小説 | ナノ

  どこまでも翻弄されて


「っ、イテ」
「ん?どうした、ジャン」
 チクリとした痛みについ声を上げちまうと、側でくつろいでいたルキーノが此方を見た。
「……ン、いや…なんか、前髪が眼に当たっちまったみてえ」
 眼が痒くなってきて指でごし、と擦ると、ルキーノの太くてデカイ手が止めろとばかりにそれを制する。
「ーーーどれ、見せてみろ…」
 ルキーノの指示に従い薄く眼を開いてみれば、目の前にルキーノの男前な顔がドアップで俺を見ていた。
「うわッ!?近えよ……!」
 予想外の近さに驚いて、俺はさっと身を引く。つい、反射的にやっちまった行動にハッ、として顔が赤くなった。イヤイヤ、これじゃ意識してるみてえじゃねえか、俺。ン……別にドキドキなんてしてねえし?平常心、平常心。
「こら、動くな」
 内心そう納得していると、ルキーノは面倒臭そうな顔になり俺の顔を両手で掴みさっきよりも近い位置に引き戻された。息がかかる程、近くになって、ロゼの瞳が俺をじっ、と見つめてくる。う、うう……!ンな、じっと見るなよ……!
「あー……前髪が伸びてやがる。これじゃかかって痛いだろ。…よし、俺が切ってやる」
「え、アンタ切れんの?」
「……当たり前だ。俺を誰だと思ってる」
「ンー。…少なくとも、美容師じゃないのは確かだな」
 おどけて見せると、ルキーノはそういうことじゃない、とさもいいたげな表情をして、テーブルから椅子だけを引き出してきてルキーノの前に置いた。
「こっちへ来い、ジャン」
 ルキーノは呆れた顔を俺に向けつつ、眼を瞬かせている俺の腕を引いて木製の椅子に座らせる。手早く首回りに布をかけられたかと思うと、ルキーノは何処からか銀色のハサミを持ってきた。仕事早すぎだって。
「……んと、あんま切りすぎないでネ」
「任せろ、デイバン一の男前に仕上げてやる」
 艶やかに笑ったルキーノに少し不安を残しながら、俺はゆっくりと眼を閉じた。程なくして、シャキシャキ、とハサミの音が聞こえてくる。銀色の冷たい物質が肌を滑り、その冷たさにビクリ、と肌が震えちまう。ふ、とルキーノの指が俺の髪を一房捕らえたかと思うと、ハア、と小さくため息が聞こえた。
「……な、なんだよう…」
「ーーーいや。全く、惚れ惚れする程上等な金髪だと思ってな」
 …なんじゃそら。ルキーノの手が止まり薄く瞼を開けると、ボードを漕いでいる時の様な…凄く楽しそうなルキーノの表情がそこにあってなんだかむずむず落ちつかなくなる。
「この金髪フェチめ。俺の金髪にこんな執着する奴はアンタぐらいだよ」
「ハハ、当然だ。お前をピッカピカに磨くのは、俺の役目だからな。髪だけじゃない、隅から隅まで、だ」
 ロゼの瞳が優しく細まり、節の太い指が俺の頬を自然と掠めていった。今だけは、コイツのものになって、全てを暴かれてーーーそうして、支配されているような感覚に陶酔する。この男前で女に困った事なんて無えような次席幹部の、鋭く光る独占欲が堪らなく可愛く思えちまって口元がゆるり、と緩んだ。
「いってろ、ばーか……」
 ルキーノの事だから、俺がトシとっても平気でこんな事言ってそうだ。ーーーンで、俺も懲りねえでコイツに付き合っちまってるんだろうな。想像して、くす、と笑みが零れた。
「なーに、笑ってんだ?」
「ン、なんでもねえ。ーーーいいから早く、しろよ」
 ルキーノが不思議そうな顔をして、首を傾げる。俺は慌てて緩んだ顔を引き締め、また眼を閉じた。
 ルキーノの手がゆっくりと俺の髪に触れる。切るのか、と思いきや、その手はするりと滑りーー俺の頬を伝い顎を撫でた。上を向かせられて、なんだ?と思っていると、唇に熱くむに、とした感触。
「ン……むっ、う……?」
 なんだ?なんか、覚えのある感触、が…。
「んッ!?」
 不思議に思って眼を開けると、目の前にはさっきよりも間近にルキーノの顔があり、思い切り肩が震えた。
 う、わッ!?びびった……!!る、きーの!?
 その瞬間今触れているのはルキーノの唇か、と頭が理解するーーーと同時に慌てて、離そうと身を引こうとすると、ルキーノの手が俺の後頭部に移動し、がし、と掴みキスがもっと深くなった。
「ーーーん、んんっ!う、ン…、ンぁ、んーーっ」
「ンッ…………」
俺の口内をルキーノの舌が思う様に蹂躙する。全てを奪い取るかのように俺の舌を絡めとり、舌で奥までなぞり上げられーーー俺の気持ちイイ場所をルキーノの舌が這い回る。その動きに俺は呆気なく陥落して、身体からじわり、と熱が生まれてきた。ーーーアア、やべえ。タッちまいそう。
「ふ、ァ……っ、は、…んん……るき、ン…ッ、ぁ………!」
 深いキスの少しの合間になんとか乱れた息を整えようと空気を求めれば、たらりと口の端を涎が伝った。酸素が段々と足りなくなって、頭がぼんやりとしてくる。
「んう……、ふぁ、ン……、は、っ……はぁ、…は…」
 舌が回らなくなってきたところで、ようやくルキーノが俺から唇を離した。くちゅり、と俺たちの間に銀色の糸が伝って消える。
「ハ、ァ……、っ、ナニ、…すんだよう……っ」
 荒い息を整えつつなんとかそう問うと、ルキーノはペロリ、と唇を舐め、実にイイ顔で笑った。
「ああ?お前がシろよ、って言ったんだろ?」
 は、ハアア??!?なんじゃそら!
 俺は顔に残る熱を必死に分散させつつ、ルキーノにしてやられた涎の後をごしごしと拭き取る。くそう、顔が熱い。
「俺は髪切れって言ったんだよ!誰がキスしろって言ったよ!?」
「お前……。普通眼を閉じて可愛いツラを俺に見せながら、シろと言われたら、キスだと思うだろ」
 ルキーノは正に呆れたぜ、と言わんばかりの顔を俺に向けケロリとんな事をのたまいやがる。呆れたいのはこっちだ。
「ふつー思わねーよ…ばか、禿げろ………」
 フン、とそっぽを向けば、ルキーノは挑戦的で男らしい笑みを浮かべたかと思うと、顔を無理矢理ルキーノの方へ向けさせられた。
「ったくーーー相変わらず、減らねえおクチだぜ…。さっきはあんなにイイ顔で喜んでたのになあ」
 その言葉に、さっきのキスがフラッシュバックして、せっかく散り欠けていた熱がまたじくり、と身体に集まる。俺のモノはもうルキーノに煽られて反応しかけていた。
「ッ……、」
 一瞬言葉に詰まった俺に、ルキーノは笑みを深くすると、するりと手を俺の太ももに這わせる。
 ーーー……な、ッ、……分かっててやってんだろ…このえろライオン……!
 そのじわじわと、ベルトに向かい侵略するような動きに、俺は徐々にペースをコイツに奪われていく。
「ーーフ、……、反応してるぞ、ジャン」
 ルキーノの指か、布越しに俺のに触れる。指摘されてつい、はぁ、と熱い息が口から漏れた。俺の中で、止めろと怒りたい気持ちとそのまま続けて欲しい気持ちが天秤でぐらぐらと揺れる。くそ、サイアクだ。なんで、どうしてこうなった。
「クソ……、髪、…切るんじゃないのかよう」
「ーーああ。そうだったな」
 ボソリ、とそう呟くと、ルキーノは今思い出した、という顔をして、あっさり俺から身を離した。なんか、ホッとしたよーな残念な様な複雑な気持ちが湧いてくる。
 なんだよ、ンなあっさり離すのかよ……。そんな表情が顔に出ていたのか、俺を見たルキーノはククク…、と喉の奥で笑った。
「ーーーそんな顔して誘うな、ジャン。心配しなくても、後でたっぷり可愛がってやる」
 色気たっぷりに吐かれたそのセリフに、カッ、と顔が熱くなる。
「〜〜〜ッ!エロ魔神!もげろ!!」
 俺で遊びやがって!ちくしょう、ムカつく!
 コイツのせいで堪らなく悔しさや恥ずかしさがこみ上げてきて、俺は精一杯の悪態をついた。
 もー絶対コイツに頼まねえー!!




END


prev / next

[ back to top


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -