(こくはくは)
この私があんなにアタックしているというのに藤内は一向に気付く気配がない。あのどんにはもっと決定的な何かが必要なのか。告白、とか
今日は作法委員会の日である。しかし特にやることのない忍たまたちは課題や読書など好きなことをしている。私は藤内の近くで本を読む。普段私は本を読まない。
「珍しいですね。本を読むなんて」
案の定藤内は話しかけてくる。シナリオ通り。
「この本面白いよ。見る?」
「いいんですか?じゃあ…」
先輩に貸そうかと言われれば断れない。それに真面目な藤内だ。ちゃんと読んでくれる。次の日私は藤内に本を貸した。本には正直あまり興味はないけれど、ちゃんと読んだ。
告白とはどうすればいいのか。呼び出して好きだと言う。そんなの無理だ。呼び出しても緊張して、結局言えず落とし穴に落としてしまいそうだ。今まで藤内に好意に気付いてもらえるように色んなことをしてきたが、何故それができて好きだ、と一言告げることができないのか。面と向かって告げられないなら…私は本に気持ちを託した。
しかし次の日もその次の日も藤内は本について話しかけてこない。読んでないのかもしれない。気付いてても言えないのかもしれない。様々な考えが頭をよぎっても、自分から藤内に催促するのは恥ずかしくて無理だった。そんなことをしているうちに1週間が経ってしまった。今さらこんなことをしなければよかったと思い始めていた。
そんな時だった。私が長屋の廊下を歩いていて、目の前に急に藤内が出てきたのは。突然の藤内の登場で私は思考回路が一瞬停止してしまう。走ってここまで来たのか藤内の頬は紅潮している。
「あっ綾部先輩!」
「…藤内…どうしたの?こんな所で」
「あの!綾部先輩に用があって。本のことなんですけど」
来た…突然は無理。頭の中で何度もイメージしていたのにそれは今、どこかに飛んでいってしまった。
「うん…」
「すごく面白かったです。」
藤内は本の内容について話している。私も本の内容を思い出しながら相づちを打とうとするが、思い出せない。集中できない。
「本当にありがとうございました。」
と言って藤内は貸した本を差し出す。
「ではまた作法委員会で」
藤内はもう踵を返そうとしている。拍子抜けする。もしかするとあれを見つけられなかったのか。そんなはずは…でも、もう、その方がいいんだけど。私は手元にある本に挟んでいたあるものをさがす。穴でも掘りに行って落ち着こうか…と思いながら
「あの!それと」
藤内の声に顔を上げる。その手には私が探していたものが、
「僕は直球が好きなんです。でも、」
私は本に仕組んでいたものは栞。直接伝えられない思いを記したもの。今思うとなんでこんなことをしたのだろうかと恥ずかしい。考えた時は私の方が藤内の一枚も二枚も上手だと思ったのに。
「綾部先輩も好きです」
藤内の方が上手かもしれない。私の気持ちにはいつ気が付いていたのか。