小説 | ナノ

  please eat me.


「うあー、うんめー…これ!やっぱベルナルドが連れてきてくれる店は最高だなぁー!」
 この絶妙な味付けがもうたまらん。さっすがベルナルド、俺の好みを把握しつくしてる。ああホント、ベルナルド万歳。
「それは光栄至極。ジャンのおかげで、あのボルツァリーニ氏との土地交渉を最高の条件で取りまとめられたからね。今日は遠慮しないで食べていいよ」
 そう言ってベルナルドは、ばくばくと食べる俺をみながら上機嫌に笑う。なんだかとっても嬉しそうネ。顔がにやけてるわダーリン。普段は冷酷なマフィアの幹部筆頭としての顔をみせてるクセに、俺の前ではこんなでれでれに緩みきった顔してやがるんですもの。
「ワアイ、やったぜベルナルドの奢りか!ならここのメニュー全部食い尽くしちゃる。……つーかさ、あの爺さんとの交渉ってそんな喜ぶほどだったか?終始ニコニコ顔で、簡単に了承してくれたような気するけど」
 今日俺は、ベルナルドと交渉にしに行った。普段はこーいうの俺は着いてかねぇし仕事は別々なんだけど、今回は特別。その交渉の場に、CR-5とは古くから良いお付き合いをしてくれているお偉方―――ボルツァリーニ氏が俺の同行を要求して来たからだ。そういう訳で今はその仕事も終え、2人…成功のお祝いに店で食事っつーわけだ。
「フハハ、そう見えたかい?あの方は考えや表情を表に出さないことに長けているからね。あれは賭けだったのさ。そしてお前は勝利を勝ち取ったんだ、ラッキードック」
「ハァア?どーいう意味だよ、サッパリワカンネーんだけど?」
 ダーリンってたまに難しいこという。俺は、むしゃりとハムと野菜のサラダを頬張りながら分かり易い説明を要求する。
「ボルツァリーニ氏には前々からよくウチの組を支援していただいてね、今まで良好な関係を保っていたんだが…その、ジャンがボスになってからこのまま関係を保っていいのか、判断したいと言うのでね。それで今回お前が交渉の場に付くことになった」
「へー、あの交渉の理由ってそんなんだったのかー。聞いてなかったワ」
 なんとなく聞きそびれたんだよな。
 つまりは、新しい二代目カポがどんな野郎か、支援するほどの価値がある人物なのか見定めたいからということらしい。そりゃ、あのオヤジの後釜に付く奴がこっちに危害があるやつかどうか分からないまま、交渉は出来ないわな。
「ああ。だからさっきも言った通り、これはCR-5の支援者を一人味方になるか、敵になるかの重要な賭けだったんだよ。そしてその賭けにジャンは勝った」
 ベルナルドはもうすぐ無くなりそうなワインのグラスを傾けながら笑う。それはなんかテストで満点を取った子供がそれを自慢するような様子で。おじちゃん、やだーそんなうっとりした目でこっちみないで。なんか色気駄々漏れなんですケド。
「フーン。あー、そーいう事だったわけネ」
 ベルナルドの視線をわざときづかないフリをしてしれっと返事を返す。
 でも、そーいえば最初あった時は、探るような目で見てたよなァ。俺は、今日の一連のことを思い返す。
 ボルツァリーニ氏の第一印象は物腰柔らかい爺さん、って感じだった。そんで、確か交渉に入る前に歓談してたら会話が盛りあがってすんなりと、交渉まで辿りつけたんだよな。ベルナルドが言うんだから、こういう駆け引きが難しい相手だったんだろう。マァ、なんかしらんけど俺のこと気にいってもらえたってことなんかね。ヨカッタ、上手く行って。
 やっぱ、まだまだ俺がボスってことに反発を持つ奴らは少なくないからな。味方が一人でも多いにこしたことはないし。
「フハハ、この幸運に恵まれたのも、ジャンのおかげさ。本当に、お前がいてくれてよかった。」
「…やめろ、照れるだろーがよう」
 そんな直球に言われると。なんでさらっとそーゆーこと言えちゃうかなオジチャン。オジチャンだからなの?年のせい?
「ハハハ、恥ずかしがってるジャンも可愛いな」
 ベルナルドサーン、ここどこだか分かってますー?レストラン!ご飯食べるとこなのに、なんで俺口説いてんだよう…!
「うっせぇばぁか…」
 よし、もう食べる事に専念しよう。ウン。
 俺は、テーブルにある料理を端から掬って口に運んでいく。あ、このパスタうめー。
「……」
 ダーリンはその様子をじっと見てるだけで、ちびちびワインを飲んでいる。
「…ベルナルドは食べないのけ?これとか、旨いぜ?」
 ほら、と皿のひとつを指差すとベルナルドが困った表情になる。
「んー…俺はもうお腹一杯かな。ジャンが食べていいよ」
 そんな事言って。さっきから料理に全然手ェつけてないの知ってるんだからな。
「ったく、アンタ普段から全然食べないよな。そんなんだから痩せてんだよ」
「おや、心配してくれてるのかい?…そうだね、じゃあハニーが食べさせてくれよ。そうしたら、食べれるかもしれないな」
にや、とベルナルドが楽しそうに笑みを浮かべる。
 突然なにいってんのこのヒト!?
「は、ハァア…!?ふ、フツーに食べればいいだろ…」
「なんだか、食欲が沸かなくてね。ジャンが食べさせてくれれば食べられると思うんだけどなあ」
ベルナルドは、このまんまだと死ぬかもという仕草をして俺を見る。
 ずりい、それ。なら、食べさせてぇとか思っちまったじゃねえか。
「ここ、どこだかわかってるの?オジチャン」
「もちろん。だけど、…してほしいな。大丈夫、今は客も少ないし、あっちで演奏を披露してる奴もいる。わざわざこっちを見るような物好きはいないさ」
 まあ確かに、皆薄暗くなった店内でスポットライト浴びた演奏者に気を取られてるケド。……まあ、いっか。ダーリンをぶくぶくに太らせる為だと思えば。
 俺は、さっき指差した料理を行儀悪くもフォークで一突きにして、それをベルナルドの口元に持っていく。
「ハイ、ドーゾ。ダーリン」
「グラッツェ、ハニー。…ん。とても美味しいよ」
 それはよかった。
 満足したらしいダーリンに、もっとたべろよ、と声をかけて俺は自分の食事に戻る。
「ん、これもいける…ッン」
 さっぱりしてて旨い。料理に夢中になっているとベルナルドの手が俺の方に伸びてくる。
「?」
 その手をじっと見つめていると細い指の先がつ、と俺の口の端をなぞる。なにしてんだよ、と視線で問うとベルナルドはその指先をそのまま口に含む。
「ソースついてる。」
「ッ…!」
 指舐める仕草がエロいんだよ、エロオヤジ!…このお、言われれば自分で取りますし。なんっでそーいうこと平気でやれちゃうのダーリンって...タラシめ。そんな嬉しそうに見つめられるとこっちが恥ずかしくなるわ!
「遊んでるだろお、ベルナルド?」
 なんだかさっきから俺で遊ばれてる気がする。くそう、ムカツク。
「フハハ、ごめん。ジャンの反応が可愛くてね」
 なにしれっと言ってんだ!ベルナルドは俺の不機嫌丸出しという表情を見て、そのアップルグリーンの眼を蕩けさせて嬉しそうに笑う。ウッ、そんな顔したってほだされネーかんな。というか、いちいちときめくな、俺。
「ハイハイ。ッたく、とっとと料理食べちまえよ。冷めちまうぜ。」
「フ、ああ。そうだね…ジャンを食べる前に料理を食べるとするかな」
「ッ、アンタなあ!」
 さらっとオヤジ臭い発言すんな!つーかいくらあっちで演奏してるからってちったあ場所考えやがれこのダメオヤジ!
 あんなこと言うから思わず水を口から吹き出しそうになった。アブねえ。
 慌てて口を拭きながら睨むが、そんな視線などなんでもない風に黙々と料理を口に運ぶベルナルド。気が付いてるクセに、しれっとしやがってこのやろ。
「.........オヤジめ」
「ん?好きだって?」
 …ハア、ハイハイ。もう突っ込むのにも疲れたわヨ、オジチャン。ベルナルドの頭の中って色で例えるとしたら絶対年中ピンク色だよな。なんか常にエロいこと考えて妄想してそう。うう、ホントっぽいのがやだ。
 さっきから俺で遊ばれてるし、なんかむしゃくしゃしてきた。クソァ、この妄想オヤジに一発泡吹かせてやる...。
 俺のむすっとした顔で不機嫌さがわかったベルナルドが俺を見て、苦笑する。ヨユーかましやがって、いまに見てろ。俺はベルナルドに不敵な笑みを向ける。
「………、」
 俺になにか言おうを開かれた口は、俺の行動を追うことに気を取られてそれ以上何か発することはなかった。
「ジャ―――」
 自分のネクタイを見せ付けるように緩めてから、俺はベルナルドの空いてるほうの手を取り、指先をそっと唇に持っていく。
「―――ッ」
 ベルナルドが息を飲んだのが分かる。俺は、その指先を見せ付けるようにぺろり、と舐め上目遣いで見上げて誘うような顔をする。なるべくこいつが興奮するように。

「――――おれを食べて、ベルナルド」

 ベルナルドに妖艶な笑みを向けると、ベルナルドの瞳に獣じみた光が灯る。どうやら俺の思惑は成功したらしい。煽っても、ここじゃイタせねーし帰るとしても、まだ食事中だしな〜ふふん、せいぜい焦らされるがいいワ!ここでベルナルドのこと煽りまくった挙句、風呂入ってる隙に寝ちゃる。散々俺で遊びやがったんだ、このくらいの仕返しは許してくれてもいいと思う。
 さーて、悔しがる顔でも…、とその手を離そうとしたところで逆に握られて、そっちを見ると――――


「…仰せのままに、マイスイート」


 そこには、さっきよりもヤバくて...なんつーか、恐ろしく危険を感じるエロい顔で不敵な笑みを浮かべる男―――ベルナルドがいた。

                         


                         END




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