(嫌いな理由は建前だった)
「ひゃくてん!」
そう言って僕の前に掲げられた100点の解答用紙の後ろには伝七の誇らしげな顔が見えた。憎らしい、と思った。僕はこいつが嫌いだった。
僕は自分より優秀だったり、目立つやつが正直言って嫌いだ。本当のところ、庄左ヱ門のことも妬ましく思っている。しかし庄左ヱ門は尊敬できる所があった。でもあいつには、伝七には、ただ不快感しかわかない。たぶん、それはあいつの性格せい。
この間の共同実習の時、いい結果を残せてもこいつはすぐに喜ばなかった。先生や友達に褒められて初めて喜んだ。こいつは自分を他人の中に置くやつなんだ、と思った。同じ優等生の庄左ヱ門は自分の為にやっているのに。
人に認められるために努力する。褒めてもらいたいから努力する。そういう所が嫌いだ。なんで他人のことを気にするのか。なんで自分の為にじゃないのか。
今も僕という他人に認められたくて、僕に言いにきたんだろう。
僕の手は伝七の頬にのびる。憎らしくてしょうがなかった。
「いたっ」
僕の手は伝七の頬をつねる。僕の手はそういう考えの上で動いているんだ。単純な嫌いだからとか、苛めたいからという浅はかな気持ちじゃない。
「うざいなすごく」
そういって僕はそっぽを向いた。伝七は何か言っていたが、聞こえないふりをした。
伝七にうざい、と言ってみたけど自分も十分にうざいとわかっていた。他人との面倒な付き合いが煩わしいから人と深く関わらない、それが僕の生き方だ。それで多少嫌いな人とも上手くやっていけているつもりだった。それなのにあいつとは、上手くいかない。自分でも不思議だった。当たり障りのない関係を築くというのがあいつとはできなかった。
そんなことを考えている自分がさらにうざいと感じて、僕は眉間に皺を寄せる。伝七は僕のそんな雰囲気を感じてか口をつぐみ、僕から離れていった。100点の解答用紙は伝七が右手に持っている。あいつは優秀なんだ。それを認められないのは、本当はあいつの性格だけじゃないんだ。