小説 | ナノ

  夜景と、水と、幹部と





「ロシアンルーレットやるべ」
 執務机の上に座り足を組み、指先を可愛い部下どもに突きつけてまず宣言。が、帰ってきたのは予想より低いテンションだった。俺の前にずらりと立っている頼もしい男四人は、まるで地面に落ちていた1ペンスが良く見たらメダルだった、というようなしけたツラをして俺を見ていた。
「おまいら揃いも揃ってそんな顔すんなようカポ傷つくわ」
 俺がツッコミを入れると、俺の前に並んだ格好良い野郎どもは一斉にやいやいと言い始める。
「テメー、ジャン!パーティまであんま時間ねえんだぞ!俺だって準備とか色々となぁ…」
「随分と唐突だなジャン。……何かあったか?」
「オイオイ、まさかとは思うがーーー忙しい俺たちをわざわざ呼び出した用件は…それか?」
「ジャン、さん…なにか考えが?」
 あーもう!一気に喋るなうるせえ!!
「あー……ちょ、マテ、待て!シャラーップ!」
 注目を集め奴らを制すると、途端にしん、とした静けさがやってきた。こほん、とワザとらしい咳払いをひとつ。
「ーーーお前らが忙しいのは俺も身を持って理解している。こんな時に集まって貰って正直すまん。ケド、今日の俺は主役っつーことで、カポ権限フル活用しても許される日だから。ウン、俺が今決めた。と、いうワケでカポ命令で強制参加だかんな」
「ハアア!??何抜かしてやがんだこのタコ!?」
「これはまた…。毎度ながら我らがカポの蛮勇には恐れ入るな」
「オイオイ、なんて暴君だ。容赦なく職権乱用しやがってこのヤロウ」
「あ、…俺は……ジャンさん、に従います…」
 半ば呆れたような笑みや引きつった顔をしている面々を一瞥してから、にやりとわざとらしく口角を上げた。
「まーまー。文句は話が終わってからにしてくれるかねソクン。お前らにも損は無いハナシだぜ?」
 俺がそう言うと、ご自慢の腕時計をちら、と見たベルナルドが何か言いたそうな他の幹部達より先に口を開く。
「……勿論構わないが、ジャン。お前の誕生日パーティーまで時間があまり無い。手短に頼むよ」
「あいよ。ロシアンルーレットは皆知ってるよな?リボルバーに一発だけ実弾を込めて、それを順番に回しリボルバーを自分の眉間に当てて打つってヤツ。今回は小麦粉ターップリのこの弾をダミー用に、実弾の代わりはこのクラッカー弾を使わせてもらうわ」
 コンプレートのポケットから昨日からコッソリと開発していた弾を取り出し、手のひらでころりと転がす。四人はそれを見、口は開かないものの眉間に皺を寄せたり、鼻で笑ったり思い思いの反応をして見せた。イヴァンなんかそわそわしてら。何が言いたいか見てるだけで分かっちまうぜ。俺は手のひらからひょいとクラッカー弾を摘んでにやりと笑った。
「コイツを撃てばパァン、ってなカンジにクラッカーが炸裂するってワケよ。面白いだろ?んでもって、この弾に当たったラッキーボーイは願い事をひとつ、カポ権限で
俺が叶えてやる。あ、勿論出来る範囲だけどな」
 ぴくり、とそこにいた幹部全員の身体が揺れた…気がする。ギラリ、と目つきが変わった様な4人を見ると、俺の話がひと段落したのを見計らってルキーノから声が飛んできた。
「オイ、ちょっと待てジャン。ロシアンルーレットは普通弾を食らったやつが負けじゃ無いのか?」
「まあ普通はそうだケド。でも、そしたらセーフだった4人の願い事聞かなきゃなんねーだろ?ンなの俺、容量オーバーですもんよ。現実はそんなに甘くないのヨ奥さん、アラやだー…っと」
 ママンに言い訳するような口調で話しながら執務机の上から降り、机にもたれかかる。ルキーノはああそうかい、という表情をして肩を竦めた。
「なら、ジャン。お前が食らった場合はどうするんだい?ラッキードッグ」
 今度はベルナルドが、いつもの余裕のある笑みで横から疑問を投げかけてくる。そうだ、俺の場合は説明してなかったっけか。
「ン〜〜、そうだな……。俺も願い事ひとつ叶えて貰っちゃおうかな」
「あ、……何を、願うんですか?ジャンさん」
 俺の言葉につられて、ジュリオがおずおずと口を開いた。まるで忠犬のように、俺の返答を耳垂れて待っているジュリオに思わずにやり、と笑みが零れる。
「んーー?フフ、それは俺が勝つまで秘密だぜ、ジュリオ」
「あ、……は、はい」
 格好付けてパチン、とウインクをひとつ飛ばすと、何故かジュリオは恥ずかしそうに頬を染めた。それを見ていたイヴァンがここぞとばかりに声を上げる。
「うおいジャン!ンなことより、ね、願い事って何でもいいのかよ……?」
「俺が出来る範囲で、って言ったろーが。ま、領収書にサインとか、安息日やるとか大体その辺までかねえ」
 とか言って、変なオネガイされちまったらど〜しよー。と、一抹の不安がよぎったが、まぁこの俺が博打でイヴァンに負けるなんてあり得ねーかと思考を切り替える。
「んじゃ、時間もねえ事だし?ーーーちゃっちゃと始めるぜ」
 俺は用意して置いたリボルバー式拳銃を取り出し、ダミー用の弾とクラッカー弾をシリンダーに装填した。それを4人に見せ、俺はシャッ、とシリンダーを回転させてから銃を渡し、順番に右からジュリオ、ルキーノ、ベルナルド、イヴァンの順で一人ずつ回転させて行く。銃が俺に戻ってくると、それをピカピカに輝くマホガニーの上質な執務机の上に置いた。
「さァて、誰から行く?好きな時にヤっちゃっていいのよ」
 机の前から退くと、ジュリオの隣に俺も立つ。机の上に置かれた黒光りする銃を前に、じりじりとタイミングを図っていた奴らだったが、あまり時間もかからず、その銃にさっと手が伸びた。
「じゃ、俺から行かせて貰うとするか」
「お、ルキーノか。んじゃ、イッパツカマしちゃってくれや」
 俺は自分のこめかみに人差し指を当て、銃の撃つ仕草をして見せる。
 ルキーノはにやりと少し口角を上げ、グリップを握ると無駄な動きもなく銃口をこめかみに押し当てた。その様子を俺と他の幹部は只じっと見つめる。ハンマーを起こしトリガーに指を掛けたルキーノは、男らしく直ぐに引き金を引いた。
 パァン!
 部屋に大きな破裂音が響く。
 しん、と静まり帰った部屋に現れたものは、小麦粉だった。ガシャン、とルキーノが机に戻した銃から発射された弾により、ルキーノのこめかみが真っ白に染まり、部屋に粒子が飛び散る。
「……っち!クソ、行けると思ったんだが……」
「うお…ルキーノ脱落か〜。…ぶハ、つーかスゲー粉!」
「残念だったな、ルキーノ…、うぉ…お前顔の右半分白くなってるぞ…」
 ぶわりと飛び散る真白い粉に部屋の空気が濁りルキーノに化粧を施していて、俺はつい笑っちまう。ルキーノは粉の威力に噎せながら、ぎろりと俺を睨んだ。
「ぐ……ウ、カッツォ!ゲホ……ジャン!お前、粉入れすぎなんだよ…!」
「いやースマン。思ったより入れすぎちまったみたいだな…まさかここまでの威力とは…」
 お陰でイイモン見れたケド。内心ペロリと舌を出しながらとりあえず平謝りしとく。
「ブハ、ッ、ハハハ!」
「ッば、…おま!」
 すると、俺の横から突然笑い声が飛んできてぎょっとする。慌ててそっちを見ると、イヴァンが堪えきれない様子で目に涙まで浮かべて笑っていた。俺の脳裏にさっ、と嫌な予感がよぎる。
「良いザマだなルキーノ!ックク…あーあ情けねーなあ」
 あ。このばか。
「っチ……黙れイヴァン。オイ、ジャン……お前後で覚えてろよ」
 キン、と空気が一瞬で凍りつくような声色でそう吐き捨てたルキーノの顔は、まるで鬼のようだった。あーーー俺死んだ?
「ワーー………コワーーイ…」
 ったく、バカイヴァンめ。余計なことしてくれやがって。後でタップリこき使ってやる。
「オイ、イヴァン。お前そこまで余裕カマしてやがるって事は、相当自信があるんだろうなあ?」
 ルキーノの言葉に、今だに笑みを浮かべていたイヴァンの口元がピクリと歪む。
「あ、……ったりまえだろうがよ!テメエと違って俺は粉なんか被らねえからな!」
「ほう、…ならやってみせるんだな」
「アア?やってやんよ!見てやがれ!!」
 それにカチンと来たのかビシィ、と人差し指をつけたイヴァンは、ずんずんと机まで歩いて行くとガッと銃を手に取った。あーあ…イヴァンの奴、ルキーノの口車に乗せられてやんの。フラグ立てまくりだって事に気づいてるのかね?
「……っ」
 数秒息を呑んだイヴァンだったが、ルキーノと同じようにハンマーを起こしトリガーに人差し指を掛ける。そのまま自然な流れでトリガーを引くと、機械的に弾が発射された。
 パァン!
 とともに、火薬が燃焼して高圧なガスにより弾丸を高速で押し出された爆発音が辺りに響く。
「……ッぐ、ふうおッ!」
 次の瞬間、バフン、と真白い粉がイヴァンの頭に直撃した。堪らず目を瞑り呻くイヴァンに、予想を裏切らなさすぎだろ〜、と内心でツッコミを入れる。
「……ぶ、うわッ、なんだこりゃ…!?ゲホ…!……ッチ!ファックファーック!」
 粉にまみれ噎せまくるイヴァンは、悔しそうな顔でスラングを撒き散らし、顔についた粉を乱暴に拭き取った。だが、少ししか拭き取れず、顔半分だけ真っ白というかなり面白い顔になる。ギャグか。
「ッ!ブハ、ふ、フハハ……ッ!い、イヴァン…ッお前……っくくく」
「ははっ、ハハハッ、凄え、ッさ、流石イヴァン……ッ、腹イテー!」
 それを見て今度はベルナルドが堪えきれずに、目に涙まで浮かべて蹲る。我慢していた俺もベルナルドに釣られ、遂には噴き出して笑っちまった。
「はハハハッ、クク……ざまあ無えなあイヴァン」
 ルキーノはといえば、にやりと悪どい笑みを浮かべて、ここぞとばかりに傷口に塩を塗りたくる。
「……哀れだな、イヴァン」
 あーあ、イヴァンの奴、ジュリオにまで鼻で笑われてやんの。可哀想に。
 一同をぐるりと見渡したイヴァンはゆでダコのようにみるみる顔を赤くして肩を震わせると、ガコン、と机に銃を叩きつけるとまた怒鳴った。
「て、てめえらあああ!」
 イヴァンが怒る顔すら面白すぎて、俺たちはひとしきり大爆笑する。それに、更に怒り狂ったイヴァンはやってられるか、と捨て台詞を吐いて拗ねた様にカウチにドカリと身体を預けた。あり、ちょっとイジメすぎたかね。本当イヴァンはからかい甲斐あるな。
「ーーンンッ、んじゃ気を取り直して次やるか!後残ってるのは俺と、ジュリオとベルナルドだな」
「はい」
「ああ、そうみたいだねーーー」
「………んじゃ、早い者勝ちで俺から行かせてもらうぜ?」
 二人が頷くのを見て、俺は机に置いてある銃をゆっくりと手に取った。その動作に、ベルナルドとジュリオはぎくりと俺に注目する。
「俺たちにも良い目見せてくれよ、ジャンーー」
「ジャン、さん……頑張って、ください…」
 なんとなく、俺が引くならここだという気がした。さて、今日の女神サマのご機嫌は如何かね?
 こめかみに持っていきトリガーに指を掛ける。人差し指に力を入れ、いつもの台詞を心の中で呟いた。
 ーーー勝負。
 パァン!!
 部屋の中に鋭い発砲音が木霊したーーーと、同時に焼け焦げた火薬の匂いが鼻をつく。
「ワーオ」
 口から渇いた感性が漏れた。俺の周りを取り囲む幹部共も、驚いた表情をして俺を見る。なんてこったい。
 目が点になっている俺の上に、遅れて粉ではなくーーーパラパラと俺が入れたしょうもねえゴミという名の紙くずやらリボンやらが降り注ぐ。
 クラッカー弾ーーーーアタリだ。
「なんてこった。オイオイ、まじかよ……」
「流石だ、と褒めた方が良いのかな?ラッキードッグ……」
「それでこそ、ジャン、さん…ですーー」
「なんでえ、結局テメエで引いてんじゃねえか!」
 頼れる幹部達は、それぞれ思い思いの表情でゴミにまみれた俺を見る。んーアレ、俺なんか空気読めねえカンジ……?
「なんか、ごめんね……?」
 幹部らの視線に、嬉しいような気まずさに申し訳ねえような複雑な気分になり俺は苦笑いしながら肩を竦める。隣に居たベルナルドはふう、と小さくため息をつくと俺が被ったゴミをパッパと払った。
「…ったく、俺たちのボスは何が望みなんだ?」
「我らがカポの望みなら、なんなりと」
「全てジャン、さん…の、思う通りにーーー」
「……ファック。さっさと言いやがれ」
 そんな俺に年上の頼れる幹部らは、しょうがねえなあとばかりにため息やら苦笑いやら笑みやらを零し、俺を急かした。おまいら……。ウンウン、そういう潔いとこも好きヨ。
「んじゃ、早速ーーー……っと、ベルナルド」
「ん、なんだい?」
 そうだった、と振り返ると、実にイイ顔を向けたベルナルドにちょいと指先で合図を送る。
「パーティまで後どのくらいある?」
 その言葉にベルナルドは待ってましたとばかりにやり、と笑ってーーーいつもしている古ぼけた時計をちらりと袖から覗かせた。
「2時間程です、マイロード」
 その返答に俺もにやりと笑みを浮かべて、パチリとウインクをひとつ。
「そんだけありゃ上出来。あ、すまん、イヴァン。車出してくれ」
「あ、アア!?ジャン!どこ行きやがる!? 」
「いいから、ちょいと付き合ってくれ。ーーーこっちだ」
「あ、待ってジャン、さんーーー」
 俺は扉まで歩きながら幹部らを手招きして、足早に部屋を出た。背後から追ってくる奴らの足音を聞きながら、俺はこれから行こうとする場所の事を思った。



 
 少し経って、ある建物の前へ滑るように白いメルセデスが止まる。着いた頃には、もうすっかり日が落ち爛々と彼方此方にネオンが発光していた。
「おい……ここはーーー」
 ルキーノが怪訝な顔をして、建物と俺を交互に見やり戸惑ったように言い淀む。いや正確に言えばルキーノだけではなく、皆困惑顔で言いたい事がありまくりという顔をしていた。
 なぜなら俺が奴らを連れてきたのは、『World empire hotel』ーーー今日、俺のパーティが行われる予定の場所だからだ。うんうん、キミタチの言いたい事はよっく分かるヨ。まさか、ここへ来るとは思わないよな。
「んじゃ!行きますか!」
 まだ状況が掴めていない様子の4人を他所に、俺はいち早く車を降りる。流石に表玄関から入ってたまに早く来てたりするお偉方さんに出くわすといけないので、従業員用の裏口からだ。背後を慌てたように4人が追ってくる。
「お、オイ!これはどういうこったよーーーまさか、このまま会場入りするとか言わねえよな?」
 エレベーターへと急ぎ歩いていると、イヴァンの不安そうな声が飛んできた。これからのパーティを思ったら、まだ俺たちがろくにパーティ服も着ていない事が気にかかるらしい。まあ手間が省けるし、着替えてからくれば良かったかもなあ。
「バカおっしゃい。奴らとは時間まで、オサラバよ?ーーー俺達がこれから行くのは、ココの屋上だからな」
 言いながらエレベーターの前まで着くと、その薄汚い箱にぞろぞろと乗り込む。
「屋上…?そこに何かあるのかい?」
「まあ、行ってみれば分かるよ。オタノシミに?」
 不思議そうに、なんなんだよ…わけわからんという顔をしている俺の部下4人が、面白くてにや、と笑みが零れた。
 ………チン!
 良い音が鳴ったかと思うと、エレベーターが止まりゆっくりと扉が開く。ーーーお、着いたな。
 薄暗い廊下を少し歩くと、鉄の扉があった。ここが、屋上の外への入り口だが、ドアノブに埃が被っていて普段使われてないのが丸見えだ。うええ……ここ、デイバンで最高級のホテルじゃなかったっけえ?裏はこんなモンなのか?
「ったくよう……」
 ーーーガチャリ
 少し拭き取りドアノブを回すと、ふわりと涼しい風が俺の身体を通っていった。扉を開けると予想通りの光景が広がっていて、思わず口角が上がっちまう。俺に続いて入ってくる4人を振り返って手招きする。
「おまいら!こっちだ、見てみろよーーー」
「ーーーなんですか、あ………ジャン、さん…これは」
 俺たちの目の前に現れたのは、まるで宝石箱のようなキラキラと輝く夜景だった。車のライトや部屋の灯りの一つ一つがポツポツと光り、街を綺麗に照らし、動かしている。風が吹き付ける中周りを指差せば、最初にジュリオが声を上げーー続いておお、とかすげえ、とか感嘆が上がった。予想通りの反応にハハ、と口から笑いが漏れちまう。
 ーーーやっぱり、此処を選んで良かったぜ。
 ーーーworld empire hotelは、デイバン一の建築物の高さを誇り、その高級感と洗練されたサービスがウリのホテルだ。ここなら、デイバンの街が一番良く見えると思ったの、大当たりだな。やっぱいつ見ても綺麗だ。
「ーーースゲエだろ?前此処で会合やった時に知って、お前らに見せたくてさ」
 デイバンの夜景、俺たちの街。なんとなく、これ見るならあいつらと、って気がしちまったんだよ。なんでかな。
「ーーー綺麗だな。こうしてみると……デイバンも随分変わったね」
「ああ、禁酒法も終わったしな。こうーーー街が活発になってきたか?」
「ケッ、ポリスどもも活発になってなきゃな!だがーーーそれなりに悪くねえ」
「これも、ジャンさんの……おかげ、ですね…フフーーー流石です」
 俺の可愛い幹部共は、全員その顔に笑みを浮かべながら並んで夜景を見つめていた。俺は背後からそいつらの背中を眺める。
 ーーー広い背中だ。俺もデイバンも……いつだって、こいつらのこの背中に支えられてる。守られている。ホント、出来る部下たちで俺は逆に心配だよ。俺はーーーお前らのカポとして、仲間として、何か返せているのか……とかな。
「ーーーだから…おまいらと見たかったのかもな……」
 実感が欲しかったのかもしれない。俺の周りにはこいつらが付いてると。俺たちで、これを築き上げてきたと。後は、可愛い部下への細やかな労いだ。
「ん?なにか言ったかい?」
「フフーーーなんでもねえ!さぁて、さっき来るとき屋台で買ったホットドッグと水でカンぺイと行くか!」
 俺は実は持ってきていた袋を取り出すと、床にどすりと胡座をかき、紙袋を広げる。それを見た幹部たちが紙袋の周りを囲むと、同じように腰を下ろした。
「全くーーー夜景見ながら軽食が願い事とは、ウチのカポは随分と安上がりだな」
「あらん、経済的でお財布にも優しい全国のお母さん大助かりーーデショ、ルッキーニ?」
「カーヴォロ」
 隣にいるルキーノに軽く頭を小突かれ、くくくと笑う。そうこうしている内に、ぐるりと全員にホットドッグを配り終えた。
「じゃ、おまいら!パーティの前にちとハラごしらえだ。これからどうせ嫌でも味しねえ飯をたらふく食わされる、今の内に味わっとこうぜ!」
 言いながら、手際良く水が入ってるビンの蓋をキュポ、と取り出しては4人に渡していく。最後に俺のビンを開けると、待ちきれないとばかりにウズウズしているイヴァンから声が掛かった。
「あーまだかよ?腹減ったぜーーやっぱホットドッグは最高だなァ!?」
 わーってるっつの。そんなんだから、いつも早漏ドーテークンなのよ、イヴァンちゃん。何か言ってやろうかと思案していると、俺より先にジュリオが割って入った。
「……待てイヴァン。今日は、ジャンさん、の誕生日…だーーー先ずは、おめでとう、ございます……ジャン、さん」
「ワーオ!サンキュ、ジュリオ!」
 やっぱ、ジュリオはイヴァンちゃんとは違うね。出来てるね。うはは、給料上げちゃおうかな、かな。俺の役目じゃねえケド。
「おっと、俺としたことが言い忘れていたよーーーBuon compleanno,ジャンカルロ」
「おう!ありがとちゃん、ベルナルド!」
 ベルナルドは昔から、俺の誕生日祝ってくれてるもんな。本当いつも頼れる筆頭幹部ですことね、たまにダメおやじだケド。
「Happy brithday,ジャン。お前ももうすっかりオヤジ組だなあ?」
「grazie、ルキーノ!……ってそれブーメランだって気づいてる?」
 ホント、ルキーノが年齢ネタいじんのも変わんねえなぁ。けど、そろそろ言えなくなって来てるから潮時かね?あ、ベルナルド死んだ魚の目してる。もういい加減、おじちゃんだって認めなくちゃな。
「…………」
「…………」
 さて、と、イヴァンを見やると、面白い顔をして黙りこくっていた。噴き出しそうになるのを我慢していれば、暫く俺たちの間に沈黙が降りる。
「ーーーで?……イヴァンくんは何も言ってくれないのかね?」
 耐えきれず、にやにやと笑みを浮かべちまいながら、イヴァンにそう言えば少し顔を赤くして叫んだ。
「だあああああ!う、うるせえな!!Congratulazioni!」
「ンフフ……ありがとな、イヴァン!」
 ちゅ、と投げキッスを送る仕草をすると、イヴァンは心底嫌そうな顔をする。ホント、こいつもいつまで経ってもからかい甲斐があるよな。まあ、其処がイヴァンの良いとこでもある。
 ああ。こいつらは皆俺の自慢の部下だ。誕生日当日に、大切な奴らに祝って貰えるのはサイコーだよ。こんな、命を狙われちまう毎日を過ごしていてもーーーお前らがいれば、俺は幸せだ。多少はこの人生も捨てがたい、なんて思える。
ーーーなんて、感傷的になっちまってるな。
「ーーーさって、乾杯するか!」
 水の入った瓶を高々と掲げると、皆も瓶を持った。隣にいたベルナルドが、笑いながら、俺に聞いてくる。
「何に乾杯するんだい?」
 俺はそれに少し思案し、ぐるりと辺りを見渡すとイイ顔で俺の音頭を待つ幹部らの背後でキラキラと街が輝いていた。近くから見てれば汚いが、少し離れて見れば案外綺麗に見えるらしい。つい口元に笑みが灯った。
「じゃーーー本日のデイバンに」




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