小説 | ナノ

  1 金色の姫


「王子ー!王子、どこにいらっしゃるんですかー!」
「うおっと、もうきやがった」
 俺を探しながら、ばたばたと廊下を駆け抜ける兵士の姿が目の端に見えて、俺は慌てて中庭の巨木によじ登り、木の枝にちょこんと腰掛けた。
「王子ー!ジャン王子ー!どこですかー!!」
 兵士の者は酷く慌てた様子で何度も俺の名前を呼びながら、きょろきょろと辺りを見回している。そのまま隠れていると、諦めたのか俺の姿に気づかずにそのまま去っていってしまった。その後ろ姿に、木の影でふふん、と得意げに鼻を鳴らした。
「へへっ、熟練脱走者のこの俺が、そう簡単につかまるかっつーの!あいつもとっとと諦めればいいのに。こりねーよなあ」
「おまえもだろうが、この好奇心旺盛なわんわんが」
 満足げににやにやと笑っていると、突然俺の独り言に反応するように声が飛んできて驚く。え、なんだ!?
 恐る恐る下を見ると、木の真下で呆れたように俺を見つめている、俺の直属の世話役であるルキーノがいた。
「…、ル、ルキーノ…!……やべ」
 あちゃー、みつかっちまったー。今日は戻りたくなかったのになあ。
「なーにが、やべ、だ!まぁたレッスン中に抜け出しやがって。イヴァンも怒ってたぞ」
 そう言われて、俺は苦笑いを零した。怒り狂って騒ぎ立てるイヴァンの姿が目に浮かぶよ。イヴァンは、身につけておくべきスキルや勉学の事を全般に請け負っている俺専属の家庭教師だ。実は俺より年下で、からかうとすぐに怒るし俺より餓鬼みてえなんだけど、根は真面目だからかそこらじゃ、頭脳明晰と名高い。イヴァンの教え方は上手いし、授業もきっちりしてるんだけど、俺にとってはどーでも良すぎる知識を朝から晩までみっちり詰め込まれて、勉強とか苦手な俺はこういうことにたまらなくうんざりするのだ。今日はもう最後の方に近づいてて、自分でも褒めたいほどかなり我慢したほうだと思う。だからちょーっとぐらい行き抜きに部屋を飛び出すぐらい、許してくれてもいいと思うワケよ。そーだ、そーだ。
 そんな事を考えて自己完結してみると、ちらっと見たルキーノの顔には深い皺が刻み込まれていて、それが許さないことを示すかのように圧迫感を発している。ちょっとコワイわん。
「だあってさあー、イヴァンのやつちまちま注意して口出してくんだもんよー。もーつらいったらないのアタシ」
 頬に手を添えてたいくつでしょうがなかったことをアピールすると、ルキーノはしようがないヤツだ、といわんばかりに大仰にため息をついて頭を抱えた。
 マア、失礼しちゃう。
「だったら休憩させろとか言えばいいだろ?すーぐ脱走しやがって。ったく、探すこっちの身にもなれ」
「イヴァンに言ったってお小言いわれておしまいか、休憩させてくれても部屋の中だし休んだ気しねーんだよ…。――…ちょっとぐらいいいだろ?別にずっと抜けてるわけじゃねえし」
 なんだか拗ねた子供みたいな声になっちまって、情けなくなる。俺はなんだかいたたまれなくなってそっぽを向く。そりゃー王子なら抜けることすらNGなんだろーけどさあ、人間ちょっとぐらいって、やっぱ思っちまうもんじゃねえの?…いや、普通立場を考えてこういうのは、思いとどまるもんだったのか…?
 そう思うとなんか、俺、イヴァンよりガキみてえだな…。てか、なんでルキーノにこんなこといってんの、俺?
「…ジャン、早く降りてこい」
「え?」
「息抜き、させてやるよ」
 俺が不思議そうにルキーノを振り向くと、ルキーノは不敵な笑みを浮かべて城の外、城下町がある方角を指で示した。
「!マジで!?」
 思わずガバリと立ち上がると、ルキーノは目を見開いて驚いた後笑ってうなずいたのを見てうれしくなる。
 ルキーノが城の外に連れてってくれるなんて。ヤバイ、どうしよう、うきうきしちまう。なにせここ1ヶ月ぐらい外に行くのは自粛してたから、久しぶりでかなりうれしい。なんでかって?…そんなのはベルナルドオジサマの前髪がへっちゃったからよん。
「わんわんには、たまには散歩も必要だからな」
「わんっ!ってこら犬じゃないっつの」
 すぐに木から下りてルキーノに近づくと、今度はにやにやと笑いながら俺の金髪をわしゃわしゃとかきまわしやがった。だから犬じゃねーっての!
 少し面白くない顔をしているとますますかき回されて、はははと笑うルキーノ。それに仕方ねえなあと思いつつも、やっぱり面白くねえから仕返しにその男らしい赤毛に手を伸ばして思いっきり引っ張ってやった。
 それから、俺達は変装をしてばれないようにこっそり城を抜け出して、城下町へと向かったのだった。
 俺専属のボディーガードであるジュリオにはばれたので、すぐに戻ることと着いて来ないようになどを伝えて俺達は城下町に向かったのだった。




 活気あふれる城下町。行きかう人々に大声で品を売る店主、走り回る子供達。
 ここは、いつ来てもいいなあと思う。なんつーか、こう暖かいっていう感じがするっていうか。
 うきうきしながら、隣にいるルキーノをちら、とみやると幾分と穏やかな顔をしてたからなんだか、妙に落ち着かなくて困った。雰囲気いつもと違いすぎだろ…ああ、いつもそんな顔してねーからか。俺が見慣れてんのは眉間に皺寄せてる顔ばっかだしな。
 そんなことを思っていると、ふと道の一角にある店のものに目がとまった。
「お、ルキーノ!あんなとこにめっずらしーもん売ってる!いってみよーぜ!」
「っ、こらそんなに引っ張るな。ったく…」
 ルキーノにぶちぶちと言われながらも、落ち着いた雰囲気のある雑貨屋へ脚を向けた。
「ほら、見ろよこれ!キレーな貝殻!」
 手にとってみたそれは、小さくて平たい形に純白色で光沢がある珍しい貝だった。日の光をあびたそれはキラキラと輝いていてそれは美しい。俺は今まで見た事もないものに、今まで感じた事のない高揚感を覚えた。
 すげえ、綺麗だ。
「ほう、傷ひとつないし光沢も輝いてる。いい品じゃねえか」
「なぁー!」
 こういうものには触れる機会がほとんどないから、こういう体験は俺にとって凄く貴重だ。いいなあ、綺麗だなあと思って見ているとふと横にいたルキーノがそれに手を伸ばす。
 ?、なにすんだ?
 不思議に思っていると、じっと店の奥にいた店主にそれを渡しお金を払うルキーノ。
「ル、ルキーノ?」
 それ買うのか?、とそういうよりも先に近づいてきたルキーノが俺の手に小さな紙袋を乗せた。
 え、これって今買った…?
 恐る恐る中身を覗くと、さっき見た輝く貝殻が包んであった。
「やるよ。」
「!?…いっ、いいよ!べつに欲しくて見てたわけじゃねえし…!」
 それにルキーノには俺が無理いって付き合わせてるようなもんだし。それなのに買ってもらうとかすげぇ悪い奴な気がした。
「なんだぁ?いらないのか?お前、人の好意は素直に受け取っとくもんだぞ?」
「でも、なんか悪ぃし…」
 俺が気まずそうにルキーノから目をそらすと、
「ばーか。なに気ぃ使ってんだ」
 そんな言葉とともに俺の頭をわしゃわしゃとかき回す手が下りてきて、なんか良くわかんねえけど、ホッとする俺がいた。
「俺が渡したいんだよ。つべこべいわずに持っとけ!」
 そういうとルキーノは俺の手に紙袋をつっかえしてきた。手の中にある紙袋に目を落とす。これ、もしかしてプレゼントってやつか…?ルキーノからは前にも誕生日プレゼントとか貰ったりしたけど…今日貰ったこいつは、特別な日以外の特別なプレゼントだ―――― やべぇ凄ぇ、嬉しい。
 自然と頬が緩んでしまう。やばい、にやにやしちまう。
 最初は物凄く愛想が悪くてとっつきにくかったあいつが、ここまでしてくれるなんてすっげー進歩だよなぁー!
「さ、次行こうぜジャン」
 そんな俺を知ってか知らずか、俺を呼びながらルキーノは先を歩き始める。
「あ、ルキーノ!」
 俺は慌ててルキーノの腕をつかんで呼び止める。危ない危ない。言い忘れるとこだったぜ。
「?…どうした?」
「これ、さんきゅーな!大切にする」
 そういって俺はそっとその紙袋をズボンのポケットに入れた。
 お礼を言うとルキーノの瞳が驚いたように見開かれ、すぐにそれは嬉しそうな表情に変化した。
「!…ああ。金髪わんわんのお気に召した様でよかったよ」
「わんわんゆーないい加減」
「ははははは!お前は犬だよ、ラッキードック!」
 くしゃくしゃといささか乱暴に髪を掻き回して、とても上機嫌なその様子に、まあたまには犬でもいいか、なんて思った。




 それから俺達は城下町を巡り、美味しいもん食べたり、店のおじさんと意気投合して支払いをタダにしてもらったりいろいろあって外の世界を楽しんだ。
 気が付いたときには、空はもう赤くなっていた。
「なあなあ!次は?何処行く?」
 まだまだ色々遊び足りない俺がルキーノを急かすと、ルキーノは少し困ったような顔をして俺の髪をわしわしと掻き回した。
「なあ、ジャン。もうそろそろ城に帰らないか?」
「え?もうかよぉ、もうちょっとまわろうぜ?」
 折角こんなに楽しい外に出られたっつーのに、またあの退屈でしょうがねー城の中に閉じ込められるのかと思うと嫌で俺はごねにごねた。
「だーめだ。お前は次期王子になるんだぞ?それにお前があんまり遅くなると、ジュリオも皆も心配するだろーが」
 うっ、そこを言われると痛ぇ。ルキーノはいつも俺の言われると弱いところをついてくる。だからいつも負けるのは俺なんだよなぁ。くそ、ホント俺ってば。
「クソ…わかったよ…」
 ルキーノのケチ!石頭!アホ!!あーつまんねー!
 そんな悪態をつきながらずんずんと歩いていると、今度は髪を少し優しく掻き回してきた。
「…まあ、そう拗ねんなジャン。また、連れてきてやるさ」
 そう優しそうに俺に笑いかけるルキーノ。それ、まじで反則だろ…ずりぃし。さらに面白くなくなってぷいとそっぽを向いてやる。
「拗ねてねえし!」
「はいはい。」
 そんな風に言い合いながら、俺たちはもと来た場所を引き返して城へと帰路についた。

「あ!お帰り、なさい…ジャン、さん…」
「うわぁ!!」
 ついて中にそぉっと入ると気配で気づいたのか、ぱっとジュリオが出て来て俺は若干る。他の兵隊かと思ったわ…びびったじゃんかよ…。
「お、おー…ただいまジュリオ」
「はい…あの、カヴァッリ様が先ほどいらっしゃって…今あちらに」
 突然の来客を伝える告白に驚き、つまづきそうになった身体をなんとか突っ張って耐える。オイオイーなんか今ヤバイ事聞いた気がすんだけど、気のせいカナー?
 ジュリオが差した方向は奥の食事場だった。
「まじ…?爺様が、なんで…今日来るなんて聞いてねぇぞ!」
「カッツォ…なんてこった!」
 しまったというように背後のルキーノが頭を抱える。
「なんでも、王子の生活態度の抜き打ち検査だとか…、あ、俺も…誤魔化したんですが…多分もうばれてしまっているかと…すいません、ジャンさん…」
 俺は項垂れたジュリオの肩を叩き、
「爺様の相手大変だったろ。ありがとな、ジュリオ」
「あ、い、いえっ…だ、大丈夫です」
 言うとジュリオは少し顔を綻ばせて嬉しそうに笑った。
「にしても、爺様今頃カンカンだろーなぁ…。…あークソ、しゃーねーか…」
 はぁと爺様がいるであろう場所を睨みつけて溜息をひとつ。クソ、まぁ、爺様だけだし。今日は1日すげぇ楽しかったしな、潔く怒られてやるか。
 ふと、背後の例の奴をみると何だか難しい顔をして考えこんでいる、その表情は暗い。なんか落ち込んでる、のか…?なんで?
「ルキーノ?」
「俺も行くぞ」
「はぁあ??」
 突然決断した、というように頷くルキーノに俺は呆気にとられる。なに言ってんの!?落ち込んでたんじゃねーのかよ!
「い、行くって?…まさか」
「あぁ。カヴァッリ様に会いに行くぞ」
「ッ、なんで!?別に俺一人でいいっつーの!ルキーノは関係ねーんだから!」
「なーに言ってやがる。お前を連れ出したのはこの俺だろーが。お前だけを行かせるなんてことさせてたまるか」
「違っ、それは俺が…!」
 ルキーノに、ねだったからで…!
「…ジャン」
 その声には強い意志が感じられて俺は思わずどもる。
「ルキーノ…。…はぁ、こっの…アンタ、ホント横暴だよな」
 しかたない、諦めるか…ルキーノがこうなったら止められないのはよく知ってる。一緒に連れて行くぐれぇならいい…よな?それにしても、こいついっつもごーいんだ。それでいて色男とか…たらしか、ばか。
 あーもうなに言ってんの俺…なんかもーつかれたわ。
「わぁったよ!!しょーがねーなぁ!、とっとと行くぞ!」
「grazie!行くぜ、お姫様」
 そう言って奴は俺に向かって不敵に笑った。くそ、こんな姿までかっけーとかホントなんなんこの部下…つーかそこはお姫様じゃないだろ…もうやだ…。
 それから俺とルキーノはカヴァッリ爺様がいる部屋の前に来た。どきどきしながらノックを3回。
「入れ」
「失礼いたします。……よし。おーい、爺様ー」
 短い声にピシッと入って中を確認すると、爺様意外誰もいないことに気づきホッとした ようにそう声をかける。
 が、次の瞬間には爺様の杖が俺に襲いかかり右脚にクリーンヒットした。
「うぐぅっ!?ッ、ッ〜!!な、なにすんだよこの…!…イテッ!った!!ッつ〜…」
 2度目のヒットが炸裂し、俺は文字通り痛みに呻く。つーか、まじそれいて〜し…。
「なんじゃその口の聞き方は!?コレが次期王子とは聞いて呆れるわい!」
「だからって殴…スイマセンデシタ」
 もう一発いっとくか?という仕草に俺はあわて立ち上がり距離をとる。
「大体なんじゃ!ジュリオに口止めしてまで勝手に城を外出しおって!お前は自分の立場がどれだけ重要であるかわかっているのか!?」
「っ、だ…」
 だから、とその言葉に言い返しそうになって身を乗り出すよりも早く、ルキーノが俺の前に出て頭を下げた。
「申し訳ありませんでした、カヴァッリ様。今回の件は私が独断でやったことです。処分は私に下して下さいませんか」
「ッ!?」
 ッハァア!?!?
 なにを言い出したのか、俺は驚愕で言葉も発せずにただルキーノの背中を見つめるしかなかった。
「なんじゃ、そうなのか?やつが外に出たいとごねたからじゃないのか?」
「…、…いえ、そのようなことは…私が無理に」
「っな、ッむ…!」
 なにいってるんだと反論しそうになった口を俺の前に立っているルキーノの手に塞がれて喋れなくなった。
 ックソ!!このッ…ルキーノの馬鹿野郎!!
 必死にもがくが力が強くて、とても外れそうにない。
「… はぁ、全く…お前達ときたら、わしを休ませる気はないのか。…分かった、この件はアレッサンドロに報告する。3日後にまた考えるとしよう」
「はっ、お心遣い感謝致します」
 そしてお辞儀をしたルキーノに引っ張られ何か言う間もなく部屋の外へ連れて行かれ…俺は結局カヴァッリ爺様とろくに話もできなかった。
 こんなの、聞いてねぇ!!
 クソ!なにかんがえてんだよ!あのアホ!!俺はずんずんと廊下を進むルキーノの背に、心の中で悪態をつくしかないのだった。

「いったい、どーいうこったよッ!」

 俺はルキーノに部屋に押し込まれるなり、開口一番噛み付いた。連れて来られたのはいつも俺が使っているプライベートルームだった。
「なんであんなこと…っ!」
「知ってるだろうが、この王宮にはお前を次期国王とさせまいと企む輩もたくさんいる。今お前の立場が揺らぐのはまずいんだ…だからこれが一番最善…わかるだろ?」
 なんだよそれ…それじゃ、まるでッーー

 ルキーノの勝手な言い分に俺は怒りに任せてさらに掴みかかった。
「わかんねぇよ!!何が最善だ!俺の事なのに、なんであんたが勝手に決めて勝手に行動してんだ!俺はッー…俺はそんなの望んでない!」
「ジャン…今回の外出は俺が言い出したことだ。だから、おれが責任を取らなきゃいけない」
「違う!それは俺がーーッ」
 反論しようと口を開いたが、それよりも早くルキーノが言葉を付け足した。
「もしあの時お前1人カヴァッリ様の所に行かせていたら!あの話はきっとすぐにお偉方の内に広まり、不味いことになってたんだぞ…!」
「は、あ?なんでだよ…だってあそこにはカヴァッリじい様しか」
 入る時にきちんと確認したはずだ。だからカヴァッリ爺様までで情報は広まらないからと思って…いつもみてーに怒られるだけだと、安心していたのに。
 だから爺様がむやみにひろめるはずもない。だったらやっぱりーーー
 と。俺の考えがハッとした表情で分かったんだろう。ルキーノは大きく頷いた。
「あぁ、そうさ。潜んでたんだよ、スクープ好きのパパラッチがな」
「ッ!クソッまじかよ…ッ!…でも、だからって…!」
 お前があんなこと言わなくっても。そう言いたいのが分かったのか、ルキーノは黙って首を横に振った。
「頼む、分かってくれ…ジャン。これが一番正しいことなんだ…」
 その言葉にカチンと来て、膨らんでいた感情が爆発する。
「ッ……正しいってなんだよ…ッルキーノだけが罰を受けて俺はのうのうとしてるのが正しいってのかよッふざけんな!!」
「ジャン…」
「なんだよそれ…それじゃまるでーー俺の犠牲になるみてーじゃんかよ…!」
 知らぬ間に俺の目には、涙が溜まっていた。
「それでいいんだ…。ジャン、お前は次の王になる男だ。次期王のお前の椅子を俺が死守出来るんだ、こんなことなんざやすいもんさ」
「うるせぇ!!俺はこんなの、絶対認めねえ!アンタに守って欲しいだなんていつ俺が言ったんだよッ勝手に決めて、勝手に自己完結すんな!!」
 そう勢いのままぶちまけると、またルキーノが何が言おうとする。
「アンタ、最低だ……!」
 それを遮り言葉を吐き捨てると、ルキーノがぴくりと反応したのが見えた。これ以上ルキーノと話しをしていたくない。そう思った俺は目の前のルキーノをすり抜けドアに向かった。
「…ッ、ジャン!………、…先に言わなくて、悪かった」
 去り際にそう言われ。だか、返事は返さなかった。する気力もなかった。
 ばたりと扉が閉まる音が背後で聞こえたと同時に走り出していた。どこにいくなんて分からずに、ただただ俺はがむしゃらに走った。
 とにかくこの場から逃げ出したかった。



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