(素直になれたら)


僕は伝七に聞こえるようにあいつの悪口を言う。別に本気で思ってることじゃない。でも伝七の気にしてることを本当に怒らない程度に、本当に傷つかない程度に。そうすると伝七は僕のことを見てくれる。
自分でもわかっている。僕は伝七にかまってほしいんだ。


「伝七がまた泣いてるんだ。お前にやられたって」
「知らないよ。勝手にあいつが泣いてるだけ」
「いい加減止めてやれよ。好きなんだったら尚更、」
「誰が誰を好きだって?馬鹿言うな」

面白くない。左吉には全てばれてしまっている。
伝七は左吉には弱い所を見せるんだな。僕の前では泣きながらも、強気なことしか言わないくせに。腹が立つ。僕が伝七の一番じゃないことに。だから伝七の気を引きたくて悪口を言う。結局伝七を泣かせてしまって、左吉が出てきて。悪循環だ。でも僕は伝七との接し方を他に知らない。それに僕はそういう性格なんだ。


また今日も僕は伝七の悪口を聞こえるようにいう。今日も伝七と話したくて、僕を見てほしくて。
でもなんだかおかしい。どうしたのだろう。気にはしているみたいだが、いつもみたいに突っかかってこない。
もしかして左吉…あいつが伝七に何か言ったんじゃないか。

「左吉!」
「なんだ、兵太夫か」
「お前、伝七に僕のことなんか言っただろ?」
「なんでお前にそんなこと言わないといけないんだよ。伝七のことなんとも思ってないんだろ?」
「…そうだよ。ただ、反応がなくて面白くないだけ」
「ふぅん、それだけ?じゃあな」

左吉はもう僕と話すつもりはないようだ。僕はこいつとは絶対に合わないな。
それにしても、伝七は…。左吉から何か言われたのは確実だろう。
左吉にはああ言ったけど本当は不安なんだ。僕は伝七に正面から向かっていけないから。いつ伝七がこっちを向いてくれなくなってもおかしくないと思っているから。


馬鹿の一つ覚えと言われても僕には同じことを繰り返す。
お願い、伝七、僕を見て。

「兵太夫!左吉にもう絡むなって言われてたけど、我慢できない!」
「…でも、本当のことだよ。」

本当によかった。伝七ともう話すことができないかと本気で思い始めていた。
でも久しぶりに伝七と話したのに、僕の口から出たのは憎まれ口だった。さらに伝七を怒らせている。ここまで僕は自分が馬鹿だとは思ってなかった。あんなに伝七のことを考えていたのに、素直にそれを告げられない。
やっぱり僕にはこんな接し方しかできない。僕は伝七にこの気持ちを伝えることができるのだろうか。不器用という言葉だけでは説明できないくらい、複雑なこの思いを。でも今は、怒る伝七の声を聞いていたい。



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