小説 | ナノ

  caffé fortuna -Piacere!-


「はあ〜〜……迷っちまった」
 閑散とした道を歩きながら、俺は一人途方に暮れていた。ザアザアと勢いよく俺に降り注ぐ水滴と、肌に張り付くシャツが気持ち悪い。自然と口から諦めの混じったため息が漏れた。いつもは周りに拝まれるぐらいツイてるのに、今日は朝からヤケについてなさすぎる。何がツイてないかって?
 まず朝から思いっきり転んで、車に轢かれそうになるだろ?んで、やっとの事で仕事場に着いたと思ったら修羅場だし。それからようやく帰ろうとしたら、帰り道に雨に降られた挙句、道に迷っちまうし。我ながらなんてザマだ。こういう時に限って傘は家の中に忘れちまったし、生憎この時間じゃあ近場の店も空いてない。ああファック。
「ハァ………………」
 何度目か分からないため息が口から漏れ出る。こうして道を探してもう1時間は経ったか。長時間打たれた雨のせいで体温が奪われて、身体が驚く程冷たくなっていた。いい加減、何処かで雨宿りするしかねーかな…。
 そう考えながら道の角を曲がると、人を失った暗い店が連なった細長い道路の先にぼんやりと明るい光を放つ店が見えた。店だ……!俺は正に死にそうな面持ちで砂漠のど真ん中を歩いていたらオアシスを見つけたような、救われたような気持ちになる。のろのろと重い足を動かし、細長い道を抜けると幻ではなく、やはり右側にぽつんとある小さな店に明かりが灯っていた。
「ン……やってるんかね?」
 ちら、と小さな窓越しに店内を見やると、客がいる気配は無くて少し入るかどうか足踏みしちまう。でも結局あれこれ勝手に自己完結して扉の取っ手に手を掛けた。
 カラン カラン。
 涼しい音が室内に響き渡る。と同時にふわりと生暖かい空気が俺の身体を包み込んだ。あったけえ〜〜。
「いらっしゃーーーッうお!?」
 店のカウンターに立っていた銀髪の男が怠そうに全身びしょ濡れの俺を見やり、驚いて声を上げる。ウン、その反応分からんでも無いケド、ンなあからさまに後ずさりしないで欲しいナー。
「あ…ン〜〜と。悪いーケド、雨宿りさせてくれねえ?道に迷っちまってさ」
 ポタポタと服や髪から絶え間無く床に落ちる水滴を申し訳なく思いながら、驚いている男にそう告げる。銀髪の男は俺の言葉にハッとしてシット、と小さく呟くと、カウンターの下からタオルを数枚引っ張り出してきた。
「ったく、床が濡れんだろが………まずはとっとと拭きやがれ!」
 俺に向かってバサリと乱雑に投げられたそれを受け取り、身体に滴る水分をタオルに含ませる。
「お、すまんねぇ」
 にしても、態度デケエ店員だなァ……うーん格好からしてウエイター?バーテンか?
「…チッ、オイ、ルキーノ!ちょっと来いよ!」
 大雑把に拭きながらそんな事を考えていると、銀髪の男は店の奥まで聞こえるように声を張り上げた。
 ルキーノ?店の責任者みたいな奴か……?
 少しして、コツコツと足音がこっちに向かって来るのが聞こえてくる。ガチャリ、とカウンター奥の扉が開いたかと思うと、ぬっと長身の男が現れた。
「なんだ、イヴァン…大声出しやがーーーっと。客か」
 うわ、スゲエ色男。ツヤのある赤毛を半分後ろで縛り、腰にエプロンを巻きパリっとした真白いシャツを肘まで捲ったーーーこの店の制服だろうかーーーを着こなしているその男は、ロゼの瞳を銀髪の男から俺に向け少し驚いた表情をした。イヴァン、と呼ばれた男が俺を指し怠そうに口を開く。
「コイツ道に迷っちまったんだってよ」
「道に?そうかーーー」
 がしがしと無造作に髪の水気を拭き取り終わり何処か他人事の様に男達を眺めていると、少しの沈黙の後。ルキーノとかいう奴が眉間にシワを寄せ、凄い迫力で俺に近づいてきた。う、もしかして追い出されるのかね…?
 内心ドキドキしていると、男は俺の頭に手を伸ばしてきた。思わずぐ、と目を瞑る。
「オイ、お前ちゃんと拭け。髪が傷むだろうが」
「……え、うわッ……!」
 だが、次に感じたのは柔らかい感触だった。肩に掛けていたタオルを取られたかと思うと、バサリと髪を覆われる。そのまま案外丁寧な手つきで俺の髪から水気を拭い去り、数分後にはすっかり乾ききっていた。
「よし、こんなもんだろう」
 一通り終わりタオルを俺から取り去ると、しげしげと俺を眺めてからにやり、と漢らしい笑みを浮かべた。
「ン……やっぱり良い色持ってんじゃねえか。折角の金髪なんだ、手入れくらいしろよ。勿体ねえ」
「ーー…そりゃどーも…」
 びびった……摘み出されんのかと思った…。髪一つで凄え迫力だなあ…。
 唐突な行動に内心訝しみながらも、髪を触ってみるとすっかり乾ききっていた。初対面で俺の髪を拭くなんて、なんか変なヤツ。
「さて、と。ああ、自己紹介がまだだったか…。俺はこの店のオーナー、ルキーノ・グレゴレッティ。アイツはウチの一流バリスタのイヴァン・フィオーレだ。お前名前は?」
 ルキーノは自分と後ろで俺を睨みつけているイヴァンを指差した。
「あ、んと……俺は、ジャンカルロ。ジャンで良いぜ」
 へええ、バリスタだったのか。で、こいつ……ルキーノはオーナーか…二人だけか?少なくね?
「そうか。なら、ジャン。まずはそこの席に座ってゆっくりしてけ。道案内がてら話でも聞いてやる」
 そう言ってルキーノは店のバーカウンター前の椅子を指差す。雨の中で傘も無く、随分歩き回っていた身体は当然だが疲れがピークに達していて。そんな俺には、すぐに抱き付いて感謝したいぐらいステキな申し出だった。まさに砂漠にオアシス!地獄に神!アレ、なんか違う?
 まあいいか、と言われるまま歩いてバーカウンター前の丸椅子に座った。すると、ごく自然に俺の右隣にルキーノも座ってくる。
「イヴァン。コイツにコーヒーを淹れてやってくれ」
「あーちょっと待ってろ」
 言うなり、イヴァンは手慣れた様子でポットに火をかけ、手挽きミルで豆を粉砕し始めた。すぐに豆の芳しい香りがふわり、と漂ってくる。
 ほっ、とするーーー良い香りだ。それに、ガリガリ、という音とポットから伝わる熱気が凄え心地良い。暫く黙ってその心地良さを味わっていると、もう挽き終わったのかイヴァンがドリッパーに敷かれたフィルターの中に粉を入れた。そして、ポットの温度を確認するとゆっくりとお湯を注ぐ。トポトポとお湯がサーバーに落ち、ドリッパーを外すとなんとも美味そうな濃いブラウン色をしたコーヒーが現れた。
「ほらよ」
 イヴァンはサーバーから温めたコーヒーカップにそれを注いで、ソーサーと共に出してくれる。うわあ……凄え、うまそう。ついごくり、と唾を飲み込む。誘われるようにカップに手を伸ばした俺を見て、ルキーノはにまり、と笑った。
「覚悟して飲めよ?コイツを呑むと他のは飲めなくなっちまうからな」
「なんだそりゃあ。怖えこと言うなよ……」
 そんな風に言うとは、どんだけ凄えんだこのコーヒー。
 若干ビビリながらも俺はカップを持ち上げ、湯気を立たせている液体をこくり、と体内に流し込んだ。
「ーーー、ッ」
 舌で味わう間も無く、ぐわりと旨味が口の中に広がる。深いコクがあって、適温で、それでいてまろやかな口当たりに、苦味と酸味が調和してお互いに良いところを引き出していてーーー
「うっめえ……!ウマあ!うわ…なんだ、コレ」
 驚いて、素直な感想が口から漏れ出る。アレ、これコーヒーか?俺の知ってるコーヒーじゃないぞ、オイ。
「あったりめえだろ!この俺が、直々に作ってやってるんだからな」
 イヴァンは俺の反応にどやあ、と誇らしげに笑みを浮かべる。さっきとは打って変わって、にやにやとあからさまに照れてる姿にわっかりやすいなあこいつ、と内心ツッコミを入れた。
「ほええ流石だねえ…こんな美味えんだから、相当儲けてんだろ?憎たらしいな、オイ」
 俺はセコセコ大して面白くもねえ仕事に時間を費やしてるっつーのに。ちょっと嫌みたらしく言うと、ルキーノは苦笑いを浮かべて肩を竦めた。
「ところがどっこい、あまり流行らなくてな」
「は、え!?…マジで?」
 予想だにしていなかった返答にかなり驚いてしまう。だって、こんなに美味いもん出せて居心地良いのに。
「ああ…。外装も内装も値段も質も…何処にも負けてねえ自信はあるんだが、立地のせいで客足がまばらでな」
 そんなに悪いところにあるのか、とここの立地に考えを巡らせ、そういえば俺が道に迷って辿り着いた所だと言うことを思い出した。暗くて分からなかったけど、立地悪かったっけ?ああ、まさかフツーじゃ辿り着けないような場所にあったりしたのか?
「フーン…大変なんだなァ」
 まあ、俺には関係無えケド。
「思い切り他人事か……情けってモンがお前には無いのか?…まあ、今それは良い。…で、何処に行くつもりだったんだ?」
「ん、ああ。家に帰るつもりだったんだケド、道間違えちまってワケ分かんなくなってさ」
「ああ?お前、自分の家の周りもろくに覚えてないのか?」
 ルキーノはカウンターに肘をつき呆れた様子で俺を見た。その視線が突き刺さって痛い。
「………しょうがねえだろ。俺この近くに引っ越してきたばっかなんだよ。…今新しい仕事探しててさ」
 言ってコーヒーを喉に流し込む。うん、やっぱり美味え。ルキーノは意外だ、というシッツレーな表情をしながらも俺の話を聞いてくれていた。
「なんでだ?」
「……会社から遠いからと思って引っ越した矢先に、今日会社行ったら、倒産しますとか言われちまったの。なんでかねー、いつもならツイてるんだケド。今日は朝からツイてねえんだよなあ」
 あー思い出したらイライラしてきた。そうだ、今日会社に行ったら怒り狂った社員と泣き喚く社長がいてそりゃあもう大変だったんだ。俺はなんであそこで働いてたのか、ホント虚しくなる。
 アレ、もしかして俺の運、尽き果てちまった?
 ルキーノはそんな俺の話を聞いて、暫く考えこんだ後にやりと笑みを浮かべた。
「ほう……なるほどな。そりゃ災難だったな…。だが、そうツイいてなくもないようだぜ」
「ん?……どういうことだよ」
 今の何処にツイてる要素があった?何を言いだすんだこの男は。俺は不審に思って眉を潜める。
「丁度、腕の良いウエイターを探していたんだ。お前、ウチで働かないか?」
「え、…は」
「はぁああ!?オイ、ルキーノ!テメェ、何勝手言ってやがる!大体客が来ねえのに、人増やしてどうすんだよ!?」
 俺が驚いて言葉を発するのを遮って、今まで黙っていたイヴァンが一気に騒ぎ出した。ウン、まあ当然の反応だよネ。
「ンな細かい事気にするな。小さい男は嫌われるぞ、イヴァン?ーー心配するな、コイツひとり分くらい俺がどうにかしてやるさ」
「…………チッ」
店長の決定だぞ、という態度であっさりそんな事を言ったルキーノに、これ以上何を言ったところで聞く耳を持たないだろうと判断したイヴァンは憎たらしい目で俺を一瞥した後舌打ちをかました。
「ーーで、ジャン。お前の返事は?」
 ルキーノは俺が断る事なんか微塵も考えていないような自信満々な顔で俺の方を向く。それは俺にとって願ってもない誘いで、二つ返事でOKしたい程魅力的だった。だが俺は、アタマに浮かんだ疑問のせいで言葉を発するのを暫しためらう。
 ーーなんで俺なんだ?そうだ、立地が悪いだけで内装も店員も品物の質も、何もかもがこの店は出来てるよな。ちょっと広めれば、俺よりも優秀な逸材は幾らでもいるだろ?
「……なんで、俺?………ただの会社員だぞ」
 そんな思いから、ぽろりと言葉が出ちまっていた。慌てて誤魔化そうとするが、ルキーノがそれを聞き逃してくれる筈もない。一瞬目を見開いたが、それはすぐに呆れたものに変わった。
「そんなモン関係あるか。俺がお前を気に入ったんだよ。理由なんざ、それで十分だろ」
 気に入った、か…。こんな人脈に困った事なんて無いような色男が、自信満々に俺を気に入ったとか…。反論したいのに、嬉しさから気恥ずかしくなってきて俺はつい押し黙る。
「…………」
「黙ってるってことは、良いって事だな?」
 ルキーノはにやと笑みを浮かべて、俺を見た。逆らえない圧力と、その横暴な態度。正直言うと少し迷ってはいたが、この男がいる店なら働いても悪くねえかもと思った。
 ーーーしゃあねえなあ。
 口元から自然と笑みが零れる。なんとなく、これから面白い事が起きる予感がした。
「ーー良いぜ。これから宜しくな、イヴァン、ルキーノ」
「ああ。たっぷりコキ使ってやる」
「チッ、ちゃんと働かねえと許さねえからな」
 俺の新たな職場決定だ。
「決まりだな。じゃあ、明日から仕事教えてやる、9時だ、遅れずに来い」
「……リョーカイ」
 有無を言わせないルキーノの台詞にたじろぎつつ、俺は頷く。ホントにこれからコキ使われるかも、俺…。
 話がひと段落した拍子に、ちらりと腕時計に目をやるともう22時を回ろうとしていた。…思ってたよりゆっくりしてたのか、俺…。そろそろ帰らないとな。どう切り出そうか暫し考えていると、ルキーノは見計らったようにカウンター席を立った。
「丁度良い。道案内がてら送ってやる」
 チャリ、とポケットから車のキーがキラリと覗く。
「え、でも……良いのかよ、店はーー」
「どうせもう閉める時間だ。後は、イヴァン、すまんが頼めるか?」
「チッ……クソ、さっさと行きやがれ。店仕舞いなんて俺だけで十分だっての」
 しっしっ、と追い払う仕草をしたイヴァンを見て、ルキーノはにやりと笑うと、なら頼む、とだけ言って俺について来いと促した。俺もイヴァンの方を向いて、悪いなと一言言って席を立ちルキーノが歩いていく方へ向かう。
「オイ、ジャン」
 だが名前を呼ばれ、立ち止まってイヴァンを振り返る。ーーなんだ?
「これ、貸してやるからさしてけ」
 するとイヴァンは、カウンターの奥から出してきた古びた傘を俺に向かって差し出した。ハッと窓の外に目をやると、まだしとしとと雨は降り注ぎ止む気配はない。あ、そうだ雨か……。
 イヴァンは傘を差し出しながら、さっさと受け取れとばかりに不機嫌そうに眉間に皺を寄せている。顔と行動にギャップありすぎだっつの。口から自然と笑みが零れた。
 ーーーなんだ、コイツ良いやつだな。
「借りてくぜ。サンキュ、イヴァン」
「……ッ、う、うるせえな…!とっとと行けよ!」
「あーハイハイ。じゃ、また明日な」
 あからさまに照れてやがる。面白いヤツだなあ、と内心笑いつつ、俺は店を後にした。横目に見えたイヴァンが、嬉しそうな表情をしていたのはきっと気のせいじゃない筈だ。
「オイ、ジャン。さっさと乗れ」
 傘を差し店を出ると、目の前の道路に止まっている黒いピカピカの車に乗ったルキーノが、運転席から俺を呼び止めた。
「お、おう」
 うわあ、凄え高そうな車……。儲かってねえくせになんでこんな高価な車持ってんだよ……。
 言われるがまま傘を畳み、助手席にするりと身を滑り込ませた。バタンと扉を閉めシートベルトをすると、ゆるり、と車が動き出した。
「さて、…一回で覚えろよ」
「え」
 そんな言葉を発しニヤリと笑みを浮かべたルキーノは、まだきょとんとしていた俺を無視してさっさと案内し出す。
 ハ?一回でか!?
 ーーーそして、ルキーノのスパルタ振りに俺が呻く事になるのは間も無くだった。



 ーーー翌日。
「………まじ、鬼畜かよう」
 結局、昨日はロクに覚えられなかった俺は、朝早く家を出て地図を頼りに店を調べ。迷いまくった後に、時間ぎりぎりになってようやく店に辿り着いた。ホントに一回しか教えてくんなかったし…!あんなアバウトな説明で分かるかっての!クソ、あのドSオーナーめ……!
 ハアハアと息を切らしながら、俺は店のドアを開ける。カラン、と動かされたドアベルが涼しい音を奏でた。
「ッは、…は、…よう……」
 息を切らしながら挨拶をすれば、床をモップがけしていたイヴァンの怒声が直ぐに飛んで来た。
「チッ、ようやく来やがったか、ジャン!テメェ新人のクセに遅えんだよ!」
 イヴァンの声に気づいて、イヴァンの後ろからルキーノがひょい、と顔を出し意地悪そうな笑みを浮かべた。
「よう。良く来れたな。まあ遅刻しなかっただけ許してやろう」
 アンタのせいだろうが、アンタの!
 そうムッ、として言い返そうとしたが、それよりも早く俺の前まで来たルキーノがぐい、と服を押し付けて来た。
「ウチの制服だ。何よりも先ずは、これに着替えるのがお前の仕事だ。更衣室はあの扉を入ったすぐ右の部屋にある、ロッカーは一番奥のやつを使え」
「………」
 …なんで、この男こんなに態度でかいん?
 呆れた目でルキーノを見ていると、すぐに動かない俺にルキーノは眉を潜めた。
「あ?なんだ?」
「なんでもねえ」
 半ば引ったくるように服を受け取ると、俺は支持された更衣室へ向かった。扉を開けると、周りにいくつかの椅子が並べられた質素なテーブルが中央にあり、右の隅にロッカーが並べられ、反対側に小さな窓がある部屋があった。
 …案外、片付いてんな。えーと、1番奥のやつって言ってたっけな。
 俺は一番奥のロッカーを開け、荷物を置くと手早く制服に袖を通した。七分袖の白いシャツに、黒色のソムリエエプロン、ついでに縦縞ストライプのハンチングだ。
「よし、これでいいか」
 一通り着終えると最後に帽子を被ってから、ロッカーを閉じガチャリ、とドアノブを回し更衣室を出る。
「お待たせさん、着替えてきたぜ」
 そう言ってフロアに出ると、開店準備に動き回っていた奴ら2人は俺の方を振り向いた。俺を見てイヴァンはしかめ面を、ルキーノは品定めするかのようにじっ、と俺を見、笑いだす。
「ハッ、馬子にも衣装ってか?」
「ククク…、まだ服に着られてるな、ジャン」
 開口一番そう言われて、俺はむっと口を尖らせる。似合ってなくてすいませんですね。くそう、こいつら言いたい放題言いやがって。
「うるへー。そんなことより、俺は何すりゃいいんだよ?」
「ああ、そうだな。…まずは一通り仕事を教えてやる。お前はホール担当だからな、メニューも全て覚えて貰うぞ」
 うへえ…。昨日のルキーノのスパルタ振りからするに、絶対覚えさせられんだろうなと考えてげんなりする。まあ、引き受けたからにはと嫌な顔しながらも俺はルキーノに仕事内容を教わるのだった。



to be continued……

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