小説 | ナノ

  "しあわせ"な時間


ベルナルドといると、よく"しあわせ"を感じる。その"しあわせ"ってやつは、ふわふわして、暖かく…ひとたび俺を日差しのように包み込んだかと思えば、その心地良さにむずむずして尻辺りが落ち着かなくなる。さくさくしたクッキーみてえな…蕩けるチョコラータみてえな…とにかく甘い甘い気持ちに包まれるのだ。

すん、と息を吸い込めば、質の良い葉巻と控えめな香水の香りが嗅覚を刺激してくる。ベルナルドのいつもの匂いだ。もっとそうしていたくて、ぎゅう、と抱きしめている腕の力を強めた。はあ…からっぽで渇いていた心が満たされる……。
とくん、とくん、と服越しに感じる鼓動とその暖かさについ、目を細める。ああ、しあわせがやってきた。
気持ちいい。この腕に包まれているこの時間が一番安心するのはなんでだろうな…。
「ジャン…。キスしたいなぁ…顔上げて」
肩に顔を埋めながら、ほう、と息をついていると、もぞもぞと俺の耳に唇を寄せたベルナルドは、艶の有る色合いの声で小さく囁いた。続いて、俺の髪にちゅ、と唇づける。これは、ベルナルドがシたいときのサインだ。あからさまな誘惑に首筋にぞくり、と甘い刺激が走った。
う、でも…な……。
「ン、もちょっと…このまま…な?」
男の誘いを丁寧に断って、もっと隙間が無くなるくらいベルナルドに抱きついた。ベルナルドするハグは、好きだ。気持ちいいし、疲れも何処かへ飛ぶくらい俺を"しあわせ"で見たしてくれる。生きて一緒にいることを実感させてくれる。まるで、栄養剤だ。
「しょうがないね…いつから、俺のハニーはこんなに甘えたになったのかな?」
しょうがない、なんていいながら優しい蕩けた声で、細い骨ばった指が俺の髪を梳く。
「んん…仕方ないだろお…アンタが出張のおかげで、どんだけ会えなかったと思ってるんだよ」
「んー…3週間、かな…?」
そうだよ、三週間だよ。三週間だぞ!?
俺は三週間も、指一本アンタに触れられなかったんだ。俺は、一旦ベルナルドから身体を離して、つい、と視線を合わせる。まってましたとばかりに、ベルナルドのアップルグリーンの瞳が優しく輝いて俺を見つめてきた。
「寂しかった?」
「………。…アンタはどうだったんだよ」
「そりゃあもう、寂しかったさ。声は聞けても、お前に触れられない…新手の拷問を受けてる気分だったよ。それでも自分で慰めるなんて惨めなことをしなきゃいけなかったしね」
「そっかよ……」
その返答を聞いてほっと、している俺がいる。良かった…。素直に与えられる愛にまたふわふわと俺の心が弾んだ。
「で、ジャンは…?どうなんだい?」
寂しかった?と、かわした筈の問いをまた突きつけられる。期待を宿したその瞳にじっ、と捉えられれば、いつもの様に巫山戯て返す事などできそうもなかった。
「……っ」
かあああ、と意図せず俺の頬が赤くなっちまう。
「………」
寂しかったに決まってんだろばか。
そう言いたいのに、羞恥が邪魔をして上手く言葉が喉を通り抜けない。
「……?じゃ、」
何も言わない俺に焦れたベルナルドは俺の顔を覗き込んできた。その近さにかっ、となって俺はベルナルドのネクタイを咄嗟に掴むと、勢いのままに唇をくっつける。
「…っ!」
一瞬びくり、と驚いたようにベルナルドの瞳が見開かれたが、すぐに俺を受け入れ、舌を絡めてきた。
「……ん、ふ……、っ…はぁ、う」
思うさま、久々の感覚に酔いしれていると、ベルナルドの舌が俺の口内に侵入してきて、歯列をなぞり上げてくる。段々と、じんじんしてきてニコチンで頭がばかになってるときみたいに快感が俺の全てを支配した。ああ、クソ…きもちいい…、チクショウ。
「…っぷは…っ」
「…は、……、」
息が上手く出来なくなってきて、俺は遂に、自分から顔を背けた。新鮮な空気が一気に口から入ってくる。
「はは…。随分、熱烈な返事だね…ジャン…お前の気持ち伝わってきた」
「は、う……。……も、ばか。…3週間も俺を放置しやがって…ばかだーりん」
「フ…うん。ごめん…」
好きだ。すき、会いたかった。
口ではこっぱずかしすぎて素面じゃ言えねえけど、行動でちゃんとダーリンには伝わったらしい。
とびっきり優しい瞳が細められ、俺に愛を伝えてくる。
「ジャン、…ーーー会いたかった。好きだ、愛してるよ…」
甘く囁かれて、ぶわわわわと俺の内側のなにかが一気に溢れた。頬も更に熱くなった気がする。このふわふわ、どきどきするこれは…そう、"しあわせ"だ。胸が熱くなり、焦がれるような激しい、それでいて柔らかく優しい気持ち。
俺は、3週間ぶりともいえる、久々の感覚に思わず、ぎゅ、とベルナルドを抱きしめた。そのたくましい首に腕を巻きつけ顔を首元に向ける。
「…………お、れも…」
そして、耳を済ませていなければ聞こえないほどの声量で小さく囁いた。
ついこんなことをしてしまうほど、身体の中からベルナルドへの愛しさが溢れてしょうがない。
……ああ、これが"しあわせ"。
ベルナルドが息を呑んだ気がした。

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