(寂しくない)

寂しい、そう思った。
急に込み上げてきたその感情は忘れようと思うほど私の思考の邪魔をする。長い間忘れていたこの感情は、懐かしいというより不快感を私に与えていた。早く忘れたい、そう思う。私は伊作君に会いたい。



「なんだか寂しくなったんだ」

寂しいなんて言うつもりはなかったのに、伊作君の顔を見たら本当のことを話したくなってしまった。伊作君は戸惑う素振りも見せず、なにも聞かなかった。



寂しいなんて子供みたいなことを言うものだ。そう思ったが、それを口にはしなかった。雑渡さんは日頃そんな感情を持つようには見えないから、ふと、そういう気持ちになるのかもしれない。ほんの少しだけ。



「君は急に寂しくなったりしないか」

寂しいか寂しくないか。そんなの寂しいに決まっている。しかし、そんなことを雑渡さんには伝えるつもりはなかった。言ったって何がどうなるのか。

「…人は、寂しいのが当たり前ですから」

そう答えてしまうのは、当てつけなのかもしれないし、強がりなのかもしれない。雑渡さんは勝手な人だ。寂しいと思った時だけ僕に会いに来て、寂しいと口にすればいい。僕は常に寂しい人だ。それを雑渡さんは知らない。今は雑渡さんがいるのに、寂しく虚しかった。





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