(ごめん。)


「僕、お前のこと好きなのかもしれない」

こんなこと言うつもりはなかった。感情の高ぶりとは恐ろしいもので、一番言ってはいけないことを何気なく言ってしまうんだ。何も考えずに口から出てしまったこの一言は本心だった。この言葉が本心でなかったら、すぐに冗談だと言えた。でも僕の心はそれについて嘘をつきたがらなかったから僕は伝七に今のは冗談だった、とすぐに言えなかった。
伝七は笑いもせず、僕の顔を凝視していた。伝七の方もすぐに気持ち悪いとか言ってくれたら良かった。好きだっていうのは友達として、の意味でだと普通はとるだろうし。でも僕らの間柄ではそういう訳にはいかないんだろう。伝七も薄々感づいていたんだ。僕の気持ちに。でも伝七はそれに答えることができない。僕もそれをわかっていたから自分の気持ちは絶対に伝えるつもりはなかった。伝七とケンカして、仲直りして、そんな関係で良かった。それなのに、僕は、今…。ごめんと謝りたくても、それは今言ったことを肯定してしまうようで、やっぱり出来なかった。
でも、何か言わないと僕たちの関係がこのまま終わってしまいそうな気がした。だから、僕は一番言いたくなかったことを口にした。それは僕の気持ちを全て否定するものだった。

「なに本気にしてんだよ。冗談だよ」

伝七の顔を見ずにいった。それにはわずかしか見せられない否定の意味を込めていた。それも全部伝七はわかってるって、そう思う。
今、伝七はどんな顔をしているんだろう。怒ってくれたらいいのに。いつもみたいに。そうしたら、僕の失言はただのからかいと冗談になるから。

「…ふうん」

伝七はそれだけ言うとなにも言わなかった。怒っているのでもなく、僕にはどんな気持ちで伝七が今いるのかわからなかった。僕は馬鹿だ。本当に。僕も伝七も明日からは今までのような二人ではいられないんだ。
僕はやっぱり伝七にごめん、と謝りたかった。今はもう、それだけだ。






「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -