(指輪)

雷蔵がさっきからくのいちのグループを見つめている。そのせいで私は昼食の箸が進まない。もしかして私より好きな人が出来た、とか。雷蔵にそんなこと言われたらどうしよう。男として潔く別れるか、自分の気持ちを尊重するか。悩む…。そんなことを考えていたが杞憂だったようだ。よく雷蔵の視線の先を観察していると見ているのは、あるくのいちの左手の薬指に光る指輪だった。なるほど、雷蔵はその指輪を羨ましがっているようにも見える。
私は指輪は単なる偶像崇拝だから、そんなもので愛は計れないと思っていた。愛は形にできないのだ。指輪があっても愛が無ければ意味ないだろう。しかし雷蔵が欲しがっているのなら話は別だ。私は雷蔵が望むことはなんであろうとしてあげたい。
中途半端なものは渡せない。いや渡したくない。男としていや漢として、ここは本気で。そうなるとバイトか。きり丸に斡旋してもらって…。

「三郎、食べるの遅いよ。僕もうとっくに食べ終わってるんだけど」

雷蔵にそう声を掛けられるまでに私の考えはそこまで及んだ。






それからというものバイトバイトバイト。勉学にも励みながらであるから、我ながら雷蔵への愛はこれほどのものなのかと感心する。しかしバイトばかりをしているとおろそかになってしまうものがある。

「三郎」
「ん?」
「これからちょっと付き合ってほしい所が、」
「ごめん…用事あるから」

雷蔵は悲しそうな顔をしたが、今は理由が言えない。私の心も挫けそうだが言えない。もう少しの辛抱だから。待っていてくれ。






さすがの私も疲れてきていた。最近は雷蔵と二人きりになる機会も少なくて参る。久しぶりに話せると思ったら雷蔵は不機嫌だし。部屋で喧嘩をしてしまうのは避けたい。

「三郎、最近忙しそうだね」
「ああ、ちょっと」
「なんで?」
「それは…言えない」
「僕に言えないことって?」

雷蔵の目が私を見つめる。

「何?」

私はもう落ちそうだ。雷蔵はわかってるんだろう。こうしたら私は嘘がつけないって。

「…指輪を、」
「え?」
「指輪を買ってやろうと思って。この前くのいちの指輪見てただろ?ちゃんとしたものを、と思ってバイトを」

雷蔵は戸惑っていたようだが、すぐに笑顔になった。

「僕は別にそんなに高価なものがほしいんじゃなくてさ」

「ただ、あの子は愛されてるんだと思って。相手は誰だか知らない僕たちにも、それは見ればわかる」

「でも僕のわがままだからさ。それより三郎と一緒にいたいよ」

そう言って私から視線を外した雷蔵は笑っていたが、どこが寂しそうだった。そんな雷蔵を見ているとやっぱり指輪をあげたくなるだろ。私は箪笥の引き出しから毛糸を出し、小さいわっかを作る。指輪のつもり。

「こんなのだけど。とりあえずは私の愛の証」
「…ありがとう」

こんな陳腐なものでも喜んでくれる雷蔵が好きだ。

「本当はさ、」
「ん?」
「僕は三郎に愛されてるって皆に自慢したかっただけだよ」

そう言う笑顔には寂しさなんてなく、バイトをしていて雷蔵に会えなかった時間がひどく勿体無かったと今更気付いた。



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