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  ハッピーハロウィン!


 10月31日。秋の収穫を祝うハロウィンという一大イベントが開催されるこの日、俺たちーー幹部は大忙しだった。院の子供らにお菓子を配り、お偉方のご子息にも隙なく渡し、挨拶しなくてはならない。極めつけはイベントに乗っかったパーティの開催だ。当然のごとく一日が終了した後、過労により皆屍と化してしまう。ーーーそれは、カポも例外はないようで。
「……くぁ」
 プライベートルームに入ってみると、カウチに横たわって熟睡しているジャンカルロの姿を見て、俺は思わず微笑を浮かべた。無理もない、疲労に加えて、とっくに子供は寝静まった時刻まで仕事をしていたのだ。ジャンはそれでも、やることを終わらせてきたのだろう。もう少し予定を調整してやれば良かっただろうか。俺は後悔仕掛けるが今考えても仕方ないと洋服に手をかけた。…とりあえず、服を着替えるか。
 そこでようやく俺は、しっかりと辺りを見回した。部屋の電気は付けっ放しで、靴は無造作に脱ぎ散らかされていた。ジャンは、ネクタイを緩めただけで、パーティ用のコンプレートを着たまま眠っている。きっと本当に疲れきっていたから電気を消す気力も、ベッドまで行く気力もなかったのだろう。
「ジャ……」
 思わず揺り起こしてしまいそうになり、ハッと慌てて口を紡ぐ。こんなに熟睡しているから、起こしては可哀想だ。できることならゆっくりとこのまま寝させてあげたい。しかし、着替えもせずカウチに寝ているこの状態のまま、寝かせてしまうのも如何なものか…。しばらくどうするか考えた俺は、結論を出した。
「…よし」
 ジャンを寝室まで連れて行き、皺がつかないようコンプレート一式を脱がしてしまおう。俺は早速ジャンをそっと腕に抱きかかえた。
「…っんう」
もぞりと身動ぎしたジャンにどきりとする。だが、幸せそうに寝入っていて綺麗な蜂蜜色の瞳が現れることはない。それに安堵しながら寝室の扉を開けると、ベッドにそっとジャンを下ろした。
「ほら…ジャン、皺になると不味いからコンプレート脱がすよ」
 寝ているだろうがジャンに小声でそう言うと俺はネクタイを取り去り、上着のボタンを外す。
「んにー…」
 くすぐったいのかむずがるように身をよじるジャン。ぷるぷるの唇が薄く開かれ、意味のない音を紡いでとても可愛い。そんな誘うような顔して。思わずキスをしてしまいたくなるじゃないか。
 ぐっ、と欲望を抑えながら、腕を持ち上げ上着を脱がせると、俺はそれを横のサイドテーブルに置いた。
 と、コトとサイドテーブルから何か落ちた音がする。
「ん…?」
 何だ…?サイドテーブルに何か置いていたか?暗がりでよくわからないが何かの箱のようだ。それを拾いあげるが暗くて何かわからない。ジャンには悪いが、正体を確認するため備え付けのスタンドライトをつけた。部屋にオレンジ色の光が細々と灯る。
「…ぅ、んー…」
 眩しいのかジャンは顔を顰めたが、また規則正しい寝息が聞こえてくるのにホッとした。さて、と手の中のものに目をやると、落ちたそれは青色の包装紙で包装され、シルクのリボンでラッピングされた長方形の箱だった。
「…プレゼント、か?」
 一体誰に?何故こんなところに?
 不思議に思っていると、箱の表面にリボンに挟まれたカードがあるのに気がつく。白い紙が二つ折りになったカード。俺はどきどきしながら、恐る恐るカードを抜き取り、開いて中身を見る。

ーーーベルナルドへ
おけーり、おつかれちゃん。一日頑張ったダーリンにご褒美を用意したよん。だから悪戯はナシだぜ?ハッピーハロウィン、ベルナルド。

 そこには、ジャンの字でそう書かれていた。
「ッ…!」
 ジャン…!
 一瞬で疲れが吹き飛び、じんわりと嬉しさが染み渡るのを感じた。いますぐにでもジャンを抱きしめたいのを必死に耐える。カードにもう一度目をやり、俺は思わず破顔した。
なんて可愛いことをするんだろう!そんなに俺を喜ばせてどうする気だい?
嬉しさに頬がでれでれに緩んだまま、中身が気になる俺は包装をゆっくりと解いた。ご褒美、そう書いてあったが一体なんだろう?
 カサリ、と包まれたものを解くと、中から出てきたのは黒い箱だった。
 箱の表面には小さな文字で「For you」と書かれている。
「…なんだ?」
 蓋をぐっ、と上に持ち上げ、開いた箱の中身を見る。
「あ…」
 開いたそれから現れたのは、綺麗に並べられたいい香りがするクッキーだった。クッキーの形は様々で、ハート形やカボチャ形、さらには俺をかたどったものまであった。
とても美味しそうだ。せっかくだからと一枚摘み、口に運ぶ。
サクリと音がして、口の中にカボチャの甘みが広がる。甘過ぎなく自然な味でサクサクして、シンプルでいうなら俺好みだ。
「ーーとても美味しい」
 糖分が疲れている身体に染み渡り、じんわりと元気がでてくる。俺のためにわざわざ作ってくれたのか。ジャンだって今まで仕事で忙しかっただろうに。
「…ジャン」
 俺はそっとジャンの表情を盗み見る。ジャンの口元は緩んでいて、幸せそうに眠っている。そんなにうれしそうに…、楽しい夢でも見ているのかい?
…ジャンはどんな想いでこれを作ってくれたんだろう。ダーリンに悪戯されたら困るからなー、なんて言い訳しながら手作りして、今日を楽しみにしていたのだろうか。けど、結局お互い忙しくてそんな暇もなくて。だったらってメッセージ書いて、俺を待ってるうちに寝ちゃった?
 どうであれ、ジャンが俺の為にしてくれたことがとても嬉しい。俺はジャンが寝ている横のベッドに座ると、キラキラ輝く金髪をそっと梳いた。
「ーーー素敵なプレゼントをありがとう、ジャン」
 お前が居てくれてよかった…本当に。そう呟いて俺はちゅ、とジャンの額にキスを落とす。悪戯は出来ないから、感謝のキスくらいは良いだろう?俺は箱の蓋を閉めて元に戻すと、ポケットにそっとしまう。これは大事にとって置いて、後日ゆっくりと味わうことにしよう。
 俺はポケットから隠し持っていたものを取り出す。実は俺もジャンへのお菓子を用意していたのだ。ジャンの好きな色とりどりのキャンディを詰め合わせたお菓子。俺もジャンと共に祝えればいいとこっそり数日前から温めていた。どっちもプレゼントを用意していたなんて、息がぴったりでとても素敵だね。
 明日になれば、もうハロウィンは過ぎ去ってしまうが、このお菓子はサイドテーブルに置いておこう。そうして朝目覚めて、箱に気づいたジャンに微笑んでこう囁くんだ。
「ーーハッピーハロウィン、ジャン」


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