(テスト期間だと仮定して)


―――来週からテスト期間なんです。だから僕に会いにこないで下さい。

伊作君にこの前こんなことを言われた。正直ショックだった。伊作君は実技はともかく、座学の方は優秀だと思っていた。私と会っていてもしっかり勉強はしているものだと。いや、試験ができないということがショックなのではなく伊作君に会いに来るなと言われたことがショックなのだ。伊作君に私は会いたいのに。


伊作君は今日からテスト期間なのか…。仕事中だというのにそんなことを考えてしまう。忍び頭の面目丸潰れだと思いながらも、頭の中はこの頃その事ばかりだ。自分でもあんなことを言われたくらいでこれほど心にずっしりとくるとは思っていなかった。もう36なのだし、いい大人だと自分でも思っていたのだが。テスト期間だからあんなことを言ったのだ、と自分に言い聞かせても心のモヤモヤは拭えなかった。
仕事が終わると私の足は自然と忍術学園へと向かっていた。こんなことをしていたら嫌われるな。伊作君に顔を見せずに帰ることにしよう、そう決めた。少し顔を見るだけだ。伊作君に気付かれないように、私が安心するだけ。
夜とはいえさすがに真っ正面から学園には入っていけないので塀から侵入する。伊作君に会うだけのためにここまでしないといけないのが少し切ない所である。
屋根裏から伊作君を探す。部屋にいるのだろう。


伊作君は部屋で一人で勉強をしていた。分厚い本を広げ、紙に何かを書いている。
いざ顔を見てしまうと、今さっき会わないと決めたのに伊作君の前に姿を表したくなる。声を聞きたい、触れたいと思ってしまう。私の決心は揺らぐ。もう、出ていこう。伊作君には会いたかったと正直に告げよう。

「雑渡さん、あの、」

決心が揺らぎ出ていこうとした時、伊作君は口を開いた。
私がいたことがばれてしまっている。私としたことが。そこまで私は注意力が散漫になっていたのか、伊作君にどう言えばいいのか、様々な思いが頭を巡る。まず、出ていった方がいいのか。そんな私の思いを知ってか知らずか伊作君は構わず言葉を続ける。

「僕も雑渡さんに会いたいです。でも今あったら勉強が手につかなくなりそうで、だからあんなことを言ってしまいました。」

伊作君の言葉が私の心に響く。私は伊作君のことを信じきれていなかったんじゃないか。いつもは私の方が伊作君を待たせておいて、私が待てないなんて。私の何倍も寂しい思いを伊作君はしているのに。私はさせているのに。
そっと部屋を後にする。私は結局伊作君の勉強の邪魔をしてしまったな。今度会うときは始めに謝ることにしよう。
そして私は伊作君に言いたかった言葉を呟く。

「私も会いたかったよ。」





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