(ずっとあなたのそばに)



CLANNADネタバレあり。


伊作君が猫です。そしてファンタジーです!←
しかし猫の恩返し設定くらいしかパロれていない…。






「昔話をしてやろうか」

僕はまばたきをした。それから、耳を雑渡さんの方に向ける。

「もう何年も前のことだ」

その話を、僕は知っていた。それは僕の昔話でもあるからだ。雑渡さんの声を聞きながら僕は昔のことを思い出していた。






僕は、雑渡さんの願いを叶えるために人間になった。

「雑渡昆奈門さんですか」
「そうだけど…君は、」

雑渡さんを見上げた。僕より背は大分高い。

「あなたの願いを、叶えにきました」

突拍子もないようなことを言ったもんだと思う。でも簡潔に言うとそういうことなんだ。

「何なんだ君は」
「善法寺伊作といいます。あなたに恩返しをしに来ました」
「恩返し?私がなにかしたのかな」

僕は、忍になりたての雑渡さんに命を救ってもらったことがある。僕は本当は猫だから、その事自体を雑渡さんには言えない。第一雑渡さんはそのことを覚えていないだろうし。

「それは言えないんですが…」
「はぁ」
「雑渡さんには些細なことだったと思うんです。でも僕にとっては、」
「私には思い当たることもないし、恩返しなんていいよ」
「駄目です。僕の気が済みませんから」

これは僕の自己満足だった。でもここで食い下がる訳にはいかない。なんの為に人間になったんだ。

「願いを言ってくれるまで、諦めません」





それから僕はずっと雑渡さんにつきまとっていた。だって、雑渡さんはなかなか願いを言ってくれないから。別に否定する訳ではないけど、猫の僕から見て人間は欲深い生き物だった。だから願いなんてすぐ見つかるだろうと思っていた。

「私には願いなんてないんだ」

雑渡さんはいつもそう言って、僕の問いに返してはくれなかった。






本当は、僕にはそんなに時間がない。でも雑渡さんを急かしたくなかったから、言わないままにした。それに、僕もあまりそのことは考えたくなかったから。

「なんでそんなに私にかまうんだ」
「だから、恩返しを、」
「それにしたって…」

僕がしていることは、そんなにおかしいことなのだろうか。僕は雑渡さんの迷惑になっているんだろうか。雑渡さんと一緒にいることが楽しくて、それを雑渡さんがどう思っているかなんて考えたことなんてなかった。
でも、それももう終わる。僕が猫に戻らなければいけない時までそんなに時間はない。だからそれまで、わがままになっていいだろうか。





僕が猫に戻らなければいけない時を意識すればするほど、それは近づく速度を早めているようだった。あっという間にその時がきてしまった。

「雑渡さん、願いを言って下さい」

今日で最後だから、絶対に願いを言ってもらわなければならない。

「その前に、言わなければならないことがあるんだ」

いつになく雑渡さんは真剣な目だった。

「私は、伊作君のことが好きになってしまったみたいなんだ」

雑渡さんは言い終わると、目を伏せた。
好き、ってなんですか。僕の事が好きって。好きって気持ちは、その人に会いたくなったり、一緒にいたくなったり、知りたくなったりすることですか。その人に会えなくなることを考えたら、苦しくなってしまうこと、それを好きって言うんですか。
やっとわかった。僕は雑渡さんのことが好きなんだ。あの日、助けてもらった時からずっと。もう一度会いたくて、一緒にいたくて、もっと知りたくて、恩返しをしにきた。再会して雑渡さんと一緒に過ごした時間は、全て幸せだと思った。

「僕も、雑渡さんのことが好きです」

泣きそうになった。好きなんて伝えるべきじゃない。思いが通じてもずっと一緒にはいられないってこと、そんなことわかっているだろう。僕は俯いて、顔を上げられなかった。

「…ありがとう」

雑渡さんの言葉が痛かった。

「願いを叶えてくれるんだろう」

僕は顔を上げた。雑渡さんが笑っていた。

「ずっと、ずっと、私のことを好きでいてくれ」

言葉は出なかった。頷くしかできなかった。返事をしていたら、多分全て話していただろう。

「長い間待たせてしまってすまなかった」

雑渡さんは僕にキスをした。優しい、キスだった。
涙が止まらなかった。雑渡さんが好きだっていってくれてるのに、僕には、もう、時間が、

「なんで、泣くんだ」
「っ…すみません」

雑渡さんは僕の頭に手を乗せた。

「なんか買ってきてくるから、それまでに泣き止んでくれよ」

行かないでほしい、と僕は雑渡さんを呼び止められなかった。






泣いていた僕は、いつの間にか猫に戻っていた。






「私は彼のことが最初は鬱陶しかったんだ。でも初めてだった。あんなに私になついてくれる変なやつは。そんな彼の目を見たら次第に邪険には扱えなくなって、側に置いていたんだ」

「このままずっと伊作君が側にいればいいと思っていた」





僕は自分が猫に戻ってから、雑渡さんがどれだけ僕を探していたのか全部見ていた。必死で僕を探す雑渡さんを見るのは苦しかった。でも、目を逸らす訳にはいかなかった。全て僕のせいだから。僕が恩返しをしたいと、雑渡さんと出会ってしまったからこんなことになった。僕は僕を探す雑渡さんの前に飛び出していって僕だと言いたくてしょうがなかった。でも僕にはもう、それはできない。僕はもう雑渡さんと同じ言葉を持たなかった。
僕は雑渡さんの願いを叶える為に人間になった。僕にはちゃんとそれができたのだろうか。僕はずっと雑渡さんが好きでいる。そんなこと、僕にとってはこの上ないくらい簡単な願いだ。でも雑渡さんにはそれは伝わらない。雑渡さんには願いが叶っているかわからない。だから僕は雑渡さんの側にいることを選んだ。償いと言うにはおこがましいけど、ずっと好きでいるってことを僕の一生をかけて示すために。






「彼は、私のことをまだ好きでいてくれてるかな」

「私はずっと、好きでいるんだけどね…」

僕もずっと、今までずっと雑渡さんを好きでいました。それは雑渡さんには伝わらないのだろうか。こんなに近くにいるのに。

「私が伊作君のことを好きでいたら、」

僕は顔を上げた。雑渡さんと目が合う。

「伊作君も好きでいてくれないかな」

雑渡さんは僕に願いを言った時と同じ表情で笑った。その願いは、とっくの前から叶っている。なんとなく、雑渡さんは全てわかっているような気がした。




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