(永遠の片思い)

「好きです!」

そう聞こえた。廊下を歩く僕の足が止まる。知っている、くのいちの女の子の声だった。誰かに教室で告白しているみたいだ。見てはいけないと思いつつも、好奇心には勝てず扉の影から覗いてみる。誰に告白しているんだろう。六年生だろうか。夕日が逆光になってよく見えない。
女の子の肩が上がって、次の言葉を言うため息を吸い込んだ。夕日のせいかもしれない。女の子の頬は赤くなっていて、かわいいと思った。がんばれって、そう思った。

「ずっと、前からなんです!雑渡さん…」

雑渡さん、確かに彼女はそう言った。彼女の前にいるのは雑渡さん、なのか。僕は俯いて、自分の足先を見つめる。女の子が何か言っているのも耳に入らない。僕はもうそこにはいられなくなって、歩いて来た廊下を引き返した。僕の心は一気に冷めていった。



雑渡さんを好きな気持ちは誰にも負けない。たまたま女の子だったから、少し好きかもしれないなんて浅はかな気持ちで告白できるんだ。僕の方がずっと雑渡さんのことが好きだ、絶対に。近くで見ていて、好きだって気持ちに気付いても僕には伝えることはできない。思いは強くなるだけだった。絶対に伝えないから、雑渡さんを好きでいたかった。でも、あの子と付き合っている雑渡さんを僕は見ることができるだろうか。想像しただけでも、こんなに苦しいのに。それでも僕は雑渡さんにおめでとうと言って今まで通りに振る舞わなければならない。僕にはそれができるだろうか。好きでいることさえも、できなくなるかもしれない。女の子に生まれていたらこんなことを考えることはなかった。こんなに好きな人には絶対に気持ちを伝えている。



いつの間にか僕は走っていた。自分でもどこに向かってるのかわからない。あの教室から離れたくて走っていただけだから。
足を止めると襲ってくるのは罪悪感だった。あの子は悪くないのに、酷いことを考えた。今の僕は、この世で一番醜い。一瞬でも成就を願った女の子の恋を、相手が自分の好きな人だったからとふられればいいと思うなんて。それがわかっていても、僕の心はそう思うことをやめない。
思いを伝えられないんじゃない。僕は臆病だから、伝えないんだ。勇気があればあの子と同じ立場になれるのにそれをしないのは傷つきたくないから。女の子に生まれていたとしても僕はちゃんと向き合っていたのか。傷つきたくないからと言い訳ばかりしているんじゃないか。今、自分が死ぬほど嫌いだ。僕には雑渡さんを好きでいる資格なんてない。こんなに醜くて臆病な僕には。
彼女の恋が叶ったかどうか、知る勇気も僕にはない。二人が付き合い始めたとして、僕にはなにも出来ない。



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