(あなたは僕の)
「甘いものが食べたいです」
僕は呟いた。雑渡さんは僕の顔を見つめていたが、フッと笑うと何処かに行ってしまった。しばらくして帰ってきた雑渡さんは包みを持っていた。
「はい、」
雑渡さんは僕にその包みを僕に差し出す。それは多分僕が食べたいって言った甘いもの。でも僕は素直に貰わない。
「やっぱりいいです」
本当はとても食べたいし、嬉しい。でもこれくらいのわがままは聞いてもらわないと。ことの発端は雑渡さんなんだから。
「わがままなのも可愛さだよ」
この前、雑渡さんは急にそんなことを言った。それは僕への当て付けなのか。この歳になるとわがままなのもなんだか可愛らしく見えてくるんだ、とかそんなこともほざいていた。僕はその時は雑渡さんに何も言わなかったけど、そんなことを言ってしまったことを後悔させてやろうと思った。
僕はわがままじゃないと自分でも思っていたから、雑渡さんにあんなことを言われてちょっと傷ついたんだ。だから雑渡さんに仕返しをしてやろうと、僕はわがままになろうと決めた。
でも雑渡さんにそうやって接するのは少し心が痛む。さっきだってせっかく雑渡さんが持ってきてくれたお菓子なのに結局食べなかった。悪いなと思ってしまうけど、雑渡さんがあんなことを言って悪かったと言うまで僕はそれを辞めない。
しかし雑渡さんはなかなか折れなかった。僕のわがままに全部付き合ってくれてる。僕は思いつくかぎりのわがままをつくしたのに。段々と僕は雑渡さんに腹が立ってきた。なんで僕の気持ちに気付かないんだって。でもそれと同時に雑渡さんが何故あんなことを言ったのかもわかってきた。
「雑渡さん」
「ん?甘いもの?それとも喉が渇いたのかい」
雑渡さんは僕が言う前に僕の欲していることを当てるようになっていた。そういう出来すぎる男な所が少し憎い。でも今回は甘いものも飲みものもほしいわけじゃない。
「僕はわがままじゃないと自分でも思ってました」
だからあの時傷付いた。
「でも、本当はわがままでした」
甘いものも何もいらないから、雑渡さんに僕の気持ちをわかってもらいたかった。でも自分で言葉にしないくせに僕の気持ちを雑渡さんに気付いてほしいなんて、一番のわがままだろう。
「ああ、だからあの時私は可愛いって言ったんだ」
雑渡さんは優しく笑う。
そんな雑渡さんを一人占めしたいのも僕のわがまま。