(はと)


鳩が逃げない。近付いても気にはしているようだが、それは餌をくれるのかと期待しているようにも見える。人間に慣れすぎている。この鳩は野生では生きていけない。身の危険を察知できなくなっているから。

「雑渡さん」

伊作君が駆け寄ってきた。それでも鳩は逃げない。

「鳩に餌持って来ました」

伊作君の周りに鳩が集まる。伊作君になついていたのか。

「お腹空かしてると何だか可愛そうで」

君は自分の罪に気付いているんだろうか。その鳩は本当に幸せなのか。
でもこの鳩は私。飼い慣らされた鳩。人に慣れすぎた鳩。もし伊作君が私に牙を向いても私は直ぐに逃げられないだろう。その前に兆候を察知するべきだがそれもできない。慣れすぎているから。

「ほっとけません」

その言葉は私に向けられているようで。伊作君の優しさは鳩を甘やかす、私を甘やかす。

「伊作君は優しいから」

これは本心。でも良い意味ではない。
私はその鳩と同じ。もう、生きる力はない。

「いえ、」

そう言って私を見つめる君は気付いているんだな。私がもう君から抜け出せないことに。





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