(夏い暑)

暑い。今年の夏は特に暑いと感じる。こんな時に実習なんて馬鹿じゃないのか。この学年にもなってかくれんぼもどきを屋内でやるってさ、時期を考えて欲しかったし制服も厚着だ、と先生達への不満は募る一方だ。忍にとって重要なことだとはわかっているから、文句くらいは許してほしい。
手の甲で額を拭う。木陰にジッとしていても汗が滴ってくる。

「はぁ、あつ…」
「暑いって言っても涼しくならないよ」

雷蔵とは同じ場所に隠れている。暑いと言っている割には隣に座る雷蔵との距離はかなり近い。

「寒いって自己暗示をかけたらいいって本で読んだ」
「おお寒い」

そんなことを言ってみてもやっぱりそんなに涼しくはならなかった。

「全く涼しくないな」
「三郎が心の中で涼しくなるなんてあり得ないって思ってるからだ」

心の底から寒いと思うのが大事だ、と雷蔵は熱弁し始めた。本当に寒いと思い込むのは普通の人には無理だろ、と言いそうになったが辞めた。暑さのせいだ。まぁ、今涼しくなるのは不可能ってことだろう。
なんだか考えごとをしていたらさらに暑くなってきたような気がする。頭がぼぉっとしてきた。しかしさっきから何か重要なことを忘れているような…。なんだったかな。
思い出せないな、と雷蔵の横顔に視線を移すすと、まだぶつぶつ言っている雷蔵の匂いが鼻をくすぐった。ああそうだった。こんな雷蔵と二人きり、しかも密着しているこんな状況で雷蔵に手を出さないなんて私じゃない。暑さにやられてすっかり忘れていた。だが、こんな時にまでそんなこと考えていると雷蔵に思われるのはさすがの私でも心外だ。いかに自然に持っていくか、それが私のテクニックの見せ所だな。結局は考えごとをしているのだが、そんな妄想をしていたら暑さもあまり感じなかった。

「あっ」
「えっ?」

ぶつくさ言っていたはずの雷蔵は突然立ち上がると私の手を掴み、走りだした。

「どうした?」
「鬼だよ!」

後ろを振り返るとクラスメイトが追いかけてきていた。全然気付かなかった。暑さのせいだ、多分。しかしあのクラスメイトは本当空気読めないんだな。そう思い、ため息をつこうとした時、私と雷蔵は手を繋いでいることに気付いた。そういえば最近手を繋いでなかったな。手を繋ごうなんて、なんだか今さら感があるし恥ずかしくてなかなか言い出せなかった。たまには初心に帰ることも必要なのかもしれない。
今はなんだか懐かしいような、初恋の甘酸っぱい思いが蘇ったような、そんな気持ちでいっぱいだ。そう思うと夏の暑さも、実習を計画した先生も、空気の読めないクラスメイトも許せるような気がした。





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