(また嘘を)


最近学園中の様子がおかしい。ただの忍たまの僕には情報がよくまわってこないが、曲者が学園内にいるようだ。まぁ僕たちにはあまり関係ないだろう。先生や六年生がなんとかするだろうから。

しかしその予想は外れていた。忍たま達が曲者がいると噂をし始めてから随分と時間が経つのに、一向に曲者が捕まったという話を聞かない。それどころかそろそろ五年生にも曲者を捕まえるようにと通達がくるらしい、という話を聞くようになった。皆がそれは時間の問題だろうと感じていた。






「皆ある程度は知っていることだろうと思うが…」

ある日の朝のHR、先生はそう切り出した。皆は来たかといった顔で話を聞いていた。教員と六年生で曲者を捕らえようとしていたが、なかなか出来ないでいるので五年にも協力をということだった。直接言われなくてもわかる。かなり学園は曲者に手こずっていて本気でどうにかしないと、という所まできているんだろう。実際に怪我をした人までいるようだから。

「なあ、大丈夫かな」

HRの後、竹谷が話しかけてきた。

「今までこんなことなかったから、よくわからないね…」

今竹谷に大丈夫だろうと言葉をかけることは簡単だ。でもそれは明らかに嘘だから。今の学園はそんな雰囲気だった。

「ねぇ三郎?」
「ああ、早く捕まってほしいな」

三郎も大丈夫だという言葉は口にしなかった。






あれからまた時が経つが、まだ曲者は捕まっていない。
なるべく一人で行動しないようにと言われていたが、委員会から帰るときは短時間だが一人になってしまう。それに今日は遅くなってしまったから、廊下には人がいない。下級生は一人にしないように早めに帰らせたが、大丈夫だろうか。そんなことを考えながら、角を曲がった時だった。目の前に黒い影が飛び出してきた。
殺される、咄嗟にそう思った。そこまでにそいつは殺気を纏っていた。でも僕は相手を殺すか殺すまいか悩んでしまった。本当なら殺すつもりで相手に向かわなければいけない。こんな状況でも僕の悪い癖は出てしまった。
僕が反応をするより早くそいつは動く。口を塞がれ、苦無が僕の首につきつけらる。

「んっ…」

息が出来ない、苦しい。僕は無力だ。忍たまのくせに何もできなかった。僕は殺されるんだろう。遠のいていく意識の中で苦無を握る、そいつの手が見えた。






目が覚めた時、最初に目に入ったのは天井だった。それが医務室の天井だとすぐには気付けなかった。

「雷蔵!」

聞き慣れた声に隣を見ると不安そうな顔をした三郎がいた。

「三郎…」
「よかった…」

三郎はずっといてくれたのだろう。

「本当に心配したんだからな」

三郎の手が僕の頬に伸びる。三郎の手の方が少し体温が高い。

「僕、死んだかと思った」

僕の言葉を聞いて三郎は辛そうな顔をした。

「そんなこと言うな」
「ごめん、」
「…痛い所とかないか?」
「ああ」

あいつからは確かに殺気を感じたのに、僕は無傷だ。全く怪我をしていない。

「飲みものか何かもらってくるよ」
「うん」

三郎は僕の方を振り返り、気にしながら出ていった。多分、本当に心配してくれている。
でも僕はそんな甘い雰囲気に浸ってはいられない。

あの時、遠のいていく意識の中であいつの手を見た。その手はよく知っている誰かの手に似ていた。僕は絶対にそのことを認めたくなかった。でもさっき同じ手が僕の頬を優しく撫でた。
僕に苦無をつきつけたあの手は、三郎の手だ。僕より大きくて、優しいはずの手。

「三郎、僕は君がわからないよ…」

何故三郎がとか、何の為にといったことは僕にはどうでもいい。ただ…。君はまた僕に嘘をついた。それはまた、僕も君に嘘をつかなければならないということだ。襲われたのが僕じゃなかったら、わからないままだったろう。それは僕だからわかることだから。三郎といつも一緒にいて、彼を愛している故に。
三郎が戻ってきたらどういう顔をして話せばいいのだろうか。そんなことを考えていることが、今まで三郎と過ごした時間を全て否定されているようでとても寂しかった。





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