(私の傍にいてほしい)


確かその時は、とても暑い夏
私が4年生で七松先輩は6年生だった。先輩は見せたい場所があるから、といって委員会後に私を連れだした。学園内であるはずだが、そこは人の入るような場所ではなく七松先輩らしいと思ったことを覚えている。私は私で、汚れるなどと私らしいことを考えていた。

ここは私の秘密基地といって先輩は笑った。滝夜叉丸だけにしか教えていないと。七松先輩にとっては特別な場所なのだろう。しかし今となってはどんな場所だったのか覚えていない。七松先輩は何にも考えずに私をこんな場所に連れて来たのではなかったのだろう。私は七松先輩の口から言葉が出るのを待った。

「滝夜叉丸には私の良いところだけじゃなくて、嫌な所も覚えておいてほしいんだ。」

今考えると唐突に変なことを言うものだ。しかしあの人はそういう人だったし、その時の先輩はそんなことを考えられないくらい本気だった。私はそんな雰囲気に呑まれながらもある言葉を言おうとした。七松先輩はその言葉を待っていたのだろうと思う。しかし喉まで出かかっていたそれは私の口から出ることはなかった。


あの七松先輩の言葉は今でも鮮明に思い出せる。しかし七松先輩の顔は曖昧で正確にはもう思い出せない。私の学園での生活で一番鮮やかで楽しかったのはあの時だったのに。あの人のことはあんなに大切だったはずなのに。

七松先輩との約束を結局私は守れなかった。今先輩のことを思いだそうとすると、やっぱり良いところしか思い出せないのだ。あの時先輩に言えなかった言葉もまた、思い出せないのは何故なのだろうか。



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