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  次の勝利の糧へ




「ーーー大丈夫か?ジャン」
ちゃぷ、とお湯が跳ねる音とともに、背後から俺を抱きしめている反響したベルナルドの声がかかる。息が耳に掛かってこそばゆい。うう、まだ感覚が機敏になってるんだから、ヤメロっての。
「……、ンッ、……まだジンジンしてるって…、ったく、アンタ頑張りすぎ」
ベルナルドの肩に頭を乗せながら、こっちを見てくす、と笑うベルナルドの髪を絡め取って細やかな反抗に軽く引っ張る。
「フフーーーこんなに無防備なお前を前にして、興奮しない方が無理だろう?」
ベルナルドは糸のように目を細めて、俺の耳の裏にちゅ、とキスを落とした。じん、とした高揚感が襲ってきて、さっきまでコイツに好き放題にエロいことされてたことがぼんやり頭に浮かんでくる。ああ、チクショウ。
「ンう……ヘンタイ……えろおやじ…」
「……ハハ、ジャンにだけさ」
ベルナルドはそう言ってまた笑って、だがすぐに真剣な顔になって少し間をあってから口を開いた。
「ーーー……なあ、ジャン。そのお前、例の雑誌の表紙……ジュリオと撮る、んだろう?」
なんとなく、歯切れの悪い言い方に俺は内心しょうがねえなあ、とため息をつく。あーやっぱ、気にしてたか……。
 そう、今日のベルナルドは朝から変だった。「オヤジに一番大きなタンコブを作った奴が俺と二人で表紙飾ろうぜ!」なんて、俺が言っちまったことであれから約2週間前後、俺と幹部達全員は死力を尽くしてオヤジと闘ったのだ。俺はもう表紙出演が決まっていたから、あいつらが頑張っているのを応援することしか出来なかったけど。結果は、そう、言うまでもないがウチのNO.1ソルダード、ジュリオの圧勝だった。それが確定されたのが今日。それからベルナルドは、今日一日中嬉しそうにするジュリオの横で普段通りを”作って”仕事をしていた。長い付き合いだ、直ぐにベルナルドが変なのは直ぐ分かる。まあ理由は決まってるよな……。
「………ん。そうなっちまったかんな…。ジャポーネのお嬢様方はそれがお望みらしいヨ」
 600万という圧等的なポイント差を付けられて、ベルナルドは二位。表紙は”ジュリオとジャンがいい”、そう言うレディが多かった証拠だ。勝負の前にはアレだけ衣装はお揃いが良いと思うだの、あーだのこーだの言って楽しそうにしていたベルナルドだったが、今はこの通り…へこたれてる。
「ーーー俺は、自分が情け無いよ。全力を尽くしたつもりだったが、あんなものでは生温かったようだ…。お前の隣を捕られるなんてーーー」
「あー…今更そんな事言ってもしょうがねえだろ?アンタは頑張ったよ。前半あんなにダメオヤジっぷり発揮してたのに、後半になってあんな巻き返したのフツーに凄えし。まあこんな風にツイてねー時もあるって。今回は、負けを認めて…さ。次頑張ろうぜ?」
 俺がそうフォローしても、ベルナルドは満足していないように険しい顔をし続けて居る。どうしたもんか、と思っているとベルナルドの両腕が俺を包み込むように胴に回って、抱きしめられた。ベルナルドの濡れた髪が肩に辺り顔が凄え近くに来ていて、ドキ、とする。
「う、な、なんだよう……」
「ーーーー嫌だ。今からでも、遅くない。ジャン、この話は白紙にしよう」
「ハア!??」
 いきなり何言い出すんだこのオジちゃんは!?予想外の言葉に驚きすぎて、変な声出ちまった。バッ、と首を動かしてベルナルドの顔を見れば、真面目な表情そのもので、アップルグリーンの瞳が俺を見つめている。その真剣な目の奥に、ゆらりと炎が燃え上がったさまが見えた。やっぱベルナルド、変だ。
「な、なんでンなこと言ってんだよ……アンタらしくもねえ……。もう決まっちまって、あちらさん方とも話は着いてる。今更どうこう出来ねえことくらい、アンタだってーーーッン!」
 分かってるだろ、と言い終わる前に、ベルナルドの噛みつくようなキスが俺の唇を塞ぐ。いつものテクニシャンな優しいキスをするベルナルドからは考えられねえくらい、乱暴で奪い取るようなキス……。間近にあるベルナルドの瞳は光を失ったように暗い。路地裏でレイプされたあの時のキスが頭の中でフラッシュバックして、ぞくりとした快感が背中を駆け巡った。
 ーーーーヤバい。
 俺の本能が、カンが、この状況に危険信号を発してる。俺は内心かなり焦りつつも、とにかく話をしなければと抵抗を試みる。
「ん、んン……っ、ぁ、…オイ、ベルナルド……、やめっ……!オイって!!」
 だが、さっき既に胴に回されていた腕のせいで、抜け出すことは愚か、抵抗すら出来ない。くっそ……!抜けねえ……っ!なんで、こんな力強えんだよ……!
「ンう…!ァ…ベル、ナルド……離せっ!…は、う……」
 ベルナルドの腕はビクともしない。ただ、俺が暴れる程にお湯が跳ねるだけだ。ベルナルドは俺の言葉なんて聞こえてないかの様にキスを繰り返し、するりと身体を濡れた手が撫でていく。その様子にカッとなって、渾身の力でキスを振りほどくと思い切り叫んだ。
「ーーーッベルナルド!!!」
「っ……!」
 その瞬間、ベルナルドはハッ、として動きを止めると目を見開き俺を見た。胴に回っている腕が緩んだ隙に身体を反転させて、ベルナルドの方に向く。
「あ、……、じ、ジャン……その…」
 じっ、とベルナルドの顔を正面から見れば、失敗をして叱られた犬かっつー程弱々しい態度で、おろおろとしている。まるでダメオヤジそのものだった。いつもの、ベルナルドだ。
「……くそ、…っ、はァ……。……は、っ、ったくーーーどーしたんだよ、ホント…」
 なんだよ、イキナリ……。び、びびった…。
 動揺とうざったい湯気やら湿気やらで上がった息をなんとか整えながら、ようやく話せそうになった事にホッとして小さく息を吐く。
「……………」
「……なんで、白紙にしよう、なんて言い出したんだ?」
 ゆっくりそう問うと、ベルナルドは視線をさ迷わせて暫く沈黙してから重たい口を開いた。
「ーーーその、ッ、……すまない。……どう、してもーーー……その…」
 そこまで言ったベルナルドは、その先を言い澱みハア、と小さく息を吐いて手のひらで顔を覆う。
「……なんだよ?」
 じれったくなって先を促すと、ベルナルドの腕が伸びて来て今度は正面から抱きしめられた。今度は優しく、労わるように。優しい温もりにホッとして、俺もベルナルドの背中に腕を回す。すると、ベルナルドが俺の耳元でぽそりと呟いた。
「ーーー耐えられないんだ。…お前が……ジュリオと二人で笑っている姿を見たくない。 それこそ、今すぐにこの話を揉み消したいくらいに……ーーーー勝手だと怒るかい?」
ベルナルドが身体を離し、俺の右手に熱い手が添えられる。
「わ、ッ……なん、」
 ゆらゆらと揺れるアップルグリーンの瞳が細まり、ゆっくりとした動作でちゅ、と手の甲にキスを落とした。
「ーーーそれでも、ジャン。……お前を離したくない」
 ベルナルドの真剣な眼差しが俺を射抜く。一瞬ハッとするほどに獲物を前に距離をとっている獣の様な眼差しが、俺を捉えて…でも。どうしてかそれが妙に可愛く思えちまって。自然にくす、と笑みが溢れちまった。
「ハハ………まーーーそういうワガママも、新鮮で嫌いじゃないワ、ダーリン」
「ーーージャン……」
 きらり、とベルナルドの瞳に一筋の光が灯り蝋燭のように煌めく。
 ーーーホント、バカなダーリン。俺の可愛い部下共は皆愛してるが、それとは別にアンタはトクベツなんだって。じゃなきゃ、アンタのアレを受け止めて毎回アンアン言ったりするかよ。
「ン……よしよし。悔しいよな、分かってるって。でもさ、……俺、アンタから離れる気、ねえからな。ソコ、良く覚えとけよ!」
 ……恥ずかしいこと言わせやがって。くそう、風呂に入っているせいか、湿気のせいか、頬が赤くなっちまってる気がする。照れ隠しに、雫が滴っている頬を抓ってやる。俺の言葉に、ベルナルドは目を見開き驚いた後、今にも泣きそうな顔でああ、と笑った。
「ジャン……。……ごめん、俺…どうかしてたよ。その、……身体、大丈夫か?」
「ンー?ふふ……アンタがベッドまで連れてってくれたらなーー」
甘えるように首に腕を絡めれば、ポタリと雫が流れ落ちパシャりと水が跳ねる。
「ーーージャンには敵わないよ」
 仰せのままに、と嬉しそうに笑ったベルナルドは、いつもの自信に満ち溢れた表情で、俺の背中に腕を回したのだった。


END

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