(幸福のかたち)
今日はしくじった。手に結構な怪我をしてしまった。怪我は伊作君に会いに行く口実でもあるが、こんな怪我は伊作君を心配させてしまう。かと言って会いに行かなくとも、次に会ったときにばれてしまう。
最近は伊作君を悲しませたくなくて、怪我をしないように気を付けていた。以前はこんな怪我は戦の度にしていたのに、久しぶりにした怪我はとても痛く感じる。平和ボケか。それは良い事なのか悪い事なのか。
「雑渡さん大丈夫ですか!」
「こんな怪我は今まで沢山してきたから」
「でも、」
伊作君はやはり辛そうな顔をする。そんな顔は見たくないんだ。怪我をするようなヘマをしたことを後悔する。
「結構切れてますね…。でも命に関わる程ではないみたいです」
「ああ」
伊作君は本当によかった、と呟く。心配させてしまった。
「でもこのままじゃ…そうだ。縫いましょう!」
「大丈夫だよ。伊作君縫ったことなんてないだろう?」
「でも縫えます!縫います!」
何故だか伊作君は目を輝かせている。最近覚えたんです、人間は雑渡さんで初めてなんですけど、などと伊作君は言いながら針と糸を探している。人間は初めて…人間じゃないものは今元気なのだろうか。これは本格的に伊作君に縫ってもらう方向で話が進んでいる。
「怖いな…」
「心頭滅却すれば火もまた涼しです!手、出して下さい」
これは恐ろしい。勝手に伊作君のいい人間モルモットにされている。
伊作君は針と糸を片手に私が手を出すのを待っている。その顔はなんだか嬉しそうだ。
これからは大怪我の時は縫われるんだろう。しかし、悲しい顔をする伊作君を見るのに比べたら遥かに私は幸せだ。私は大人しく手を差し出す。私は伊作君に甘いな。