(男の戰い)


廊下を向こうから歩いてくる、伝七と目が合った。伝七も僕もお互いに目を逸らそうとしない。別に見つめあってるんじゃない。これは戦いだ。目を逸らした方が負けっていう。

最初にどっちが始めたかは忘れた。でも互いに負けず嫌いだから、止めるタイミングがわからない。






今日は図書室で調べものだ。めんどくさいから伝七がいなければいいのに。しかしそういうことを思う時に限っているんだな。しかも人が沢山いて、伝七の周りしか席が空いてない。最悪だ。一緒に来た伊助は伝七の前の席に座ってしまった。僕に伝七の隣に座らせたいのかこいつ、といらん詮索をしてしまう。
話しかけるのも何だから無言で隣に座った。伝七は僕を見ない。多分僕だってわかっているからだろう。
それからは全く喋らない。ここが図書室でよかった。伝七と喋らなくても不思議じゃないから。
しかし、伝七はやっぱり伝七だった。伝七が消しゴムのカスを払った時、消しゴムに手が当たった。その消しゴムは飛んでいく。僕は手をのばす。実は僕は優しいから。しかし伝七も手をのばした。僕の方が早かったが、伝七の手も消しゴムを捕らえていた。そうすると、手は重なる。最悪だ。気まずすぎる。僕が取ってやろうというのにこいつは自分で取ろうとして馬鹿なの?なんて、その時は考えられなかったけど。
反射で伝七の顔を見る。ああ、目が合ってしまった。この至近距離で目が合うなんて。最悪だ。
目の前にあるのは伝七の黒く大きな瞳。こいつってこんなにまつ毛長かったんだ、そんなことを考えているとなんだか恥ずかしくなってきた。でもここで逸らしてしまうと伝七に負けたことになる。でも、もう、無理。僕はこの不毛な戦いに負けてしまうんだ。ああ情けない。
僕は伝七の手に視線を落とした。でもその手の下には僕の手が。こいついつまで僕の手に自分の手を乗せておくつもりなんだよ。伝七の手を見るのもいたたまれなくなって、もう一度伝七に視線を戻す。しかし伝七は僕を見てなかった。これは負けてないかもしれない。
どっちが先に目を逸らしたんだ、と言おうと口を開いた時、伝七の視線は僕の視線とぶつかった。今度はお互いに思いっきり反対の方向を向いた。さっき言おうとした言葉は飲み込まれたようだ。しかし、開いた口は何か言おうとする。

「えっ…と」
「な、なんだよ」
「…お前が先だろ」
「いやお前だろ」

伝七はさっき目が合ったことが恥ずかしいのか、全く僕の方を見ない。無言なのが気まずい。

「あーもう止めだ!こんな遊び」

伝七はそう言うと図書室から逃げていった。逃げたと言ったら怒られるかもしれないけど、多分逃げた。
ため息をつきながら、伊助の方を見ると変な顔で僕を凝視している。

「なんだよ」
「なんか気持ち悪い。見つめ合って」
「違う。戦いだ。男の戦い!」

そう、これは戦い。伝七は遊びだと思ってるみたいだけど、戦い。だって遊びにしたら危険じゃないか。なんだかドキドキして、恋に落ちそうになるんだから。




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