(王手は追う手)


「滝夜叉丸!」

自分の名を呼ばれて振り向くと、七松先輩が笑っていた。その手にはモグラが。

「どうしたんですかそれ!」
「塹壕掘ってたら見つけた」
「汚い…」
「汚いって…可哀想だろ」

それだけ言うと七松先輩は走って行ってしまった。
最近七松先輩はことあるごとに私に一々報告してくる。なんでなんだろう。




こういうことがあると私は何故か誰かに話したくなる。今日の聞き手は綾部だ。つまらなそうだが、そんなことは気にしない。

「この前も私にバレーボールを新調したとか言って。大したことじゃないのに」
「滝夜叉丸ってさ、最近七松先輩の話ばっかだね」
「別にそんなこと…褒めてるわけじゃないし」
「あのね、悪口とか言い始めたら好きってこと。あと、」

綾部の口角が上がる。

「好きな人には些細なことでもよく話しかけるんだって」
「えっ」

それは七松先輩が私のことを好きだってことか?

「それは本気と書いてまじで?」
「…なんか滝夜叉丸の反応じゃない」

綾部は残念だとでも言うように溜め息をついている。

「私をからかうなっ」
「別にそれは嘘じゃないからね」
「本当に七松先輩は私のことが好きだと思うか?」

七松先輩が私のことを好き。それが本当なら私は…。

「本当の所はわからないけどね。私は七松先輩じゃないから」

綾部は確実な答えをくれない。でも端から見てそう思うのなら、と心の何処かで期待しているのは私。

「というか、滝夜叉丸の方はかなり好きなんでしょ」

そう綾部がボソッと呟いたのが聞こえたが、無視した。七松先輩を好きだって今は言いたくない。七松先輩が私を好きだって確信が持てれば、認めてやってもいいけど。





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