小説 | ナノ

  貴方と手を取りどこまでも



#どちらかを殺さないと出られない密室に閉じ込められたCPの反応
ベルジャン

 偶然できた貴重なオフの日に、郊外へ旅行に出かけた。素晴らしい景色や美味い食事を堪能してすっかりほろ酔い気分の俺たちは夜道を歩いていた。良い気分で警戒心が薄れたせいか、不覚にも背後から何者かに殴られ気を失ってしまったらしい。
 俺が気がついて目を開けたときには、真っ白な部屋の中。何もない空間にドアしかない場所にいて、隣にはベルナルドが倒れているのが見えた。目の前に見える血の気の無い顔に、例えでなくざあ、と青ざめる。
「っ!べ、ベルナルド…ッ!ベルナルド!……お、おい、返事しろよ…!」
 驚いて身を起こし慌てて揺すると、ベルナルドはふ、とゆっくり目を覚ました。
「…ン、ジャン……ここは、……」
「は、ッ……よかっ、た…ぁ。わ、分かんねえよ…俺も、さっき気がついて…。…なんか首の辺りがじんじんする…」
 安堵すると同時に首に重い痛みを感じてさする。すると、今度はベルナルドが驚いて身を起こした。
「っ!ジャン、ジャン…!大丈夫か…!?何処か怪我した?」
「ン、へーきへーき。なんともねーよ。それよりここ…なんだよ…」
「ドアしかないね…クソ、油断したな…背後を取られるなんて」
「全く卑怯な事しやがるな…ベルナルド、そこ開けられる?」
 壁にもたれかかりながらドアを指し示すと、ベルナルドはすぐにドアに近づきノブを回したり押したりするが、カチャカチャと金属音が響くだけでドアはびくともしない。
「ファック!ダメだ、開かない…!完全に閉じ込められたな…」
「マジか…」
 二人してやばくないか、とこの状況下で起きた絶望に浸っていると、ノイズ音と共に突如部屋に見知らぬ声が響き渡った。
『ふふ、開かないよう、まだ。残念だ、残念だねえ!キミタチは僕の実験体に見事選ばれたんだよお!やった、やったねえ!』
「ッ!?な、なんだ…!?」
「うわッ、誰だよ!?」
 突然の声に驚いて顔を見合わせ、辺りを見回すが誰も居ない。
『僕は研究者だよぉ。で、キミタチが実験体。わかった?わかったかな?』
「なっ、…、わ……!」
 言葉を発しようと口を開いたがそれをベルナルドは手で制止すると、今度はゆっくりと口を開いた。
「それで、俺たちをこんな場所に連れてきて、お前は何をするつもりなんだ」
『やだなぁ、僕は何もしないよぉ?安心して。何かするのはキミタチなんだから』
「は?」
「な、何言ってーー」
 カシャン!
 狼狽する俺達の間に突然、何かが音を立てて落ちてきた。びっくりしてばっ、と反射的にそちらを見た俺達はそこに落ちてきたものに絶句する。
「っ…!」
 黒光りするそれは、俺が愛用しているルガーの拳銃だった。
『右の君が持ってたものだよねぇ。それにはね、弾は一発しかないからさ、なにに使うのかきっちり考えて使うことをお勧めするよぉ?』
「か、考えるって…何をだよ」
 思わず勢いのまま呟くと、ひときわまったりとした声がまた降ってきた。
『そうだねえ…教えてあげてもいっかぁ。…この部屋からはぁ、キミタチ二人の内どちらかを殺さないと出られないんだー。そういう仕組みなんだよ!残念だね、残念だよぉ!』
「っ、なーーー」
「はーーー」
『キミタチがそれをどう使うのか楽しみ!楽しみだよぉ!ふふ、期限は一週間。ここには何もないからねえ!早くしないと二人まとめて餓死!餓死だよ!』
『頑張って、頑張ってねえ!』
 その言葉と共にノイズは消え、ぷつりと声は途絶え。途端、しん、と何事もなかったように静寂がやってきた。
「……べ、ベルナルド……」
「ジャン……」
 お互い青ざめた顔を見合わせ、存在を確かめるように名前を呼ぶ。暫く恐ろしいものでも見るかのように、ルガーを見つめ…。
 時間と共に冷静になると、急に力が抜けたのか苦笑いがこみ上げる。
「ははっ、なんだよ…これ。…新手のイタズラか?」
「イタズラなんて優しいものじゃあなさそうだけどね…」
 はあ、と同時に口から溜息が漏れた。
「今頃、ルキーノ達どうしてっかなあ…」
「休暇から帰ってこない、幹部とカポを絶賛捜索中じゃないか?…あぁ、良かった…この時計は取られなかったみたいだ」
 ベルナルドはいつもの仕草で時間を見て、そこにコイツが愛用しているいつもの時計が正確に時を刻んでいることに安堵した。
「今ーー7時だね。…ああ、もう朝か…。本当なら今頃ベッドでジャンと一緒に朝を迎えている頃だ」
「昨日アタシと一緒にベッドインできなかったから不満ありありね、ダーリン」
 ベルナルドの頬を指先でつつくと、ふにゃ、と顔を緩ませて笑った。
「そりゃそうさ。このところ忙しくて出来なかった分、ジャンといちゃいちゃする為に休暇に来たからね」
「ハハ、まあでも目的は果たしたよな。…3日間つっても、時間はたっぷりあったし?」
「まさか!あれでも足りないくらいさ。せめて、あと1週間は欲しかったね」
「3日の間あれだけ俺を弄り倒したクセに、まだ満足してないのかよう…ったく、一週間も休暇とったら俺の腰がもたねーってば」
「ふふ、そしたらここにいるジャン専属のマッサージ師が腕を振るいますよ」
 いつもの調子でそんな会話を繰り広げるベルナルドと俺。俺達は寄り添うように壁に持たれかかって座っていた。どちらかを銃で撃たないと餓死という絶望的な状況下にもかかわらず、なんだか分からないがいつもと変わりない様子で居ることが出来て…、ベルナルドの仕草にも余裕すら感じられる。……先にその話題を出したのは俺の方だった。
「なあ、ベルナルド。アンタ、俺をこの銃で撃って殺せるか?」
 唐突な言葉にベルナルドは銃をちら、と見やった後、真っ直ぐに俺を見据えて口を開く。
「俺にジャンは殺せない。お前が組織を裏切るような事が無い限りーーー俺は永遠にお前の忠実なる味方、しもべさ」
 その答えに思わず俺は噴き出す。なんだよソレ…ハハ、くっせえの。でも、なんだろうな…アンタが言ってくれるってだけで凄え嬉しい。…安心した。
「…そっかよ。…フ、俺も…だぜ」
「ジャン…」
 隣り合う手が重なり合い…。俺達の間には諍いでなく幸せに包まれていた。たった一週間という執行猶予期間が与えられただけだ。それが終わったら殺される。ただそれだけなのに。そうでなくても、いつどこで殺されようとおかしくない立場だっていうのにな…なんでか、不思議と怖くねえ。普段の…一分一秒油断できない毎日ーーそれに比べればこのくらいどうってことないって思える。多分俺にとって恐怖なのは、この男の存在が消えて無くなってしまうことだ。
「ーー…なぁ、ダーリン。どうせなら見せつけちゃう?」
 どうせ死ぬんだったら、こいつと最後まで愛し会っていたい。誘うように、首筋をつ、と舌で舐め上げてベルナルドを見上げると、全くコイツは…、みたいな顔をして笑みを零した。
「フハハ、その提案には大賛成だよハニー…お前の可愛い顔を奴らに見せるのは癪だがね」
 にやりと笑いベルナルドの首に腕を回してしなだれかかると、ベルナルドも俺の腰を引き寄せその広い腕の中に閉じ込めた。
 俺はベルナルドの肩に顔を埋めながらちら、と素早く部屋の右上隅に仕掛けてある監視カメラを確認した。肩から顔を離しベルナルドに視線を合わせてからもう一度、監視カメラに視線を合わせーーー。
「ちゅーして、ダーリン」
「ふ、可愛いな…ジャンーー」
 それを見てウインクしたベルナルドに向かってキスを強請ると、嬉しそうに笑ったベルナルドは、髪を数回撫で、下唇をなぞった後そっとキスをした。
「ふ、…っ…」
「ン…、っむ……、っう…」
 暫くして唇が離れると、バレないようにベルナルドに向けてこっそりウインクをする。それにベルナルドもにやりとした笑みを浮かべた。
「ーー行くぜ」
「いつでも」
 二人にしか聞こえない位のボリュームで小さく言葉を交わし会ったと思えば、ベルナルドが声を上げた。
「ーーああ、ジャン…もう我慢出来ないよ」
 そういうと、ベルナルドはドアから少し離れたところにあった俺の身体を不自然に見えないよう、ドアの方へじりじりと追い詰めて行く。俺はそれに従い、少しずつ後ずさりしてドアに近づいていった。
「え、ヤダわ…おじちゃんこんなトコで致しちゃうつもり?流石にそれはドウカナー」
「ハハハ、見せつけるんだろう?これくらいやった方がいい」
 ぺたりと背中がドアについた。瞬間お互いに顔を見合わせると、ベルナルドは俺に覆い被さるようにドアの扉に手をつき見下ろしてくる。
「ヘンタイめ。アンタ、今どういう状況か分かってるのけ?」
「ああ、勿論。どうせ一週間後に死ぬならジャンとイロイロしてからじゃないとね」
「ヤダわ、エロオヤジってこれだから」
 言い合いを続けている口だけ動かし、その間もベルナルドはさわさわと俺の身体を弄ってくる。っ、クソ…触り方がエロいんだよ…!
「んぁ、っ…手加減、…しろよ」
「分かってる」
 ベルナルドは手を伸ばし、甘い口づけを降らしながら少しずつ脱がし始めた。シャツのボタンが全て外したという頃。ベルナルドは声をかけてきた。
「…ジャン、後ろ向いて。その方がやりやすいからね」
「ん、」
 ジャンはぺたりと扉に顔をつけ数秒固まったかと思うと、顔を離し扉に手をつき扉を支えるような体制になりました。
「そう、それで良い」
 すっぽり覆い被さりほぼジャンが見えなくなった状態になったのを確認すると、ベルナルドはにこりと笑みを浮かべました。
「さあ、早く」
「わーってる」
 小声で短くそう話すと、ジャンは見えないよう手に握っていた2本の針金をさっと鍵穴に差し込みました。
 ゆっくり、一つずつカチリ、カチリ、と音がなり。その間、ベルナルドの腕は、ジャンの肌を確かめるようにさわさわと撫でていました。その行動に心なしかびくりと身体が反応するジャン。ふ、と監視カメラを一瞥したベルナルドは、ジャンの耳元に唇を押し付けると、ぽそりと声を落としました。
「ジャン、喘いで」
「っ、!?」
 はあ!?と大声で振り向く寸前で息を詰まらせて耐えたジャンは、一瞬目でなんでだとベルナルドを睨んだ。
「ちょっとはシてる風に見せないとばれる」
「…!…っ、でも…」
 確かにベルナルドの言いたいことも分かる。監視されているんだ、ちょっとはバレない工夫をしなくちゃならないかもしれない。
でも、演技で喘ぐとかやったことねーし!そもそもそんなのできねえっうの!
「……ジャン」
 ベルナルドが少し困ったような、それでいて期待の色を含めた目で見つめてくる。
 ムリムリムリ!緩く否定の色を示すと、はあ、と息を吐くと俺にしか聞こえないボリュームで小さく言葉を呟いた。
「仕方ない。――ちょっと強引になるかもしれないけどジャンは鍵に集中してくれ。いいな」
「へ?」
 何のことか分からずに聞き返すが、ベルナルドは俺を見ることなくそっと背後に視線を投げるとするりと俺の肌の上を移動し、胸の辺りまで手を持ってくる。ついぴくり、と反応の色を見せると細く節ばった指が俺の胸の突起を摘んだ。
「っぁン!な、に……やめ…」
 どこ触ってやがんだ、こんなときに!
 こんな状況でなきゃ、思いっきり奴に暴言を吐いていたところだ。身体の内側から熱い熱がじわりと俺を侵してきて、集中しなきゃいけないのに、針金を持った俺の両手から力が抜けていく。
「ジャン…ダメだよ。ちゃんと続けて」
 手を止めたことを目敏く見つけると、悪い子供を諭すような言い方で催促される。うるせ、わかってんだよ…!アンタがこんな事しなきゃできてるっつーの…!
「ぁ、ん…なこと、いった…って…っあ、ふ」
 指先が上手く動かない。もう何年もの歳月をかけてじっくりとベルナルドの指先ひとつで翻弄されるように調教された身体だ。俺を快楽に陥落させることなど造作もないことだった。
「ジャン、ほら」
 またも催促されて、思わずこんな事してるのは誰だと叫びたくなる。こんにゃろ、此処出たら覚えてろよ…その髪の毛にたっぷり負担をかけてやるからな。
 心の中で存分に罵った俺は針金を持つ手をそろそろと動かし始めた。クソ、手が震える…。その間にもさわさわさわさわ俺の身体を弄繰り回す手にどうしても意識が向いて、小さな刺激にもいちいち大げさに反応してしまう。今後ろは振り向けないから分からないが、どうせ楽しんでるに決まってる。証拠に、俺の肌に触れる指先が俺が感じやすい場所を上手く掠めていた。ああ、今ほどこの身体が恨めしいと思ったことねえな。
「ふぁ……っ、ん、ン…っ…。…ふ、…よし…」
 カチ、…カチリ…。少しずつ鍵穴の特性が分かってきた。鍵の開け方を大体予測することができたし、これは、イける。
 こんな状況でも自分の仕事をきっちりこなすなんて、なんて働き者だよー俺。
 …ん……あと、ちょっと。
 ぐにゃりと変形させた針金をぐるりと回すと…。
 ―――カチリ
 するりと、俺達の前につるりとした一本の蜘蛛の糸が垂らされたことを告げる音だった。ハッ、としてお互いに視線だけ交わせる。
「っ――」
 声がけなどない――その瞬間に、俺達は同時にドアノブを回し素早く扉のその先へと――


 部屋を出て、気がつくと、俺はベルナルドに手を弾かれながら走っていた。いくつもの房が立ち並ぶ刑務所のような殺風景な廊下を、ただひたすらに走る。途中、なんども研究室のような場所を見つけて、やはりここは研究所だったのかと頭の片隅でぼんやりとそんなことを思った。
「ジャン!こっちだ」
 道も分からないはずなのに、ずんずんと俺の前を行くベルナルドがとても頼もしく見える。ああ、なんだよ…俺、全然緊張感ねえじゃんか。コイツといるってだけで、そして鍵を開けて外に出たことで、俺の何かが途切れたのかどこか他人事のように、やたら冷静になっていた。
「ン…」
 とりあえずついていくと、そこには下の階と上の階に繋がる階段があり、俺はひゅう、と小さく口笛を吹いた。
「凄えな、なんでこっちに階段があるって分かったんだ?」
「え?ああ…勘さ」
 予想だにしてになかった返答に俺は面食らってぽかんと奴を見上げてしまう。この冷酷無慈悲、ウチの右脳の役割を果たしていると言える、幹部筆頭ベルナルドが、まさか勘に頼るなんて。物事には計画を重視するベルナルドらしくない行動に、くすりと唇から笑みが零れた。
「ど、どうする…上か、下か…!クソ、どっちだ…!」
 俺とは正反対に、酷く焦ったように階段を見比べながら足を出せないでいるベルナルド。数秒その姿を見てから、ぽん、と奴の肩に手をやった。
 ーーなら、俺も、勘を試してみようじゃねえの。
「っ、…」
 びくり、と大袈裟とも言えるくらい大きく、肩が跳ね上がる。目を見開いて俺を見たベルナルドに、にやりと笑みを向けた。
「こっちだ」
「っお、おい…?」
 そのまま、ベルナルドの腕を引っ張って階段をずんずん進んだ。俺が選んだのはーー登りだ。
「じ、ジャン…!なんで、こっちを選んだ?お前、出口解るのか?」
 ベルナルドがかわらず狼狽して俺にそう問いかけてくる。俺は、後ろを振り向き、にやりと笑った。
「んなワケあるか。アンタと同じーーー勘さ」
 驚いて目を見開いたベルナルドを満足そうに見てから、すぐに走る速度を早めた。
「さ、急ぐぞ」
「あ、ああ」
 階段を登り、上の階に到着すると、更に上に続く階段はなく、壁があった。ということは、ここが最上階で、俺たちがいたのはその下の階ってことになる。案外上に居たんだな、俺たち。
「ここ、なんだろうな」
 登りきった階段の目の前には、一つの扉があった。きっと部屋かなにかに繋がっている扉だ。ドアノブに恐る恐る手をかけてから、ちら、とベルナルドに視線を投げると、俺の意思をしっかり受け取ったのか、近くにあった消火器を腕に抱えるとドアの横にぺたりと張り付いた。
「開けるぞ、せーの」
 ノブをまわし、ばっ、と勢いよくドアを開くと、ベルナルドが飛び込んで行く。消火器を盾に、進んだが、辺りはしん、と静まり返っていた。
「誰も、いない…?」
 暫く用心しながらも、隅から隅まで部屋を確認したベルナルドはドアの外で待っていた俺に声を掛けた。
「ジャン、大丈夫だ。入って」
 言われるまま、部屋に入った俺は拍子抜けした。その部屋はまるで物が置いてない、窓枠を背後に大きな椅子とテーブルが置いてある殺風景な部屋だったからだ。もっとこう、 ウワー社長室だーみたいな凄い感じだと思ってた。
「なんだよ、ここ…。狭いし、なんもねえな」
 クソ、上だと思ったんだけどなあ…。選択間違えたか?
「いや、そうでもないよ」
 と、自分の勘を信じたことに、後悔し掛けたが、ベルナルドの声に振り向く。窓の外を見ていたらしく、ちょいちょい、と手招きされて俺は窓のそばまで行き、外を注視した。
「うっおおー!」
 そこにあった物を見て俺は思わず、感嘆の声を漏らす。外にはベランダがあった。小さいが、外に出られるだろうそのスペースの横に、ぽつりと一階まで繋がった非常階段が配置されていた。ここからでも、地上が見える。ラッキー、ついてるぜ…サンキュー女神サマ!
「流石、ラッキードッグは伊達じゃないな。いつも、お前には驚かされる」
 俺と同じく驚きながらも、ベルナルドはにやりとどこか嬉しそうな笑みを浮かべた。
「いやいや俺も驚いてるって、つか、そんなことより行かねえと!もう俺たちが居ないコトとっくにバレてるだろうし…」
「ああ、そうだな」
 喜んでる暇もあまりないまま、先行したベルナルドについて俺も窓枠に脚をかけ外に出る。ベランダはびゅうびゅうと強い風が吹き荒れ、地上に続く階段は長い間使われていないせいか、かなり錆び付いていた。踏みしめるたび、ぎしぎしときしむ嫌な音に不安を感じながら俺たちは一歩一歩確実に階段を降りて行く。3階、2階…と降りて行き、途中、ベルナルドが踏んだ階段が一段抜けるなんていうビックリハプニングがありつつも、なんとか無事に地上に着く事が出来た。
「っと…はああ…」
「ジャン、こっち」
 地面のどっしりした感じに思わず安堵の息をついていると、すぐさま辺りを見回したベルナルドに素早く手を引かれる。辺りを警戒しながらベルナルドと共に、階段の影に身を押し込まれた。
「っ、わ…」
 薄暗い視界に入りにくいだろうその場所。俺を守るようにベルナルドの身体があってーー…うわ、なんか近え…。脚とか肩とかあたってるし…ベルナルドの香水の匂いとか体温とか伝わってくるし…!って、おいおい…俺こんなときになに考えてんだよクソ…!慌てて頭を振って思考を停止した。
「おい、ベルナルドーー…」
「しっ」
 動揺しつつ、じっと研究所の入り口を見つめたまま動かないベルナルドに声をかけると、静かに制される。
「っ!」
 そこで、俺は始めてベルナルドと同じ方向を見た。そこにあった光景にぎくりと、息を呑む。
「探せ!まだこの施設内にいる筈だ!」
「いいか、絶対に逃がすな!」
 白衣を着た研究員とおぼしき男たちが物騒なモノを手にしながら、ぞろぞろと集まっていた。内容からして俺たちが逃げ出したことはやっぱりとっくにバレてたらしい。見つかったら、奴らが手に持っている銃で蜂の巣にされちまうよな…。
「お前らは門の前を見張れ。それ以外は施設内を探すぞ!」
「はっ!」
 あーらら…殺気立っちゃってまあ。にしても、やべえな…俺たちが逃げる予定だった門の前に一番ゴツそうな奴がつくとは…。ここらも見回りがつきそうだしな…そうなったら見つかるのは時間の問題だ。
 他に出られる場所は…?
 …ーーダメだ。まるでムショみてえに建物の周りが高い壁で覆われて…ご丁寧に壁の上は高圧電流まで流れてら。出口は奴がいるあそこだけか…フツーに考えてゴリ押しで正面突破は無理だよなあ…。かといって、今更戻るのは更に危険だし。ここより見つかる可能性は高いだろうしな。
 クソ、どうする…?
「な、なあーーベルナルド…どうする」
「困ったね、これは…」
 ちらり、と隣にいるベルナルドに視線を写すと、奴もまた難しい顔をして考え込んでいた。その頬には冷や汗が浮かんでいる。
 行きはよいよい帰りは怖いってか。
 どうしようか思案し周りを見渡しているうちに、サクサクと此方に近づいてくる白衣姿の男の姿が見えた。俺は思わずごくり、と息を呑む。
「クソ、来やがった……」
 奴の裾を掴み吐き捨てるように呟くと、ふと顔を寄せてきたベルナルドが俺の耳元で小さく囁いた。
「………俺があいつらの隙をついて気を引く。だからその間にお前だけでも逃げろ」
 ーーん、だと…!?
 身体がかっ、と熱くなり、腹が煮えたぎるような怒りがこみ上げてきて、俺はぎり、とベルナルドを睨んだ。
「…っ、…うるせぇ!この…ッ、次、そんな口叩いてみろ……!その長い髪、一本残らずむしってやる」
「…ッ、ジャン……だがーーー」
 ベルナルドは眉間にシワをよせながら苦しそうに呻きーーーハッとして近づいてくる足音の方に視線を移した。
 段々、だが、しっかりと…こっちに近づいてくる。もうすぐそこまでーーー
「…ッ、まずい…!」
 ベルナルドの腕が庇う様に、俺を包み込んだ。どく、どく、と激しく打ち付ける心臓が警鐘を鳴らす。
 もうどうしようもねぇ…ここだと、確実にバレる。かといって、ヘタに移動すれば銃でひと撃ちだ。
「ん…、…?」
 銃で…?…銃…、……、そうか…!狭い中で服の腰あたりを探ると、硬いものにコツ、と指が当たる。気分が高揚して、自然とニィ、と口角が上がった。
「これがあったじゃねぇか……!」
 ハハッ、すっかり忘れてたァ!
「なっ、それはーーー」
 目を見張るベルナルドは、俺が腰から取り出したそれーー愛用の拳銃、ルガーを見て同じくにやりとーー
「ハ、ハハ!出るときちゃんと持ってきてたんだよな!」
「そうか、それがあればーー」
「ああ。撃ったら他の奴らに即バレるから出来ねえけど、アイツを怯ませるぐらいはできるだろ」
 俺は急いで、銃の弾がきちんと一発だけ装填されていることを確認してから、一応念の為に安全装置を外す。
 サク……、サク……。
 もう後3歩で俺達がいる階段の裏の陰…すぐ真横に歩いてくる。自然にこみ上げてくる緊張から必死に辺りに目を凝らした。
 カチリーーー
 構えたルガーが猛獣のように小さく鳴いた。
「っーー」
 横に並び、俺達が見つかる数秒前。俺は階段の影からその男の目の前に勢い良く飛び出した。
「動くな!撃つぞ!!」
「ーーーッ!?」
 叫ぶと、思惑通り突然の事に怯んだその男は、一瞬硬直しーーー
 動作が遅れ慌てながら銃を構えようとするが、時すでに遅し。次の瞬間には背後から忍びよっていたベルナルドに後頭部を強打させられていた。ドコリ、という鈍い音と共に崩れ落ちた哀れな男は、ぴくりとも動けないまま地面と仲良くする羽目になる。
「アーララ…一撃でオチちまった。やるなあベルナルド。さっすが筆頭幹部ーーってか、それいつの間に持ってたんだ?」
 俺がベルナルドの手元を指差すと、長太い丁度鉄パイプ並みの大きさの木片が握られていた。それで殴ったのか…すげえ痛そうじゃん。
「ン、そこに落ちてたから拾ったんだよ。大きさも丁度いいし、こういう場面には最適だったろ?」
「あ?…ウン…、まあネ……」
 おかげでコイツはぐっすりですもんネ。流石、軍隊上がりはやることも違う。そんな事を心の中で思いながら、ベルナルドと一緒に気絶した男の身体をさっきまで居た階段の陰に隠した。
「さぁて、お喋りは此処を出てからだ。このままこっそり出口まで近づいてくぞ、ジャン」
「ン、おう」
 ベルナルドが俺の手を引く。その広い背中を見つめながら、小さく頷きその手を握り返す。続いて壁や陰伝いにゆっくりと進んでいくと、もう出口まで数メートルの地点までたどり着くことが出来た。出口から近い…丁度大人二人がすっぽり隠れられるほどの大木に隠れつつ辺りを見回せば、丁度他の研究員どもは建物内に移ったようで、人気は少なかった。…出口はもう目の前だ。
 だが、俺達はここで、またも足止めを食うことになる。
「ーーったくよ、実験体の分際で逃げ出しやがってあいつらァ。とっとと捕まればいいのによォ…なぁんだって俺達がこんなとこに突っ立ってなきゃなんねえんだよォ…」
「…さっきからグチグチと…お前は一瞬でも口が閉じられないのか!?あ?閉じたら死んじまう病気か!?いい加減黙らないと、その煩い口に砂でも詰め込んでやるぞ」
 研究所の唯一の出口である正面玄関。その両脇に立っている良い体格の男2人が、見る限り言い合いをしていた。
「…っち、分かったよ……おお、怖い怖い。黙って見張りゃーいいんだろ?」
 右側に立っている男は、気だるそうに壁に持たれかかってそう言う。
 マズイな…二人、しかもこんなに体型の良い奴ら相手に力技で行っても、圧倒的にこっちが不利だ。相手も武器を持ってるし、確実にこっちが押し負けるだろう。
 ーーどうする。
 さっきは何とか切り抜けたが今回ばかりは幾ら頭を捻ったところで、俺には強行突破や暗殺くらいしか思いつかない。
「クソ、こんなときに限って…っ!」
「あのタイプじゃ、さっきの手はもう通用しないだろうな…」
 じんわりと俺たちの間に焦りが募り始めて、出口は見えるのに行けないジレンマから俺はつい声を荒げる。
「クソッ…なんか良い手はねえのかよ…!」
 ベルナルドも、もううんざりだという表情で、言葉を絞り出した。
「そうは言っても、相手はあの体格の男二人だ!ゴリ押しで言っても、確実にやられる。様子を見て、他に手をーーー」
 突然。言葉を遮って右側の男の声が聞こえてきて、ハッと俺とベルナルドは慌てて口を紡ぐ。男はこっちを見つめてキョロキョロしていた。やべ…大声で喋りすぎたな…。
「んあー?なんだァ?…なァ、あっちの木の方のから、なんか聞こえなかったかァ?…クハハッ、案外、小汚えラットどもが隠れてたりしてな!」
 その言葉にどきり、と心臓が跳ねる。なんて、勘の鋭い奴だ。
「黙れと言っただろ。分からない口だな…お前にはもうこんなもの必要じゃないんじゃないか?俺が切りとってやるよ」
 左の男がナイフを隣の男の唇に当てると、降参とばかりに右の男はひらりと両手を上に上げた。そして、不満そうに口を尖らせる。
「なんだよう…アンタだって喋ってるくせにィ」
「黙れ、詰めるぞ」
「へいへーい…ったく、そんなにカリカリすんなよォ」
 不満たらたらながらも喋ることをやめれば、二人は何事もなかったように警備を再開し始めた。ひとまず、俺たちはそのことにホッとする。
 警戒されないように、身を硬くしていたのを解くと、意を決して俺はルガーの安全装置を外した。
 ーーーやるなら、油断している今しかない。
「…ッ、ジャン…!」
 俺の行動に、ベルナルドは驚いて銃と、俺を交互に見つめる。ベルナルドの言いたいことは分かっていた。銃に込められた弾は一発。たとえやれたとしても、一人だ。確実にもう一人が肩にかけたあのライフルで反撃してくるだろう。そうなったら、カンパンの俺たちは為す術もなくボコボコだ。研究対象だから、殺すまでは行かなくとも、歩けなくはなるだろうな。
 俺は言葉を発しず、ただベルナルドを見つめ返した。
 ーーーだが、俺たちが動かなきゃ、何も変わんないだろ?
 死んだらそれまで…だけど、アンタと一緒に地獄に行けるなら…それもいいかもな。
 ベルナルドに俺の覚悟が伝わったのか大きく頷かれて、俺はゆっくりと構えるとーーー門の前の男に、標準を合わせ…。
 ゆっくりと、その引き金を引いたーーー

 パァン!

 盛大に空気を振動して伝わる、破裂音。次の瞬間、弾丸は俺の髪をかすり真横を通っっていった。
 ーーー引いた、筈だった。
 そう錯覚する程に、そのタイミングはほぼ同時だった。
 撃ったのは俺じゃない。撃ったのはーーーさっきまで油断して話していた筈の…そして、俺が狙いを定めていた筈のーーー右側の男だった。
「な…?」
 思わずそんなほうけた声が口から漏れる。確かに、さっきまで何もしていなかったその男は…あの、肩にかけていた銃を俺の方に向け、笑っていた。
「…、っ、いつの間に…!アイツ…気づいてたのか…!」
 隣にいるベルナルドが苦渋に満ちた声を絞り出す。
 先に銃を構えていた俺より早く、しかも、こんなに正確に打つなんて人間業じゃねえ…。
「ハッ、打たせるかっつーの!つーか、そんなトコにいてバレてないとでも、思っちゃったァ?」
「ちっ、クソッ……」
 にやにやと気持ち悪い笑みを向けられるのが心底腹立たしい。クソ…!…このイカレ研究員どもが…!
 目の前で銃を突きつけられれてしまえば、闇討ちはもう出来ない。絶望的にこっちが不利という最悪な状況に陥ってしまった。
「次は当てちゃうぜ〜?それが嫌なら大人しく箱の中に帰ることだな、ネズミちゃん。…ったく、手間かけさせやがって、実験体は大人しく従ってりゃいいんだよ」
 勝ち誇ったような顔の男はそう言う。こんなことを言われれば、男として、マフィアのボスとして、例え自分に良いカードが周ってこない状況であっても、ベットしないという選択肢を選ぶわけにはいかなかった。
「…っ、ジャン!?…おい、どうする気だ…!」
 どうせやられるなら、先にやってやるーーー
 俺は男が見ている目の前で、だらりと下げていた銃を同じように突きつけた。ハンマーを引き、トリガーに指をかける。そこで、ハッとあることに気づきーーー俺は内心にやりと微笑んだ。
「ーーおおっと、往生際悪ィなァ。どうやら痛い目に遭いたいらしい」
 男は俺の心臓に銃をつきつけながら、動揺することもなく余裕綽々だ。不意にあふれ出る感情に泣きそうになるのを必死に堪えつつ、俺は相手の動揺を誘うため、にやりと不敵に笑ってみせた。
「馬鹿か。まだ分からねぇのかよーーー狂犬が後ろにいるぜ?」
「な、なんだと……?」
 後ろを指指すと。男はまんまとその顔に動揺の色をみせ、不審に思い背後を振り向いたーーー

 ーーーその瞬間。
「っぐ……ァ、……っ!?」

 ザクリーーー
 キラリと刃物が一瞬光ったかと思えば、鮮血に染められた男がぐらりと重心を崩し銃とともに地に倒れる。男が背後に見えたのは、紫の髪をした顔立ちの整った男。
「ッ…、ジュリオッ………!」
「ジャン、さんーーーよかっ、た……。……遅くなって、すみませんーー」
 俺は嬉しさと安堵を隠しきれず、思わず銃を投げ捨てジュリオに駆け寄った。その後ろにベルナルドも続く。
「ジュリオ…!?どうしてここに…」
「俺達もいるぜ?」
 ベルナルドが驚いてそう問うと、それに答えるようにジュリオの後ろの方から声が飛んできた。俺達は更に驚いてジュリオの後ろを見やると、そこにはもう一人の男が倒れていた。そしてその両側に。
「ッ…ルキーノ…!イヴァン…ッ!」
 頼もしい部下の姿がーーー笑みを浮かべたルキーノと、呆れたようなイヴァンの姿があった。心が撃ち震えるような嬉しさに、目じりに涙が溢れる。
ーークソ、クソ……!サイコーな部下どもだぜ、馬鹿野郎……!
「ったくよお、世話かけさせやがって…」
「イヴァンの手下数人が、ここの研究所と締結してお前らを攫う計画をしていたらしくてな。そこから芋づる式にここを見つけることが出来たってわけだ」
「ヘッ、馬鹿なやつらだぜ。計画成功の嬉しさに大声で話合ってやがるんだからな」
 ーーーそうだったのか…。道理で事がすんなり運んだはずだ。
 急におかしくなってきて、俺は一人ひとしきり笑った。
「ふ、ハハッ、なんでもいいさ!…ッ、世話掛けてすまねえ……。…ありがとな、お前ら……!」
 3人はホッとしたような申し訳なさそうな呆れたような、視線で俺達を見ていた。ベルナルドも、なんだか疲れた顔をしていたが心底安堵していた。
「ーーーと、奴らがこっちに向かってきます。とりあえず、ここを出ましょう」
 素早く気配を察知したジュリオの言葉を皮切りに、俺達はとりあえず研究所の出口へと走りーーー外の建物の影で待機していたメルセデスに颯爽と乗り込む。イヴァンの運転で発進したメルセデスは、小さく鳴いたかと思うと、あっという間にあの嫌な研究所は視界から忽然と消えたのだった。


「ーーー本当に、すまなかった。ジャン、皆…。俺が不甲斐ないばっかりに……」
 かっとばしたメルセデスで、あっという間に俺達は本部に着いた。どこか懐かしく感じながら建物を見ていれば、どこかの見世物集団が通り抜ける勢いであれよあれよと本部のラウンジまで連れて行かれる。途中部下どもの様々な労わりの声を聞きつつ、ラウンジのカウチに座った途端ベルナルドがそう切り出した。
「オイ、ベルナルド…。あーもう、そういうのやめようぜ。今回の事は、背後から突然のことだったし100パーセント不可抗力だろ、アンタは何も悪くねーって」
「まあ、今回ばかりは、な……手下に裏切り者がいたんだ、俺達にも責任がある」
 ちら、とイヴァンの方を見てそう言ったルキーノに、イヴァンはじろりと睨んだだけで、何も言わなかった。
「じゃあ、今回の事は誰も罪に問わないーーー不問ってことで、OK?」
 沈黙は了承だ。誰も言葉を発しないことに俺はにやりと笑った。本当にいい部下を持ったよな。こいつらは本当に俺の誇りだ。ああ、もうホントにサイコーだぜおまいら!
「じゃ、もうこの話は終わりにしようぜーー腹減った〜!」
 腕を振り上げ俺がそうアピールすれば、4人の間にくすり、と笑みが漏れーーーようやくいつもの俺達の時間が帰ってきたような気がした。なんだろうな、それだけなのに凄く嬉しい。
「今、部下に頼んで食事を手配しますーー待ってて、ください」
「あーあ、俺も腹減ってしょうがねえ。朝から働きっぱなしだったからな」
「俺もだ。今日は豪勢なのをやらなきゃ気がすまんぞ」
 わいわいと3人の話が食事の方向へ進み始めると、さっきから口数が少ないベルナルドがこっそりと小声で俺に話してきた。
「ーーージャン、今日は本当に悪かった」
 だから、良いって言ってるのに…全くこのおじちゃんは責任感強いんだから。
 でも、気持ちは分からないでもない。だって、俺だってあの時はもう本部には戻れねえって覚悟してた。でも、あいつらが必死に俺達を探して迎えに来てくれたから、今こうして5人そろって生きてるんだ、それで良いじゃねえか。経緯がどうであれ、とそう思っていた。死んだら死んだで、アンタとなら良いと思ってたし?…言ってやらねえケド。
 ふ、と昔予定外の襲撃にあってベルナルドの電話で助けを借りながら、なんとか生き延びたときのことを思い出した。あの時は、本当に親父や皆、あいつらとベルナルドに感謝してーーーそして。
「ばーか。言っただろーーー俺は、アンタはそれでいいんだよ。俺はそんなアンタがいいんだ」
「ジャン…ーーー」
 ベルナルドの瞳がきらりと輝いて、次には泣きそうに歪んだ。3人に聞こえないように警戒しながら、俺はそのまま男の耳に唇を寄せる。
「ーーー愛してる、ベルナルド」
「ッ、俺もだーーージャン、愛してる…」
 ああ、くそ。俺、今本当に泣いちまいそうだ。
 生きてて良かった…こいつも、イヴァンも、ルキーノも、ジュリオも、みんなここにいる。一緒に。
 俺は嵐が過ぎ去った後の晴天が見えたときようなーーーたまらなく爽快な気分でいた。
ああ、あいつらの笑い声が聞こえる。俺はどうかこの幸せが出来る限り続くようにと願いながら、ゆっくりと目を閉じた。
 頬に濡れた感触がしたが、きっと気のせいだ。




END



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