小説 | ナノ

  寂しがりやの恋人


 7月29日…。
 今日という記念すべき日がまた今年もやってきたというのに、なんだってベットの上で独り寝しなきゃならんのか…。…俺はなんともいえない無力感に苛まれていた。
「クソッタレ…」
 意識せずに口から罵倒が漏れる。
 いまやデイバン郊外でも一躍注目の的となっているマフィア、CR-5。そのトップ、泣く子も黙る頭の俺…ラッキードッグジャンカルロは、豪華なベットの上で独り、絶賛瞑想中だった。当然考えているのは、今俺をこうして独り寝させている原因で、今日という日の主役であるアイツについて、だ。この組織幹部の第二位で、俺の可愛い部下で、ぴかっぴかな伊達男のーールキーノ・グレゴレッティ。奴が今ここ――ルキーノといつも時間があると過ごしている寝室…に居ないのが、俺をうんざりさせている理由だった。
「はあ……」
 もう何度目か分からないため息がつい口から出る。
 クソ、あのペンギン野郎…!あの蛆虫め、今度会ったらぜってーミンチにして豚の餌にしてやる。そんな物騒な事を考えてしまうぐらい、ああ、もう今日という日は最低で最悪な日だった。俺の思考はまたいつのまにか今日あった出来事を反芻していた。
事の発端はアフタヌーンティーもとっくに過ぎた頃。
 俺は夜祝う予定のルキーノの誕生日の事を考えて浮かれつつ、ベルナルドの執務室のカウチでコーヒーと共に少し頭を休めていた。まだまだ終わりそうにない、エッフェル塔のように積み重なった書類からひととき逃げてきたのだ。
「…ん?なんだい、何か人生に不満でもあるような顔だね」
「んー、そりゃこんだけ書類仕事に追われてりゃー…ねえ。不満だらけですよって」
 その返答に苦笑いするベルナルド。
「出来ることなら休ませて上げたいが、俺も子供達の世話で手一杯だからね。コレで我慢してくれ」
 そう言って執務卓の中から取り出したのは棒付きキャンディ。ベルナルドはそれをカウチに座っていた俺に投げて寄越した。わぁい、ありがとーベルナルドおじちゃん。何て用意が良いのかしらん。
「…って、嫌な子供も居たもんだな」
 ハハ、と笑うとベルナルドも俺に釣られて笑い、コーヒーを一口啜った。
 そんなことをしながらまったりしていた俺たちの間を、突然けたたましく鳴るベルの音が引き裂いた。その電話に、素早くベルナルドの手が伸びる。
「…私だ。…ああ、ルキーノか、お疲れ」
 ルキーノ、ベルナルドが発したその言葉にどき、と肩が跳ねた。ベルナルドに定時報告…?ルキーノはもう仕事ひと段落ついたのか?ちっと代わってもらえねーかなあ、ルキーノと話してえなあとか思いながらそわそわしていると、受話器を持っているベルナルドの表情がさっ、と硬くなったのが見えた。
「な、なに……?っ、…カッツォ!……仕方ない。…すまないがルキーノ、そちらを暫く頼む。なんとかこっちで……ああ」
 ん?……なんだ、なんかあった、のか……?
 話しているベルナルドの顔色を伺うとどんどん暗く沈んだものになっていくのが、俺を酷く不安にさせた。空気から伝わってくるこれはまさに…、嫌な予感というやつだ。
「はあ……とんだ誕生日プレゼントになっちまったな…、ああ。分かってる……すまないがもう少し耐えてくれ。……ああ、頼む」
 ため息を一つ吐いたベルナルドは、励ますように短く声をかけるとすぐに受話器を戻した。チン、と会話が終了した合図が鳴る。それと共にすかさず俺はベルナルドに食いついた。
「……い、今のルキーノからだろ?なんか…あったのか……?」
 恐る恐るベルナルドを伺うと、胃をつつかれて痛いような顔をしてはあ、と重い溜息を吐く。
「っ……ああ…実は、な。…今度、ルキーノが新規事業を始めるって話があっただろ?」
「ああ…あれかー。なんか新しいスタイルのカジノを作るんだっけ?それがどうかしたのけ?」
 確か一週間前だかそこらに、ルキーノからそんな話を聞いていた。なんでもカジノも、もうそろそろ稼げるようなスタイルに変化しなきゃいけないとかなんとか話してたっけな…。妙に楽しそうにしてたなあ。
「あぁ…その後、ルキーノがうってつけの土地を見つけてな。そこに店を開拓しようとしてたんだが…」
 へー、そんなのもう見つけてたのかー。うん、と俺は言いにくそうなベルナルドの言葉に頷き、続きを急かす。
「まあ…なんと言うか、…その土地には他の所有者がいてね。どうにか手放して貰えないかと、ルキーノは今交渉に行ってるんだ」
「…交渉、か…。…え、っだったら、さっきの電話は…なんかマズイ事があったんだよな?大丈夫なのかよ?」
 さっきの会話からしてどうにも良くないよな、とベルナルドを見やると、少し困った様子で眉を下げてからふう、と疲れたようなため息を吐いた。
「…マア、お察しの通りさ。どうにも芳しくない状況だ。…ここだけのハナシ、その土地の所有者、っていうのが…最近でてきたばかりの、運び屋事業のトップ…カタギとは名ばかりの連中でね。…確か、ウッチェッロとか言う奴だ…」
 ほうほう。その名前なら確か一昨日の新聞で目にした。最近ぐんぐんと頭角を現して来た運営会社の長、ドナート・ウッチェッロ。でかでかと大見出し記事が掲載されていたからよく覚えてるなあ。
 内容は確か、ソイツが稼ぎとしている運搬会社の事業拡大…子会社の設立という名目で、この街に留まらず各国にもバンバン土地を買収している、というものだった。その会社といえば、デイバンにも数件あったかなかったかだが、まあ酷いものだ。ちょっと頼んでみれば、金額はぼったくり、ブツが原型をとどめないままきちんと届かないなんてざららしい。それでも、事業を拡大してるのは、ウッチェッロが市警共と親友のような仲良しぶりな上、裏でこっそりと密輸売買で稼いでるからだって俺は知ってる。まあ、こんな時代だ。謹厳実直な堅気なんぞ、そうはいないとは思うが。
「なにが堅気か分からないわネ…。それで?向こうは土地を譲り渡すのを渋ってるのか?」
「ああ。…狡賢い男だ。そう簡単には行かないと思ってたが…やはり条件を突きつけてきたよ」
 まあ、当然だよな…三度の飯より金稼ぎが好きなウッチェッロがこんな上手い話に何もナシな訳がねえ。
「条件って?」
「土地を譲る代わりに、土地代として毎月それなりの額を提示する事、だそうだ。…全く、身の程知らずな奴さ」
 ワオ!ショバ代ってか。最悪だぜ。
「そんなやつとっとと黙らせれば終わりなんじゃねーの?」
「そうなんだが――」
 俺が妥当な解決案を示してみると、緩く首を振ったベルナルドはうんざりとため息をつく。歯に小骨でも刺さっているような顔をしたベルナルドが歯切れ悪く口を開いた、そのときだった。
 ring!ring!ring!
 ふと、けたたましいベルの音と共に電話のコールが鳴り響く。その音にベルナルドははっとしたように言葉を止め、電話を見つめた。そしてすぐに、受話器を手に取り神妙な顔をしながら耳に当てた。
「私だ。……ああ。な…っ…本当か!………そうか、よくやった!すぐにそれをルキーノに持って行ってくれ。…ああ、早急だ。頼んだぞ」
 難しい顔をしていたベルナルドの表情は会話が進むにつれ、次第に明るくなり終わる頃には、なにか賭けをして大当たりしたような勝ち誇った顔で笑っていた。
 電話からしてベルナルドの部下からだとは思うケド……なんかイイコトでもあったのけ?今度は俺が難しい顔でそわそわし始めたころ、ようやくベルナルドがその受話器を置いた。すぐにペンでなにかをメモに書き込むと、俺ににやりとした笑みを向ける。
「な、なにかあったのけ?」
「ああ、そうか……やっぱりお前は最高だ、ラッキードッグ!」
 電話で何があったのか気になってしかたない俺は、たまらずベルナルドに食い付くとフハハ、とベルナルドは一人楽しそうに大笑いし始めた。
「んなになに!?俺全く状況がつかめてないんだケド!ちゃんと説明してくれよ!」
「ふは、悪い悪い。ルキーノのことで、部下から報告があったんだ。お前のおかげだ」
 ルキーノの難航していた交渉が上手くいくのが俺のおかげ?言葉の意味が分からずに、思いっきり首をかしげると、ベルナルドがコーヒーを一啜りしてふう、と一息ついた。
「…今、ルキーノには、条件をねじ込まれないように耐えて貰っている。けど、もう心配ない。アイツは堅気の癖に、鼠のようにうろちょろ素早しっこくてね。なかなか裏で働いている悪事の尻尾がつかめなかった。そのせいで交渉が上手くいかなくなってたんだ」
「あ、…そうだったのかー」
 確かに、今考えてみれば土地交渉なんて大したことのない交渉だ。しかも、あれだけやり手のルキーノが条件を飲まされそうになるほどにこちらに不利に追い詰められてるなんて滅多にない。それがすんなり行かなかったのは、市警と仲良しな堅気だからってことと、もうひとつ。あのウッチェッロの野郎に脅しをかける材料が十分なほどに集まらなかったからだったんだ。そりゃあ、どんな手使ってもあの豚ヤローは屈しねえわ。だって、自分の致命的な急所をつかれなければ、アイツは間違いなくデカイ顔が出来る。
「それがね…つい先程、撒いた種がようやく芽を出した。……ジャン、お前。一週間前、港でこの古新聞を拾ってきたろ」
「え、あ、なんだ。…それホットドッグ巻いて、ベルナルドにやったやつじゃねーか」
 そう言うと、そうだ、とベルナルドは苦笑いをして俺を見た。
「そう、イヴァンと一緒に協会に行った帰りがけに、俺の差し入れにと港の屋台でジャンが買ってきてくれたやつさ。この新聞紙になんとなく目が留まって、見てみたらこの新聞紙、少し面白くてね」
 ベルナルドは新聞紙を広げると端の切れ目のところを指差した。近づいてよく覗いてみると、妙に分厚い新聞紙の切れ目になにかでくっつけたような痕が残っていた。アレ、良くみりゃコレ、新聞が二枚ぺったりくっついて重なってやがる。通りで分厚いわけだ。ベルナルドが一度引っぺがしたんだろう痕跡も残っていて、もうぐしゃぐしゃだ。
「ワオワーオ!」
 二枚を剥がして、現れた中を見てみて俺は口から思わず感嘆の声を漏らした。
 そこに書かれていたものは殴り書きの字の数々。
 物品の名前と、その下に……RW,NY,CG,ロックウェル、ニューヨーク、シカゴ……。更にはご丁寧に端の方に小さくUccllo,と書かれていた。どう見ても、これはウッチェッロの仕向けた密輸ルートの情報………。
 ……マンマミーア。
「……マジかよ」
「大マジさ。調べてみたら、これは間違いなくアイツの、ウッチェッロの密輸ルートだった。さっきの電話で証拠が取れたんだ。……こんなものどうやって手に入れたんだい、ジャン?」
 いっそ感心した様子のベルナルドの言葉に、俺は一週間前の記憶を辿っていく。
 確かなー、あの時はイヴァンと一緒にテキトーな屋台選んで、そこで、普通に飯を買ったんだ。そうそう。それで、そのときに酒の匂いが………。
「あ!そうだ、あの店の男、酔っ払ってたんだ!…それで、フラフラだったから大丈夫かって思ってたらあの新聞ごとホットドッグを俺に寄越したんだよ。そういや、今思えばイヴァンのヤツとも違ってたなア」
「なるほど。多分、そいつが密輸を任されていたウッチェッロの手下だったんだろうな。っく、……ハハハ!全く、なんてヤツだよお前は!」
「ハハ……、いやー…俺もびっくりだわ…。…ふ、ハハ…!」
 偶然買ったホットドッグに密輸ルートが付いていて、それがルキーノを助けるなんてなんだよソレ…!ありえねー!
 新聞紙とお互いを交互に見合ってから、俺たちはぶ、と噴出した。だって、こんなあり得ない出来事、笑うしかないだろ?
 堪らなく爽快な気分で暫く笑いあう。こんな気分久々だ。
 サンキュー女神様!
 その後、密輸ルートの証拠を掴んだ書類は部下からルキーノの手に渡り。見事にルキーノは新規事業のための土地交渉を条件なしで成立させることができたのだった。さっすが、ルキーノ、脅しは得意分野ですってよ。
 こうして、無事書類仕事も、ルキーノの交渉手伝いとかなんとかも終えた俺は夕方頃にはルキーノに会えるだろうと、うきうきしていた訳だった。…この時、までは。
「ふう、……」
 何度繰り返したか分からない一連の出来事を思い浮かべ終えた俺は、またもやベットの上で泥のようにどんよりと沈む。あんなに心がすっきりするような事があったっていうのに、ルキーノがここに居ないってだけでこんなにも気分が落ち込む。今日はアイツの誕生日なのに。俺は、こんな特別な日でさえ、アイツに一目会うことすら出来ない。
「ファック……」
 あの、後。すぐに帰ってくるだろうと思っていた考えは甘く。ウッチェッロとの話し合いや契約のもろもろのことで、ルキーノにはベルナルド越しに今日は帰って来られないかもしれないと電話があったと報告された。俺の視線は自然とベットから遠く離れたテーブルがある方向に注がれてしまう。寝室からだと見えないけど、テーブルの上にはもうすっかり冷め切っただろう食事やらワインやらが並べられてる筈だ。まあ、そりゃ、俺がルキーノのために用意したんだから当然だけど。
 あの食べ物どーすっかな……ルキーノ帰ってこねーんだったらもう捨てちまおうかな…。そんな考えが浮かんで、ますます気分が憂鬱になる。
 時計の針はもう、すっかりてっぺんを指そうとしていた。
「……あと、10分で…ルキーノの誕生日、終わっちまうな……」
 口から漏れた声に、思ったより寂しさが滲んでいるのに気づいて、慌てて誤魔化すように布団に顔を埋めた。もう、寝ちまおう……。
「…………っ」
 そう心に決めて、固く目を閉じてみるものの。こういうときに限って眠気なんて全く襲ってこねえ。最悪だ。それとは逆に俺の思考は働くのをやめずに、俺に考えたくもない出来事と感情を反芻させる。
 今は思考を手放す暖かい眠りの闇に身を任せることは、到底できそうになかった。なら、酒でも…、と思うがどうにも手が伸びていかない。
「ああ、クソ……」
 そうだ、俺は疲れてるんだ。自分にそう言い聞かせる。
 こういうときは……一発抜くとすっきりするって言うよな…。
 俺は暫く考えこんだと、やってみる価値はあるか、とそろそろと下半身に手を伸ばした。
「ン……っ」
 自分の手で、まだ全然反応していなかった自分の息子を握りこむ。久々すぎる感覚にぞわり、と肌が粟立った気がした。
 ヤベ……、なんかコレ…。
「っく……、は…っ」
 声が漏れないように枕に顔を押し付けると、洗濯されたいい香りに混じってルキーノのムスクの残り香が鼻腔をくすぐった。途端に、脳が蕩けるほどの甘い痺れが俺の思考をぐちゃぐちゃにする。ルキーノの匂い……久々だよな。ルキーノの匂いは俺にとって媚薬と同じだ。俺を芯から溶かしてどろどろにしちまう。
「…うんう…っ、ア、…ぁ…っ」
 まるでルキーノに包み込まれてるみたいで興奮する。俺の手は止め処なく確実に俺に快感をもたらしていた。
「ひ、う、う!…あ、あっ…!」
 気持ちい…。けど、なんか…違う。
 快感だけはくるけど、それだけだ。ルキーノとしているいつもの痺れるようなセックスとは比べ物にならなかった。
 足りない、たりない。高みに上るにつれて、空虚感は増すばかりで俺は本格的にどうすればいいかわからなくなっていた。すっきりするためにはじめた筈なのに、全然上手く行かねえ。すっきりどころか飢餓感で死にそうだ。
「んーっ、…っふ、…ぁ、あ…、っ……!」
 イキたいのにイケねえ。苦しい。あとちょっとなのに。
「ふ、はあ……」
 そんな瞬間だった。突然、寝室の扉がガチャリと―――
「おい、ジャン…?寝ちまったか?」
 ノブの開いた音と共に、スーツを身に纏ったかっこよすぎる俺のダーリン、ルキーノが姿を現した。
「――……っ!?」
 くぁwせdrftgyふじこlp!?!?
 突然の男の登場、あまりの驚きに声も出ないまま手も動かせないまま、ルキーノの方に視線を向けて硬直する。
 その視線とルキーノの視線がばっちり噛み合う。あ、しまった、と思ったときにはもう遅かった。
「……ジャン、起きてたか…」
 どこかほっとしたようなルキーノは、優しそうな声と共にベットに横たわる俺に近づいてきた。
 うわああああ!ヤバイ!これヤベーって!!ルキーノ!頼むからこっちくんなあ!
 その行動に自分が今の今まで何をしていたのか思い出して、青ざめる。う、やべえ、一人でシテたなんてルキーノに知られたら……!うう、どうすんの俺!どうすんのコレ!?
「っ、…!」
 とりあえずばれないようにと、横を向くと、勘違いしたらしいルキーノが俺を慰めるようにベットの端に座って俺の頭を撫でた。
「ジャン…、怒ってるのか…?……すまん、今日はお前と過ごす予定だったのに、悪かった」
 すまなそうなルキーノの声と、その熱い手の感触。さっきよりの残り香よりも、ダイレクトにキた。俺の息子は萎えるどころかルキーノ登場に元気になり始めていた。ヤベーよ…、なんだこれ……、触りたくて…むずむずする…。
「ちが、…おかえりルキーノ…。…俺ちょっと、…具合悪、くて…。ルキーノ…アンタ、先に風呂入って来いよ…」
 もう、やめようと思っても自然と手が動いちまっていた。…あ、なんだコレ…なんで、俺…とまんね…。
「大丈夫か…?…ん、…ジャン?……っ!」
 心配そうに俺を見つめていたルキーノの視線が不自然にとまる。俺の顔を見て止まったルキーノに、不思議そうに俺も見つめ返していると、突然、ばっ、と布団が剥ぎ取られた。俺はぎょ、っとするが、もう手遅れだった。不自然にずり落ちた服と、モノを握りこんでいる手は隠し様もないまま―――ルキーノの視線がそこに釘付けになる。
「う、ぁ……、…ちが、これは……、う、見んなよぉ……」
 手で、あらわになった下半身を隠そうとしたら、その手首を掴まれてルキーノの方に強引に引っ張られた。
 あ、と思ったときには唇に熱い唇と舌の感触。あ、ルキーノのキス、だ…。
「っん…ぁ、ふ……っ、るきー…っんん、ぅ……っ」
 久々のルキーノのキスは、熱烈で熱くて、腰が溶けそうで、舌が甘く蕩けるほど気持ち良くて。口内を嫌というほど蹂躙されて、ようやく離されたときにはもうくったりとベットに身を預けるしか出来なくなっていた。
「――…ふ、あ……、っ……う…」
「ったく、可愛いことしやがる……。俺が居なくて…一人で慰めてたのか、ジャン…?」
 そんな俺を愛しそうに見つめた後、ルキーノは俺の身体をぎゅ、と抱きしめて余すことなく俺の身体にキスを降らす。ルキーノの甘いムスクとタバコの香りにくらくらしてくる。
「う……。…だってよう……、今日はアンタの誕生日だったんだぜ……?…なのに…」
 祝うの、楽しみにしてたんだ、と責めるつもりはねえのについそんな言葉が口から出てしまう。俺、結構楽しみにしてたんだな…。
「そうだな……悪かった。…お詫びに、お前のお願いなんでも聞いてやるよ」
 ちゅ、とキスを落とされながらそんなことを言われてしまえば、俺の機嫌なんか思うままに操られちまうのだった。
「ばーか、アンタの誕生日なのに、俺のお願い聞いてどうすんだよう…」
「俺がしたいんだよ。…お前には助けて貰ってばかりだからな。…今日の事もな」
 今日の事、ってあの新聞紙のことか?でも、あんなんは俺の偶然っつーかラッキーだっただけですし。でも、ルキーノが良いならいっか。
「ん、じゃあ……さ…。…お願い、今、きけよ…」
「…ん、なんだ…?」
 ちょい、とルキーノの赤毛を引っ張ってそんなことを言ってやると、ルキーノの瞳が優しく細まって俺の頬を指でゆっくり撫でた。
「……アンタの誕生日、祝わせて」
 そう言うとルキーノの目が驚きで見開かれ――次の瞬間にはふわ、と口元にゆっくりと弧を描いた。
「そんなのでいいのか…?欲がないヤツだな」
「いいの。俺がしたいんだし」
 ふ、と笑みを零しているルキーノの唇に俺のほうからそっと近づいて、触れるようなキスを落とす。もう、過ぎちまったけど…ちょっとだから、ノーカンにしてくれるよな?神様。
「誕生日おめでと、ルキーノ」
「Grazie!最高だぜ、ジャン」
 本当に嬉しそうなルキーノの笑顔が見れて、それだけで、こんな最低なトラブルがあった日だけど…良い日だったかもな、なんて思える。ルキーノが居るだけで幸せで、俺は満足だ。我ながら、俺って単純思考だなぁ。とか、抱きしめられて溶けそうな頭でぼんやりそんなことを思ったのだった。

 ちなみに、この後ルキーノに誕生日だから、と一人プレイを強要させられたなんてことは思い返したくもない……。
 この変態め………!



END


prev / next

[ back to top


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -