言うとおりにはならない。
それからというもの、僕への好意をばらしてしまったことをいいことに三郎のアプローチはエスカレートしていった。僕の方も三郎を邪険に扱えないから困っていた。だって三郎は親友だから。でもこんな自分も悪いんだろうな。三郎の好意には答えられないのに、三郎を拒絶しないから。今までも、三郎の優しさに甘えていたのかもしれない。
僕は三郎のことが嫌いじゃない。むしろ好きだ。でもそれは友達として、なんだと思う。やっぱり僕は男は受け入れられない。でも僕は三郎が男じゃなかったら、恋愛対象になってしまうくらいには僕は三郎のことが好きなんだろう。それは友達として好きだという気持ちとどこが違うのか。こんなに僕を悩ますことは、いつも三郎に相談しているのに、今は隣にいて僕の話を聞いてくれない。
いつものように三郎は僕へのスキンシップを出会い頭に仕掛けてくる。僕がこんなに悩んでいるのに、なんで三郎はこんな軽いんだ。
「困るんだ…」
僕は本心を呟く。少しの沈黙の後、三郎は静かに言った。
「雷蔵はここで答えを出せるの?」
「え?」
「私のことが嫌い?」
「…嫌いじゃないけど」
「恋愛対象として好き?」
「いや、それは違う」
「でも、嫌いじゃない」
「好きだ」
また沈黙。三郎は僕を見てる。僕は目をそらした。
これでも、僕の中で答えは出ないんだ。わかってよ、三郎。いつもみたいに僕を助けてはくれないの?
「三郎は」
沈黙に耐えきれなくなって、僕は思ってたことを全て三郎にぶつけたくなった。
「男と男が付き合うってことがどれくらい僕にとって大変なことなのか三郎はわかってない」
何故か目から涙がポロポロと落ちていた。何で僕、泣いてるんだ。
「ちょっと、なんで泣くんだ。私が泣かしたみたいじゃないか」
「別に、間違ってない」
とっさに出ていた言葉の意味は自分でもよくわからなかった。泣いてるのは三郎のせいってなんだよ。泣くほどのことじゃない。僕は不安なんだ。でもなんで僕はこんなに不安がってるんだ。僕は怖がってる?本当は三郎を好きかもしれない自分を。男なのに。
「僕はさ、三郎のことが好きになりかけてるのかもしれない…いや、本当は好きだったのかもしれない。でも、わからない」
男だから、そこは僕にも譲れないはずなんだ。それが僕の気持ちを邪魔する。本当は僕は三郎のことをどう思っているのか。好きなのはどういう意味で好きってことなのか。わからない。誰にも聞けない。今までは三郎に聞いていたけど、これは自分でちゃんと考えて答えを出さないといけないことだ。
三郎が僕を好きなのと同じように、僕は三郎のことが好きなのか?
今の僕には、その答えは出せない。
「私は待つよ」
「え?」
「雷蔵が答えを出すまで。それが友達として好きだってことだったとしても、私は別に構わないから」
三郎は笑った。それは僕にいつも優しい三郎の笑顔だった。
三郎は僕のために軽い言葉を選んで、笑いかけてるんだ。僕はまた三郎の優しさに甘えて、自分では何もできてない。三郎は一度僕を突き放したのに、また僕に手をさしのべてる。そういう優しさに僕はずっと甘えてきたんだ。三郎が優しい限り、僕は答えを先延ばしし続けるし、三郎を拒絶しない。今までもそうだったってこと、三郎はわかってる?
僕が答えを見つけた時、その時は、もう三郎が隣にいないような気がするんだ。僕に優しくすることは結局、三郎の首を締めてることと一緒だ。