(こころ)


「伊作君、髪切ったんだ?」

久しぶり、と僕の目の前に現れた雑渡さんはそう言って僕の髪を撫でる。髪を切ったのはいつだったか。正確に思い出せないくらい前のことだ。

「今まで気付きませんでした?」

かなり長かった髪をばっさり切ったから一目でわかるはずだ。

「切ってから会ってないんだろう」

そうか、会ってないから。髪を切ってから一度も会っていない。僕は胸が締め付けられる。髪だって、切った時から伸びてるんですよ…?
髪を切ったばかりの僕を雑渡さんは知らない。そうやって雑渡さんが知らない僕も増えていって、僕が知らない雑渡さんも増えていくのだろうか。それに、髪だけじゃなくもっと僕が変わってしまってもその時すぐに雑渡さんには会えないだろう。会った時に僕だと、雑渡さんはちゃんと認めてくれるだろうか。
雑渡さんがこんなに近くにいるのに、僕の心は満たされない。
僕は雑渡さんに背中から抱きつく。

「…すまない」

雑渡さんは呟く。何も聞かずに謝るだけ。こんな僕の気持ちがすぐにわかってしまうほど雑渡さんは大人なのか。でも謝らないでほしい。雑渡さんが悪いんじゃない。悪いのは僕の不安定な心だから。
本当は、雑渡さんに髪を切ったことに触れてほしかった。でもそれを忘れてしまうほど、会えない時間が長かったなんて思ってなかった。髪を切るのが怖い。雑渡さんに会えない間に自分が変わってしまうのが怖い。
僕は目を瞑る。こんなことで傷ついてしまう僕は、とても弱い。





「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -