小説 | ナノ

  めろめろランデヴー


 コツ、と良質な革靴の音を響かせながら、俺は颯爽と車から降り立った。久々に見る本部にたまらなく胸が弾んで、足早に本部の中に入る。堪えきれずににやにやと口元が緩んじまいながら、本部で絶賛仕事中であろう男のことを思った。ルキーノ、どーしてっかなあ…!今日まで俺は、お偉方との交渉の為に約二週間程NYへ出張に行っていた。腹と腹の探りあいを抜けて、長時間の粘りが続いた日々。出張14日めにしてようやくねじ込むように話を纏め、今日俺はやっとデイバンに帰って来ることができたのだ。本当この二週間は敵との抗争並にハードな戦いだった。もー纏まるまでに胃に穴が空くかと思ったぜ。
 そんなカンジであちらでもばたばたしてたから、ルキーノに会うのも実質二週間振りでーー…。会えなかったこの二週間、ルキーノとは電話で話したりしてやり過ごしてたけど、電話を消毒しなきゃなんねー手間のせいでそれも毎日とは行かねーし、声越しに会話する日々が続いてたから、どうにも向こうの状況も分かりずれーし…。とにかく端的に言うと、俺はかなりルキーノ不足なワケでして。
 出張行く前は、いくら忙しい中でも時間が出来れば会っていたのに、イキナリこうも会えなくなっちまって、会議のときでもアイツのこと考えちまうし、一人寝とか意識しちまうし、ふとした時に思い出したりしてもうとっくに色々限界だった。電話で言葉を交わす度、ルキーノの声とか感触とか思い出して、会いたくてたまらなくなった。あーもう…どんだけルキーノに染められてんだよ俺ってば…。
 ーーあぁ、クソ。早くルキーノに会いてえな。
 俺ははやる気持ちを抑えながら、エレベーターに乗り込んだ。でもまずは、交渉の事をベルナルドへ報告しに行かなきゃならない。ルキーノに会いに行くのはそれからだ。…仕事大事。
 すぐにチン、という音と共に、扉が開いてそのままベルナルドの執務室へ向かう。執務室の前まで来ると、扉の前の部下に軽く手を上げコンコン、と扉を数回ノックをした。
「どうぞ」
 中からいつもと変わらないベルナルドの声が聞こえて、俺は妙な懐かしさを感じながら扉を開いた。
「よおベルナルドー、おつかれちゃーー……ん?」
 いつもと変わらない調子でそう話かけて、ベルナルドがいるであろう執務机の方を見て、思わずぴたりと動作が止まった。
「やぁ、ジャン。お疲れさま」
「ようやく帰ってきたか、ご苦労さん」
 執務机の近くには、ベルナルドとこの後真っ先に逢いに行こうと思っていた、ルキーノが変わらない様子でそこにいた。
「え、ルキーノ!なんでここに」
 驚いて思わずルキーノがいる方へ駆け寄るとわしゃわしゃと頭を撫でられる。う、なんか懐かしーなコレも。
「帰ってきたら、ここにくるはずだと思ってな。報告ついでに待ってたのさ」
 それ当たった、と言わんばかりに笑うルキーノに背中がむず痒くなる。待ってたとか……ルキーノも少しは俺に会いてーとか思ってくれてたんかなー…とか思ったり。
「ふーん…」
 誤魔化すようにふい、と顔を逸らしてみると、照れてやがる、とまた笑われた。
「うっせー……っと、それより報告書!」
 ルキーノを横目で睨むと、手に持っていた報告書の存在を思い出して、慌ててそれをベルナルドに手渡した。
「あぁ、すまないね。で、交渉の方は上手くいったかい?」
「上々。お相手サンが途中でポカやらかしたお陰ですんなり行ったぜ」
 交渉の時の一連のことを思い出して俺がケラケラと笑うと、ベルナルドは興味深そうに眼鏡のつるを押し上げてこっちを見た。
「それはそれは。とても興味をそそられる話だ。是非聞きたいね」
「ン、…、…まあ……いずれ、なー」
 わくわくしながら話を促すベルナルドに、俺は誤魔化すようにへらりとした笑みを向ける。
「おや。…なんだい、今日は随分釣れないんだね、ハニー」
 それが不服だという態度を隠そうともしないベルナルドが、執務机に頬杖をついて此方を見やった。俺はそれに苦笑いを浮かべる。…何時もなら、あったことをぺらぺら話すんだけど、今日はちょっと違うんだよな。なんせルキーノといつぶりかの、待ちわびた再会だ。俺はとにかく早くルキーノと二人きりになりたくて…つまりは報告なんかそっちのけで今すぐルキーノとふたりっきりになりたいのだ。本当だったらさっきだって真っ直ぐルキーノが居るだろう執務室に飛び込んで行きたかったしなあ。
「ゴメンね、ダーリン。ちょっと今日は色々あってさー…また時間ある時に話すわー…  あ、もう報告済んだから、行ってもいいか?」
「……わかったよ。お前も、長期の出張で疲れてるだろうしね。仕事はいいから明日まで休むといい」
「ワオワオ!流石、ベルナルドおじちゃん太っ腹〜。じゃあお言葉に甘えるぜー」
 ベルナルドはやっぱり頼りになるし優しいわん。思いがけない半日オフについ頬が緩む。ヤベェ、休みなんて何日ぶりだよ〜…!
「じゃあ、部屋戻るな。またな、ベルナルド」
「ああ。おやすみ、マイボーイ」
 俺はすい、とルキーノに目配せした後、ベルナルドにそう挨拶してから執務室を出た。ルキーノも適当にベルナルドと話した後で俺に続いて執務室を出た気配がする。ちら、と振り向くと俺の後ろについてくるルキーノの姿。ルキーノはなんだかにやにやしながら俺を見つめていた。
「なあ、ルキーノ。アンタ、この後は?」
 そう聞くと、ルキーノは待ってましたとばかりにより一層笑みを深くする。そのまま後ろにいたルキーノは俺の隣に並んだ。
「お前が帰ってくるって分かってるのに、俺が仕事を終わらせていないわけないだろうが」
「ッ、な……ばかじゃ、ねーの…」
 それって、俺が帰ってくるの準備して待ってたって事だろ…も、なんだよ…この色男は!あー、クソちょっと喋ってルキーノの顔見ただけでもうダメだ。あの狸親父どもの前では完璧に演じられていたポーカーフェイスもこいつの前では、全くできなくなっちまう。全てをさらけ出されて、俺はもう――ホントこの男にメロメロらしい。
「ジャン、部屋ついたぞ。ほら入れ」
「ン……」
 ぼっ、とルキーノの事を考えていたらいつの間にか本部に備え付けの俺の部屋についていた。ルキーノが扉を開いて言われるままに部屋に足を踏みいれるとルキーノも続いてずかずかと入ってきた。押し込まれるように玄関に入れられてむっ、と振り向いたと同時に、がちゃり、と部屋の鍵が閉まる音がした。ぽかんとしながらルキーノに目を向けると、こちらを見る綺麗なローズピンクの瞳とぶつかる。
 ――ッ、なんだ………?
 不思議に思った次の瞬間には、力強い腕が背中に回り暖かく心地良い唇が俺の唇に合わさっていた。
「―――ッジャン」
「ふ…ぇ?……ぁ、ふ、ンう……、っ…はぁ……んむ…ぅ」
――ぁ、ルキーノのキス、…。
 二週間ぶりの、ああ何回待ちわびたか分からないこの感触、匂い、体温。ルキーノの首に腕を回すとさら、と二週間前までよく触っていたあの赤い髪の感触が伝わってきて、たまらない気持ちになる。
 ――ああ、ルキーノ、だ……。
 俺の下肢は触っても居ないのにもうギンギンに膨れ上がってしまっていた。ルキーノが腰を押し付けるので、ルキーノのモノの熱さもダイレクトに伝わってきてさっきからもどかしい快感が俺を渦巻いていた。
「んう……はっ、ぁ、…るきーの……」
「――ッふ、はあ……やっぱりお前に2週間も触れられねえのは、勘弁だな…滅茶苦茶に犯してやりたくなる」
 苦笑交じりでそんなことを言ったルキーノの瞳が欲望でぎらついてるのを見て、得体の知れないぞくぞくとした快感が俺を襲う。なんだよそれそっちこそ勘弁だっつの、と笑い飛ばしてやりたかったが余裕がないのは俺も同じだった。だから、ルキーノの耳に顔を近づけて精一杯の挑発の言葉を囁いてやったのだった。
「――俺を…滅茶苦茶にして、ルキーノ」



END


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